閑話:二階堂朱音の回顧録

 今回は閑話で、朱音お姉ちゃんのモノローグです。

 一度キスした相手は出番が減るので、こうしてたまに閑話を挟んでいけたらと考えています。

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【閑話:二階堂朱音の回顧録】


 幼馴染のプーちゃん――王子野王子くん――は、私にとって弟みたいな存在よ。

 それもとびっきり世話のかかる弟ね。

 どれだけ世話を焼いてきたかというと――


 女性アレルギーがバレそうになって泣きついて来たり――

 しつこく女子に付き纏われて泣きついて来たり――

 嫉妬から男子にイジメられそうになって泣きついて来たり――


 ――とまあ、彼が泣きついてくる度に、いろいろとフォローをさせられてきたわ。

 まったく、プーちゃんは昔から、私がいないと何もできないのよねぇ。


 ――え、それだけ手を掛けさせられて、迷惑だったんじゃないかって?


 ううん、全然そんなことないわ。

 だって私ってば、人の世話をするのが大好きな人間だもの。


 私は自分の事を、人の上に立つ人間ではなく、下で誰かを支える方が向いている人間だと思っている。

 今、私が副生徒会長をしているのも、そんな自分の性格のせい。

 だって私は――人の役に立っていると感じる時が、一番幸せだと感じるんだもの。


 そんな私にとって、世話のかかるプーちゃんほど、愛せる弟はいないわね。


 私とプーちゃんの出会いは、私が小学四年生の頃。

 近所に引っ越してきた一つ年下の男の子、それがプーちゃんだった。


 プーちゃんは母子家庭で、母親が働いている間はいつも家で一人っきり。

 そんな彼を、近所のよしみで私が面倒をよく見るようになった。

 元来の世話好きである私は、彼をまるで『妹』の様に可愛がったわ。


 ――そう、『妹』のように。


 小さいころの王子はそれはもう可愛くて、まるでフランス人形のように愛らしかった。

 だから私も、彼を男ではなく『ボーイッシュなボクっ子』だとずっと勘違いしていたの。

 彼の『プリンス』という名前も、てっきり外国の女の子の名前なんだと思い込んでいたし。

 おかしな体質も『異性アレルギー』ではなく『同性アレルギー』なんだと理解していた。


 だから中学進学で、彼が男性用の制服を着てきたときには驚いたわ。

 男だったと気付くより先に、「LGBTだったんだ」と思ったくらいよ。

 その事を正直に話したら、プーちゃんったら、出会って初めて本気で怒っていたわね。


 ――そういえば、それからだったかしら。

 プーちゃんが自分の事を『俺』と言うようになって、名前も『プリンス』ではなく『おうじ』と読ませるようになったのは。


 ――ともかく。


 そんな関係だったからか、今までプーちゃんの事を一度だって異性として意識した事はなかった。

 確かにプーちゃんはイケメンだし、中学に入ってモテまくっていたけれど、それを見ても「女性アレルギーなのに大変ねぇ」程度にしか思っていなかった。

 私にとってプーちゃんは妹――じゃなくて今は弟。

 彼がどれだけモテようが、私にとって恋愛対象にはなりえなかった。

 そしてそれはプーちゃんも同じだと思っていた。


 それなのに――。


 プーちゃんたら私に「キスしてくれ」って言いだしたのよ?

 信じられない!

 私だって女だから、さすがに言い寄られるとドキドキして、初めてプーちゃんを男として意識しちゃったじゃない。

 理由を聞いたら仕方がないと納得したし、プーちゃんも私の事を姉としか思ってないって分かったけど。

 だから私も、最後にはあくまで姉として、仕方なく弟に協力してあげたわ。


 そう、あくまで姉としてよ。

 一瞬ときめいちゃったのは気の迷い。

 ダメな弟の世話を焼くのは、お姉ちゃんとしては当然の事だし。


 だからこれからも今まで通り。

 私とプーちゃんとの関係は、姉弟のままずっと変わらないわ。


 ……たぶんね。

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