王子とギャル黒子

 今回メタネタ注意!

 ……評判が悪いようならやめます。

――――――――――――――――――――


 ■■十文字黒子の独白■■


 王子様とのキス――。

 黒子にとって、その出来事は青天の霹靂だった。


 ――――――彼女は考える。


 誰も私の事なんて気にしない、他人と比べて何の取柄もない、自他共に認めるモブ女。

 世間にとって私の存在なんて、路傍の石程度の価値しかない。

 それが私の自己評価。


 だからこそ特別な存在である王子先輩に憧れた。

 私とはまるで正反対の、同じ人間なのかさえ疑わしい存在――。

 みんなから愛され、注目される、『嘉数高校のプリンス』――。

 まさに世界の中心にいるような人――。


 手が届かないからこそ恋焦がれた。

 遠くから見ているだけで幸せだった。


 なのに……。


「王子先輩……どうして……」


 どうしてあの人は、私なんかにキスしたんだろう?

 どうしてあの人は、私なんかを選んだんだろう?

 どうして? どうして?


 ああ、もしかしたら――


 もしかしたら私は――――――



     *



 二度目のキスをした翌朝。


「お――っ! 魔方陣が一つ消えてる!」


 脱衣所の鏡に向かって尻を突き出す王子。

 鏡に映った王子の生尻の、左側の魔法陣が消えているのを確認する。


「ホントにキスで呪いが消えるんだな~!」


 気分上々で身だしなみを整えると、王子は足取り軽く家を出た。


「しかもあっさりとキスできちゃったし。

 我ながらイケメンは得だよなー」


 電車に乗り、学校の最寄り駅に到着。

 王子の様子はいつにも増して上機嫌だ。


「でもこれ、解呪なんて案外簡単にできちゃうんじゃない?

 あと8人でしょ、俺のモテ力なら楽勝だよきっと」


『おうおう、調子乗っとるなぁ~。

 けど王子、油断は禁物やで』


 浮かれまくる王子に、カバンの中のイアンが釘をさす。


『現実は恋愛シミュレーションのように、女の子攻略したらエンディングってわけにはいかんからなぁ。

 キスした以上、ただでは済まんで。

 現実はむしろここからが本番や』


「……は? それってどういう……」


 イアンと話しながら改札へ向かう王子。

 そのとき――


「王子~♡」


 ――甘えた声をあげながら、改札の向こうから手を振る女生徒の姿が見えた。


 ブロンドの髪を巻いて盛ったヘアスタイル。

 アイラインのくっきりした濃い目のメイク。

 大きめの制服を着崩してスカートは短め。

 分かりやすいギャルファッションで身を固めた女子だ。


 ただしその恰好には違和感を覚える。

 本当のギャルというより、無理矢理ギャルのコスプレをしているような――。


 そんな彼女が、改札を抜けた王子の元へと駆け寄ってきた。


「も~、遅いよ王子ったら。

 一緒に学校に行きたくて、ずっと待ってたんだからね」


「へ? え、えっと……」


 親しげに話しかけてくるその女の子に、王子にはまったく見覚えが無い。

 しかもその子は王子に腕を絡めると、「さ、行こ」と学校の方へ歩き出す。


「ちょっ、ちょっと待って!

 き、君はいったい……?」


 慌てて王子が尋ねると、その子はころころと笑って答える。


「やだぁ、何言ってるのよ王子?

 私よ、十文字黒子よ♡」


「――ぬぁっ!」


 目を見開いて驚く王子。


「えっ? うそでしょ?

 いや、だって……その髪は……?」


「ああ、コレ?

 王子とおそろいにしてみようかなって。

 どう? 似合う?」


 地味子から金髪ギャルへと変わり果てた黒子。


「眼鏡もコンタクトにしたし、メイクも制服も雑誌見て勉強したの。

 だって王子のカノジョになったんだもん♡ 

 王子にふさわしい女にならなくちゃ!」


「カ、カノジョ!?」


 そんな黒子の様子に、王子は目を白黒させるのだった。



     *



 ――ヴヴヴヴヴ


 スマホのバイブが反応する。

 SNSアプリへの着信だ。


「…………」


 無言のままそれを未読スルーする王子。

 見なくてもわかる、黒子からのメッセージだろう。

 今朝からずっと、五分おきにメッセージが届いている。

 授業中もお構いなしだ。


 いや、むしろ授業中はまだいい方で――


「王子~♡」


「うわっ! また来た!」


 休み時間の度、そうやって王子の教室まで押し寄せてくる黒子。

 ザワつくクラスメイトもお構いなしだ。


 そして昼休みも――


「王子~♡

 お昼一緒に食べましょう!」


「わ、悪い!

 クラスメイトと約束があるから!」


「そっか~、仕方ないなぁ。

 それじゃお弁当だけ渡しておくね♡」


 渡されたのは三段重ねの重箱。

 席に戻って開くと、中にはにぎっしり黒子の手作り料理が詰まっていた。


「わー、豪華だなぁ……」


 死んだような目で呟く王子。

 そんな王子の周りに、クラスの女子たちが集まってくる。


「どうなってるの王子くん! なんなのあの一年?」

「まさか付き合ってるの? あんなイタイ恰好の一年と?」

「そんなわけないよね王子くん! 正直に言って!」


 信号機ガールズが中心になって、クラスの女子たちが黒子の事を詰問してきた。


「い、いやその……それが……」


 その迫力にいつもの王子様キャラも忘れ、しどろもどろになった王子は――


「ご、ごめん、行かなきゃ!」


 ――イアンの入ったカバンを取ると、弁当を置き去りに、一目散に教室から逃げ出した。


 ――――――

 ――――

 ――


「ちくしょう、何なんだあの女?」


 校舎裏まで逃げてきた王子は、ようやく一息ついて愚痴りだす。


「昨日とキャラ違いすぎるだろ!

 キスしただけでカノジョ気取りとかありえないって!」


『だから恋愛ゲームとは違って、現実はこれからが本番やって言うたやろ』


 バッグから顔を出したイアンが、予想が的中した事を得意げに語った。


『とはいえキスだけであそこまでキャラ変するとは、さすがの俺様でも分からんかったけどな』


「何だよ現実って!

 ゲームみたいに攻略したらエンディングでいいじゃないか!

 追加エピソードなんて蛇足もいい所だろ!

 もしくは憑りついた〇け魂をキスで退治する某漫画みたいに、キスの後は記憶失くせよ!

 そういう設定にしてくれ!」


 愚痴が止まらない王子、ついには設定にまで文句を言い始めた。


 だが――。


 残念ながらそれはできない相談だ。

 キスしたら記憶がリセットされる――そこまで設定を寄せてしまったら、パクリと言われても言い訳できなくなってしまう。

 この小説はパクリではなく、あくまでサ〇デーラブコメの金字塔、“神のみが知っている”某漫画の、オマージュでインスパイアでリスペクト作品なのだ。


 ――それはともかく。


 泣き言を吐く王子の肩をポンポンと叩くイアン。


『困っとるならいつでもアドバイスしたるで』


「いらないよ!

 イアンのいう事だけは絶対に聞かないからな!」


『ならどうするんや?』


「う、うーん……。

 と、とりあえずアカ姉にでも相談してみよう……」


 解決策も見つからず問題を先送り。

 いつもの優柔不断な王子だった。

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