スピーチ
「休めばよかったのに」生徒総会当日、控室で頭を抱えて悩むオレにもっともな意見を真はぶつけていた。
「そうだよなぁ! 素直に副会長に任せればよかったのになぁ!」
「台本をそのまま読めばいいのでは?」
「そんなみっともないことできるか」言いながら時計を確認する。あと十分もすれば開会の挨拶が始まるだろう。「醜態を晒すよりよっぽどいいですけどね」しれっと正論を吐く真。
最近、あいつのほうが賢いのではないかと思うときがある。
「こういうこと、なんていうか知ってるか? 飛んで火にいる――」
「夏の虫」間髪入れずに真は答えた。
「よくできました」立ち上がり、自嘲気味に言ってやる。「この状態がまさしくそれだ、おぼえとけ」
さてどうしようか。いまさら副会長に代わってくれとはいえない。かといってスピーチをすっぽかすなんて論外だし、いよいよ進退窮まってきた。
間違いなく今までで一番のピンチだ。いっそ祈りながら根性で乗り切ろうかと考えていると真から「あっ、じゃあこうしたらどうですか?」なんて提案を打診された。
十分後の講堂。壇上で、俺は叫んでいた。
「最近の諸君の生活態度はなんだ!?」壇上から生徒全員を指で追っていく。左から右へスライドさせ、全員に言っているのだと強調。生徒は、固唾をのんでこちらの発言に耳を傾けている。
「確かに」声のトーンを落とし、階下の生徒たちを確認する。「十代という遊びたい盛りに、自由な時間を捨て、学業のみに専念しろというのは酷だろう」ジョブズみたいに壇上を左右に行き来する。次のセリフの為、たっぷりと間をとって強調の助走をつける。
「だが、たるみ切った生活に、果たして意味があるのか!?」
教壇に戻り、声のテンションを再度高め、勢いよく掌を教卓に叩き付ける。クライマックスだ。
「刹那的な享楽に耽ることが、本当に正しい在り方なのか! 自分を律し、節度を守ることが、他者と自らを思いやる健全な精神を育むのだ! その先にこそ、本当の意味での学校生活を楽しむ最善の道があると思わないか!」にわかに沸き立つ観衆。こぶしを強く掲げ、そうだそうだと口々に声を上げる。
「今こそ、学校生活を改めるときだ!」こちらもそれに応えるようにこぶしを掲げる。
「中だるみに負けるな! 私はみんなを信じている! 今こそ、いっしょに気を引き締めようではないか!」会場のボルテージは、最高潮に達していた。
「会長最高!」
「学校最高!」熱に浮かされた観衆が、熱い称賛を叫んでいる。
「イェヤー! マザーフ〇ッカー!」声援でかき消されるのをいいことに、さりげなくスラングをぶちこんでやった。あーすっきりした。
席に戻る途中、客席に真を見つけた。ほかの生徒に見えないよう、ちいさくサムズアップを決めていた。久しぶりに、気持ちよく人前で話せた気がした。
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