救世主か、悪魔の遣いか
精神を病んだと診断されてからさほど立たずに、転校生の案内を任された。生徒会長としての職務というやつだ。名前は真(まこと)というらしい。人気のなくなった放課後に、二人で校舎内を巡っている。見るからにお嬢様然としていて、気品があるように見える。顔立ちも整っていて、佇まいからはどことなく知性を感じさせる――
「素敵な校舎ですね。素敵、ステッキ……うふ」
――知性を感じさせる?
「今日おめかしでコロンをつけてるんですよ、ころんと倒してしまったけど。うふふ」
――お嬢様然としてる? なんだか親父くさく見えてきたぞ。
「あら、英語で何か書いてありますね。えーと、ぼ、ぼよす、べ、あむびぃちおうす?」
「おバカなの?」しまった。失言だ。
あまりにアレな発言の数々に思わず地が出てしまった。校訓のボーイズビーアンビシャスをそんな風に読んだ奴は初めてだったから、つい。
「まっ! 失礼しちゃう。ちょっと読み間違えただけですっ。あれでしょう? くらくらしそうなお名前の人の言葉」
「クラーク博士ね! なにその酔っぱらいみたいな言い方!? ちょっとやばいぞ!?」
ああっ、もうだめだ、終わった。規格外の逸材すぎて言葉を冷静に選べない。
「……聞いていたお人柄と違いますわね。生徒会長さんはひんこー? ホースでお優しいと先生が言っていましたのに……」彼女は警戒と猜疑心のこもった視線をこちらに向けている。ごもっともな意見だが、あなたの発言も見た目詐欺に近いことを自覚してほしい。
「違う、ちがうんだ、話を聞いて。あとそれ多分品行方正だからっ」半泣きになりながら俺は必死に訴えた。致命的な失態だが、なんとかしなければ今後にかかわる。
その後、無人の教室にて、自分の病気とそのわけを説明するに至った。
「まぁ……そういう事情がおありなのね――お可哀そう」
「……どーも」
空き教室で机を囲みながら、いきさつを話している。おそらく本気で可哀そうと思っていることが伝わってくるが、なんだか馬鹿にされている気がして素直に受け取れない。
「安心してください。わたくし誰にも言いません。それどころか、会長さんのお手伝いします。その代わり! お勉強を教えてください!」立ち上がって熱弁をふるう彼女。安心しろといったりお願いしたり忙しいやつだ。ひとまず最後のセリフが気になったのでそこを聞いてみることにする。
「ありがたいけど一応聞くよ、なんで勉強?」
「わたくし、あまりにおバカなので転校させられたのです! 今回もだめだったら……監獄みたいな寮に入れられて、勉強漬けのスパルタ生活をすることに……」話す姿には哀愁が漂っていた。俺は「だろうなぁ」としか思わなかった。
「他の生徒さんにぼろを出すのもダメなのです。お父様がキンキンに怒るので……!」
「カンカンにね。ビールかよ」
「あっ、拒否権はありませんのでどうかよろしく」
「拒否権は知ってるんだ……」
こうして、おかしな転校生との学校生活が幕を開けた。
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