第5話 原初は別に最強という意味ではない

 透に導かれるままに魔獣の元へとやって来た私はこの目で初めて魔獣を見る。


 目の前の魔獣の姿は一言で言うとドラゴンだった、白い鱗に大きな皮膜の翼を折りたたみ体長十数メートルはあるだろう巨体を覆っている。発達した立派な後ろ足を折り最早腕と称していい程に器用そうな、だからといって細いわけではない前足を立てて居る、長い首の先にはワニというより二本の角の生えたイグアナの様な顔付きでこちらを睨んでいる。


 まぁ簡単に言うと白いドラゴンが犬のようにお座りをしながらこちらを睨んでいた、向こうは威圧してるつもりなのだろうけどお座りのおかげで威厳は半減だ。しかし何がベースでドラゴンなんて生まれたのだろう?私は基本的に爬虫類が好きだからそれなりに知っているつもりだがこんな爬虫類はいただろうか。


 そんな感じで目の前のお座りどらごん君を観察していると唸るような声がどこかからか聞こえてくる。


『――小さき者よ、我の寝座ねぐらに如何な用がある』


 ふむ、おそらくこの声はこのどらごん君の声のようだ、重厚感のあるとても威厳に満ちた声だと言えるかな?まぁお座りの時点で可愛さの方が先に来るが、いやこのつぶらな瞳は爬虫類好きには堪らない。しかも言葉を解すなんてご褒美だろうか。


「君、会話が出来るんだね嬉しいよ。さて用だったかい?君を見に来たのさ」


 私は努めて冷静に話す、警戒して逃げられてはせっかくのスキンシップが台無しだ。爬虫類は懐かないと言うが餌付けをすれば慣れてくれるとも言う、時間は多分たっぷりあるので気長にやろう。


『――我を見に来ただと?』


 どらごん君が少し不機嫌そうに応える、少しやばいなファーストコンタクトで嫌われてしまえば構えなくなってしまう。それだけは避けないといけない、どうにかして挽回しなければ・・・


「そう、君を見に来たんだ、私の箱庭、いや天球かな?で最初の魔獣が君だ。おめでとう」


 必殺褒めて機嫌をとろう大作戦だ!少し詰まったが言うことは出来た。どらごん君のすこし機嫌は治った気がする、首をもたげて何かを考えてからどらごん君は私を見据えて問うてくる。


 この仕草がトカゲに餌をあげてる時に見つめてくる動作に凄く似ていて、それはもう可愛い、私は緩みそうになる顔を引き締めた。


『――私の?それはどういうことだ、小さき者よ』


 どらごん君が問うた内容より後半の言葉、これはさっきもこの子が言ってたけどこの背伸び感、凄く可愛い、もう可愛い以外の語彙が出ても来ないが、ここで警戒されてはいけない、いずれ抱きしめるために私は必死に表情を殺すのだった。


「言葉通りの意味さ、ここは私が創った世界だ。君も元を正せば私の子になるのかな?」


 刷り込み的なものに特に期待はしていないがもしかしたらと思っている自分もいるので親発言もしてみたはいいが、創った生物の子孫ならある意味私の子でもあるので間違いではないだろう。


 しかしそう言った途端にどらごん君の魔力が膨れ上がる。どらごん君は結構魔力の扱いが上手いみたいだ、もしかしたら一番初めに魔法を覚えるのはどらごん君かもしれないと、淡い期待を寄せて見ていると


『――ならば貴様を殺せば、我が支配者となるか、ッ!』


 そういってどらごん君は私に襲い掛かってきた。何か間違えただろうか?威嚇までは予想の範囲内だが襲われることを想定していなかった、まぁ襲われた所で傷一つつかないのはご愛嬌だが


 予想外の事態に唖然としていると私の隣からとんでもない魔力が吹き上がり、意志を持ったかのようにどらごん君を押さえつけていた、言わずもがな透である。


 透の魔力は引くほど効率化されており、魔法一番乗りどころか自力で法則を編み出して魔術を展開していた。すまないどらごん君どうやら一番乗りは透のようだ。


「戦闘は同レベル同士でしか行われません、身の程を知りなさい爬虫類」


 透がどらごん君を押さえつけているのを横目で見ながら透が空を飛んだ現象に行き着いて私一人で答え合わせをしていた。確かに魔力を使えば空は飛べるだろうが相当な熟練が必要で生半可な努力ではなかっただろう。


 後で褒めてやろうと密かに決めて、どらごん君を眺める、どらごん君の周りだけ重力が増えたようにミシミシとどらごん君が地面にめり込んでいる。


『――ぐぁっ、な、何なのだ!、この力は…』


 どらごん君は地面に体の半分ほど埋まっていても耐えられるタフな子だったようだ。ただの可愛い爬虫類ではなかったようだ、まぁ冷静に考えればドラゴンの時点で気づくべきだったと思う。


 私はどうやら初めての魔獣に興奮していたようだ、少し反省をしなければな。


「ボクは君に君が先ほどしていた威圧をしているだけです」


 まぁ確かに威圧といえば威圧だが、魔力の塊をぶつけているのだから、気をぶつけているのとは意味が圧倒的に違いすぎる。相手をひるませるのと、相手を屈服させるのとでは違う、最早別の挙動をしている。これは威圧というより重力系の魔術ですと言われても私は信じるだろう。


『――ぁ、ぁ、し、従う!だ、だから助けてくれ!』


 そんなことを考えながら眺めているとどらごん君が堪らずに服従宣言をしていた。まぁ確かに重圧で地面にめり込めばそう言いたくなる気持ちも分からなくはないが、別に支配しに来たわけでもない上にどらごん君が勝手に暴走しただけなのだが、まぁ細かいことはいいか、せっかくペットになると申し出てくれたのだ。


「従うも何も私はただ君を見に来ただけだというに、まぁペットが居てもいいのかな?透止めてやってくれ」


 私はそう言うと思案する、もちろん名前のことだ。ペットが出来たからには名前を考えなくては、白いからシロ?いや安直すぎるだろう、しかも若干犬のことを引きずっている。


「はい、司様」


 透はそう言うと魔力を霧散させる、重圧から解き放たれたどらごん君はのそのそと自分の埋まっていた穴から這い出していた。私はそれを見ながら考える。白い、ハク、ホワイト、ヴァイスどれが良いか、もう白路線で確定だ、これは譲らない。だがどうしよう。




 よし決めた。


「じゃあ私たちの用事は済んだからあとは好きにすると良いよ。あ、ペットになったんだから名前も欲しいよね、君の名前はヴァイスだ。」


 私はさりげなく今考えたかのように名前を伝えて飛び去った。ドラゴンは流石に家では飼えないので外飼いだ、幸い巣もあることだし気が向いたら触りに来よう。


 こうして後の世に最古の神竜ヴァイスと呼ばれる竜種最強の白竜は創造主つかさのペットになったのだった。

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