第3話 箱庭を充実させよう

 あれから数日だろうか、数ヶ月だったかもしれないが透を創り出してからそれなりの時間が経っていた。


 恐らく創造主発言が原因で何度言っても様呼ばわりを辞めない透について少し考察してみよう。


 容姿は想像した通りで黒髪の長髪で先の方へ徐々に白くグラデーションだったか?そんな風になっている。顔立ちは私とほぼ同じだが瞳の色は灰色の様だ。


 なんで灰色なんだ?と疑問に思い、鏡を創り自分の顔を確認すると瞳の色が黄色かもしくは金色だった、元々の黒から考えて随分と変わったものだと他人事のように呑気に考えて考察を再開する。


 ともあれ私の瞳の色から考えれば、透の瞳は銀色と称した方が良さそうだ。


 背丈も私とたいして変わらず160前後であり、身体的に見れば性器の類が全くない無性別だ。


 これは多分私が同じ性別にしたからだと考えるのが妥当だろう、その様な意図は全く無かったが私の同性というのは無性だという事が分かっただけ収穫だろう。


 知性や知識も私ベースで創っただけあって、はじめから会話や発想などが出来るようだった。無頓着な私の性格部分を活動的な性格として創った事が原因かは分からないが精神性は私とは似つかないものだった。


 まぁ若干幼い気はしない事もないが誕生したてだと考えれば十分過ぎるほど成熟していると思う。


 さて私たちは今、森林の小屋で何度目かのティータイムをしている、ティータイムといえば聞こえはいいが本当にテーブルを囲んでお茶とお菓子を摘んで雑談するだけだ。始めの頃は透が私と同席するのは恐れ多いなどと言っていたが適当言って誤魔化してやれば同席してくれるようになったのはいい思い出だ。


 そんなことを考えながらティーカップに口を付けお茶を啜ってぷはぁと息を吐くといつものように、先程まで無言だった透がハッと何か思い付いた様子で私に話しかけてくる。


「司様の権能で新しい物質を創ってはいかがですか?」


 透は何故か私が息を吐くタイミングで度々話題を振ってくるのだ、理由は分からないが基本的に受身姿勢の私としてはありがたい限りである。


 しかし新しい物質か、考えたこともないが確かに出来るだろう。透のアイデアに期待が高まる。


「いきなりだね、新しい物質?例えばどういうものかな?」


 透は何かを考えるように手を顎に置き言葉を選ぶように話し出す。


「しんr、魔力なんていかがですか?司様から頂いた叡智の中にそういったものが存在しておりましたので」


 きみ今一瞬、神力って言いかけてたよね、違うからね私はあくまでも夢の主であって神ではないのだよ。しかし口に出してはつっこまない、いや何度かツッコミはしたのだが透のこれはある意味天然なのでつっこむだけ無駄だということを知った。


「魔力といえばマナだったかな、それを創って箱庭に撒くのか。でも使う人間も動物も居ないよね?」


 私は脳内にあるファンタジー知識を引っ掻き回しながら、そう言うと透は少し身を乗り出して鼻息を荒くする。……おかしい私と同じ顔の造形の筈なのになぜこんなにも可愛いんだ?不公平ではないか、誰だ透を創った奴は!出てこい!

 ……いや私だったな。


「そうです!人間も動物も居ないなら創ってしまいましょう!その方が司様も楽しいかと思います!」


 ふむ確かに一理あるかも知れない、 二人だけの世界でこのまま終わるよりは楽しいかも知れない。


 理屈はどうあれ透も可愛いことだし少し乗せられてみる事にしようか、私はいつから親バカになってしまったのだろうか?まぁ退屈なのは事実だしやってみるのも一興かもしれないな、あと何年かはこの作業で楽しめるだろう。


 どんな世界にしよう?やはり剣と魔法の世界に並々ならぬ憧れを持つ私としてはもはや一択のような気がする、というより一択だ。現代風世界?何が悲しくて私の自由に創れる箱庭で現代再現しなけれないけないんだ。


「そうだね、この箱庭にゲーム風の世界を創ってみようじゃないか」


 こうして私たちは箱庭を世界へと創世と言ったら大げさかも知れないが、世界へと体裁を整えていくのだった。





 さてまずは星の大きさだ、後々困らない様に木星くらいで良いだろうか大体地球の10倍くらいの筈だ、大陸は箱庭を20面ダイスに見立てて20個配置する。透、異論はあるかい?そう心の中で問うて小首をかしげて顔を覗き込む(言葉に出していない)


 透は顔を真っ赤にして頷いた(俯いた)うん無いようだ、大陸以外は全て海にしよう。そう思うながら箱庭を海水で埋め始めた所で。


「つ、司様、それだと島国等が無くなってしまいます」


 赤面から復活した透は私が創った設計図のような物を見ながらそう指摘する、あぁ確かにそうだ仕方ない適当に浮かべておこう。大小様々な島をまるでスプレートッピングのようにまぶしていく、幾つかは大陸に落ちたがまだ生物も居ないので誤差だろう、傍目から見たら多分だがこの世の終わりのように流星群が降り注いでいるように見えるだろうけど。


「大まかにはこんなものか、星の名前はどうしよう?」


 本来はどうでもいい事だが星の名前はモチベーションに関わる、名無しの星よりも名前があった方がやはりやる気は上がるし愛着も湧くというものだ。


「うーん、ガーデンボックスなんてどうでしょう?」


 箱庭だからガーデンボックスか少し安直な気がするな、それを言うと透は困った様な顔をして顎を手に乗せ考え込んでしまった。


 しばらくはあーでもないこーでもないと頭を悩ませ、暇つぶしに海底を創ったりしている内に次第に時間は経過していき私のモチベーションが底をつきかけた頃、ふと思いついた。


「私は地球や太陽の様に漢字で表せる名前にしたいんだ」


 そう伝えると透はハッと顔を上げて褒めて欲しがっている犬のような顔で私に言った。いや私と同じ顔の造形なのにどうしてそんなかわいい顔ができるんだ、私ならできないぞ、基本的に鉄面皮だからな!


「天球というのはどうでしょう!地球に似てそれよりも大きく司様の創造する天の星、天球など良いのでは無いでしょうか!」


 …由来はともかく天球か中々いい名前じゃないか、私は透の髪を撫でて褒めてやる。


 多分尻尾があれば千切れんばかりに振っているであろうほど喜ぶ透に目を細めてから言う。


「うん採用だ、これからこの星は天球だ。」


 これで星の名前は決まった。


 あとは残る二十個の大陸と無数の島の名前はそこで暮らすことになる人達に考えて貰おう。


 ぶっちゃけ地名を考えるなんて面倒だしね、星の名前を考えるのにも相当時間を食ったのだ大陸で二十も考えて、島は数えるのも億劫になるほどある。


 もちろんそんな数えるのも億劫な島の数だ、名前を考えるなんて考えをしたくないレベルである。


 どうせ人間を創るのだ、ならそこに暮らすであろう彼らに任せて私は無責任にも創れば放置であとは任せたのスタイルあるのみだ。

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