第2話 人間?創ってみた
ここに来てから少なくとも一ヶ月は経った頃だろうか、そもそも都合が悪ければ昼夜を入れ替えたりしていたのでそのへんは曖昧だ。
ある日、暇つぶし兼息抜きがてら森を散策していた時のことだ、二日目の探索の時に発見した断絶された大地が消え去り地平線が見える荒野になっている事に気が付いた。
いや心当たりがない訳ではない、むしろ心当たりは一つある、鶏を生物として創り出した時に地球の様に広ければいいのに的な事を考えたからではないか。
もし推測通りであるならばこの退屈な生活が少し華やぐのではと、そう考えた私は期待を込めてこの場所が六畳間であれと、そう思考する。
なぜ六畳間なのかというと劇的であればあるほど確信が持てるからだ、別に畳の匂いが恋しかった等の他意はない、ないったらない。
結果は成功だ、相も変わらず何のエフェクトもなく始めからそうであったかの様にあっけなく森林と荒野の狭間は六畳間へと姿を変えた。
私は誘惑に負けて久々のイグサの匂いを胸いっぱいに吸い込み、恐らくもう戻れない日本へと想いを馳せる、根拠のない確信めいたものが私はもう日本には帰れないと告げていた。
数時間は黄昏ていただろうか、色々と覚悟のようなものも決めていたのでその辺りは大目に見て欲しい。
落ち着いて今までの事を纏めてみようと思う。私は多分だが死んだか死に瀕しているのだろう。根拠はあまり無いがそう思った方が精神衛生上非常によろしいのでそういう事にする。
そしてこの場所だ、便宜上この場所を箱庭と呼ぶが箱庭は私の死の間際の夢では無いかと言うのが私の見解だ、明晰夢だったか?それの類だ。
目覚めるかも知れない、しかし現実世界の私が私の最後の記憶と同じ状態なら私の状態に気付く者もそう居ないだろう、なにせ一人暮らしのボロアパートの一室で同居人はいない。
そして現実世界で私が死ねば晴れて私はこの箱庭からは解放されるのだろう、もしかしたらこの箱庭に永遠に住むかもしれないが現状はどちらでも良い、できれば前者がいいと希望しておこう。
つまり現状は変わらない、この箱庭での体感一ヶ月は現実世界で何秒の出来事なのかは分からないが私は必ず来るだろう滅びをのんびり待つことにしようか、まぁ仮に現実世界で死んでいたとしても私はここでのんびりさせてもらうことにするさ、どの道自力で出られないならなるべく楽しませてもらうことにしよう。
あれからさらに数ヶ月が経った、六畳間の世界を森に戻し小家を創った。必要はないが人生の彩りとして想像しうる限りの食料を出して、いろいろな飲み物を出すもちろんアルコールもだ、そうして基本的に不自由していないのだが私はここに来て人恋しさを感じていた。いや元々感じてはいたが踏ん切りがつかなかったと言えば良いのかなんというか。
さて、人間を創り出せるという仮定は鶏の時にしたものだが、実際できるかは分からない。仮に出来たとしても会話をする事が出来るのだろうか、そういった不安は無くはない。だが幸い即座に消す事も可能だということが判明した、それによって私の現状出来る事が凡そ判明した事になる。
では今後の為にも判明した事を列挙していこう。
・昼夜の操作が可能(試してみたが夜だけの一日も可能だ)
・箱庭の環境、形状、地形を自由に操作出来る(余談だがこの実験で私は真空でも生きられることが判明した)
・無機物、有機物問わず想像上の物でも創り出す事が出来る、ステンレス製の包丁といった細かい設定も出来る(つまり某青狸の道具も創り出せた、楽しかった)
ここまでは今までに判明した事だ、そして最後に新たに判明した二つの出来ること(便宜上能力とする)
・箱庭内にあるモノ全ての個別デリート
・私自身の身体の変化
以上の五つがこの箱庭内での私の現状判明している能力だ。
そして最後の二つの説明をしておこう、一つ目は箱庭内の存在を削除する能力だ、例えば鶏を創り出してそのまま削除すると鶏は最初からそこにいなかったかのように消えるといえば分かりやすいかな。
死んだわけではなく始めからそこに居なかったものとして扱われるようだ。もしかしたら概念や歴史といったモノも消せるかもせれない。
次に二つ目の能力は私自身の身体操作だ、自分以外なら以前からある程度出来ることは分かっていたが、私自身となるとそもそも考えていなかったというのが大きい、こちらも分かりやすく言えば翼を生やす等が出来る、他には鰓を生やしたり小さくなったり出来る事が判明した。
さて話は逸れたが今回は人間の創造というものにチャレンジしてみようと思う、そろそろ独り言のように頭の中で喋るのは精神的に来るものがあるんだ、まぁ脳内の独り言はバイト戦士時代からの癖であるのだが、だからといって一人はやはりさみしいものがある。
では創っていこうか。まずは容姿だな、これは私ベースで良いだろう良くも悪くも中性的な見た目だとよく言われていたからどちらを創り出すにも都合がいい、むしろ絶世の美形を創るよりかはいくらか安らぐだろう。
髪の色は私のを反転したものにしよう黒に先だけ白のグラデーションカラーだ。瞳も私の反転で良いだろう、まぁ鏡を創ってないから私自身どんな色になっているか知らないが。
次に身長だこれも私と同じくらいで良いだろう。
段々考えるのが若干面倒になってきた、現状ほぼ私のコピーだしな。
だからこそ性格は活動的なものが良い、そして煩くなければ尚うれしいな、その方が楽が出来そうだ。知性や知識も私ベースで良いだろう、他に参考は無いしね。
最後に性別だが私と同じで良いだろう同性の方が話しやすいだろうしな。
さて大体イメージは固まった後は創り出すだけだ。
案の定というか何というか、何のエフェクトもなく食料や鶏を出した時と同じく普通に成功だ。あまりにひょこっと誕生するものだから感動や感慨の付け入る隙がない。
そして創り出された人物は想像通りの見た目をしており、ぺたんと座りながら私を見上げていた。
「どうも初めまして、私の名前は
久々の会話で若干上がり気味に矢継ぎ早になったが透は言葉を一つ一つ飲み込み、少し熱を帯びた視線で私を見つめて誕生の産声の代わりに初めての言葉を放つ。
「はい理解しました、ボクは透ですね。よろしくお願い致します、司様」
その声は私とは似つかない程に澄んでいた、この子に透と名付けた私は間違っていなかったと確信する。
ん?様?
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