第30話

 「さてと、寝ましょうか」

 「ミャおいで」

 「ミャ~」


 この頃色々あってちゃんと寝れなかったら、今日こそはぐっすり寝ないとね。

 そう思ってベッドに入ろうとすると、とんとんとんとドアをノックする音が聞こえた。


 「ユリーナちょっといいかしら?」


 え? お姉様?


 「何でしょうか?」


 ドアを開けると困った顔のお姉様が立っていました。


 「お客様がお見えになるの。寝ていた所悪いけど支度して下さる?」

 「え? 今ですか?」


 そうですとお姉様は頷いた。一体誰よ、こんな時間に!

 寝間着だったので着替えていると、馬車の音が聞こえて来る。

 私にも用事って、まさかリゾール殿下かしら? でもこんな時間に急用って何かしらね。



 「夜分にすまないね」


 ひげを蓄えたダンディなおじ様。私は初めて会う方ですが、大事な方です。マイステリー様と一緒にいらしたお父様だったのです!!


 昨日連絡を受けて、今日の夕方帰って来たと言ったよね?

 マイステリー様が慌てて帰ったのはその為だったのね。国外にいらっしゃるのではなかったのですか? 行動が早いわ。


 「初めまして。ユリーナです」

 「君がマイステリーと婚約を勝手に結んだお嬢さんか。思ったよりおっとりしているな」


 勝手にって……。まあそうなりますけど。


 「おや、それはこちらが言う台詞ですがな。しかし、二人は好き合っている様子……」

 「申し訳ありませんが、口約束だけなど問題外。もちろん、今更契りを交わさせるつもりはありません」

 「………」


 マイステリー様のお父様のお言葉に、少々戸惑っている私の両親とおじい様。王家と繋がりのある家系なのですから本来なら喜ぶはずの縁談です。ですが、アイスグリード伯爵家は、魔法の能力を重んじる家系なので魔法をマの字もない私ではダメの様ね。

 わかってはいたけど、ここまでストレートに言われると凹むわ。


 シーンと静まり返ってしまいました。

 お父様達にだってプライドがありますものね。どうしましょう。マイステリー様のご両親だけではなく、私の両親も反対しそうですわ!


 「ミャ~」


 とミャのかわいい声が響き渡った。来たのがマイステリー様だと気が付いたので、見せようと思い一緒に連れて来たのですが、場違いでしたわよね。


 「やぁ、ミャ。元気だったかい? ねえ、父上。もし契りを交わしていたらどうする?」

 「何!? 昨日の今日でか!?」


 マイステリー様の言葉に驚いて、みな私を見た。言ったマイステリー様ではなく私を。


 「そんなにしたたかに見えないが……」

 「え?」


 ぼそりと、マイステリー様のお父様が呟いた。皆もそう思って私を見ていたって事ね。残念ながら契りなど交わしていませんわ。

 まさか、偽物を用意してあるとかではありませんよね?


 「ここでお見せします」


 とマイステリー様。


 「あの、マイステリー様?」


 驚いていると、私が抱っこしているミャのリボンを外したではありませんか!

 ちょっとまって! それには確か私も書き添えたはず。


 「きゃー! マイステリー様、待って下さい」

 「はい。皆さんでご確認下さい」


 そう言ってテーブルの上に置かれたのです。あ~なんて事でしょうか!

 顔から火が出そうだわ。

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