第3話

 ワーと歓声が上がる。

 手から火や水が出るのだから不思議だわ。どうせなら私も使える人に転生したかった。


 学園が催す初めてのイベントで、魔法を扱える生徒が行う。結局ヒロインは現れなかった。昨年参加してなくても今年は参加しているかと思ったけど、やっぱりこの学園にはいないようね。どうして?

 バットエンドになったらこの国の崩壊する。困ったわ。このままだとこの国の未来がないわ!


 思い出さなくては、ヒロインがリゾール殿下と接触するイベントを。

 って、そうだったわ。そういうのは、もう昨年ほどんど終わっているではないですか!

 失念してました。二年目は好感度アップのイベントでした。

 はあ……。もう手遅れなのかもしれません。


 「お姉様。私、あちこち見てくるね」

 「え? 一人で大丈夫?」

 「うん。学園内だし。大丈夫」

 「そう。ではまた後でね」


 軽く手を振ってお姉様と別れ、トボトボと歩く。

 お姉さまは、ゲームの中と違いお友達も学園内にいる様子。怒り狂う姿を晒してはいないからね。


 あ、そういえばこの学園には池があったはず。願いが叶う池と言われている。せめて、そこに願掛けをしよう。

 私は、持っていた小さなビー玉程の水晶を池に放り投げる。そして祈った。「どうか、この国が滅びませんように。皆を守って下さい」と。


 安い水晶は、平民でも宝石として買うもの。それを欲しいと言って買ってもらって何個か持ち歩いていた。

 私にはこれが、ビー玉に見えた。何となく前世の物の様な感じがして好きなのよね。前世の物と言えば、言語もそう。日本語なのよ。だから前世を思い出した時、違和感が半端なかったわ。


 「きゃ」


 ボーっとしながら戻ろうと振り返った時に、石につまずいて思いっきり転んだ。

 誰も見ていなくてよかったわ。


 「いたたた……」


 立ち上がろうとしたら足に激痛が走る。足をくじいてしまったみたい。

 はぁ……ついてない。


 「君、大丈夫?」

 「え……?」


 声の主に振り返って驚いた。

 ブロンドの髪にチャーミングな笑顔――の男の子!!


 「思いっきり転んだもんね。大丈夫?」

 「見ていたのですか? お恥ずかしい」

 「うん。偶然。見なかった事にしようかと思ったけど、足をくじいたんじゃない?」

 「はい……」

 「見せて」


 少し腫れている左足を見せる。

 もしかして、初のお姫様抱っこ!? 前世ではきっとおんぶだろうけど。


 「え……」


 驚く事に、彼が私の足首に開いた手の平を向けただけで、足の痛みが引いて行く。


 「うそ……ヒール!?」

 「しー。他の人には内緒ね」


 どういう事? この世界の魔法の中でもヒールは、珍しい部類。そして、この学園で使えるのはヒロインのみって設定じゃなかった!?


 「あの、お名前は!」

 「え? 覚えてないの? 同じクラスなのに……」

 「あ、ごめんなさい……」


 この学園には、王都の近くの人しか通っていないから20人ぐらいしかいないのに、女性しか見ていなかった。大きな街に、学園は点在する。

 

 「僕の名前は、マイステリー」

 「私はユリーナ。足の痛みが引いたわ。ありがとう」

 「よかった」


 そうだ! もしかしてお姉さんがいるかもしれない。その人がヒロインかも!

 見た目も同じブロンドだし。


 「あの、お姉様っておりますか?」

 「え? 姉、ですか? いますけど」


 いるのね! よし! ヒロインがどうしているか確かめなくちゃ!


 「あら、どういたしましたの?」

 「お姉さま!」


 振り返ると、お姉様とリゾール殿下が歩き近づいてくる。

 二人が、ジーッと少し怖い顔でマイステリー様を見ていた。

 今私は足首を出し、その近くに彼の手があって……まさか襲われていると勘違いしているのでは!


 「ち、違うのおね……」

 「どういうおつもり? ユリーナに何をしているの!」


 やっぱり!


 「さっきの内緒ね」


 ボソッと呟くと、マイステリー様は立ち上がって、失礼しますと去って行く。そのままだと誤解されたままなんですけど!

 あぁそれに、ヒロインの事を聞きそびれてしまったわ!

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