第2話 雄同士の争い
作業服の青年が訪ねてきたのはその日の午後だった。
「部屋、広っ。さすが町議の息子」
健太よりきっと一回りかそれ以上は年上で、どことなく
けれど、と私は
私は巣箱に隠れて様子を
健太が麦茶のコップを載せたお盆を机に置いた。
「
「俺が一番下っ端で、健太の顔も
青年は口元だけで笑った。何気ない様子で部屋を見回し、トロフィーの並ぶ棚に目を止めた。それから、ひどく冷ややかに切り出した。
「リリーとか何とか
「リリス。リリー
「
青年がこちらへ一歩踏み出した。健太がケージの前に立ちはだかった。
沈黙があった。風がレースのカーテンを揺らした。
ああやっぱり、と私は毛のない胸を押さえた。
この剣呑な雰囲気。恋のライバルの登場だ。どうやら私は雄たちに、それもリスではなく人間に、この身をめぐる争いをさせてしまっているらしい。
「リリスは
「治ったら森に放すつもり
「それが駄目なら僕が飼う」
健太、と青年が嘆かわしげに首を振った。
「
青年の硬い声には私を勝ち取るという強い決意が感じられた。
そのあまりの気迫にだろう、健太が俯いた。
言葉こそ相変わらずさっぱりだけれど、私にも健太が劣勢であることは分かった。優しい彼に味方したい私は、届かないと分かっていても呼びかけずにはいられなかった。
『ねえライバルさん、貴方の気持ちは嬉しいわ。でもどうか落ち着いて。私の他にも雌はいるはずよ』
「駆除とか処分とか、俺だって
『大体、今の時期は子孫を残すよりも肝心なことがあるはずじゃなくて?』
「苦労して作った野菜や果物
『例えば、何でもよく食べて冬の寒さに備えるとか』
「特産の、
『椿なんか特におすすめよ。あの木には本当、捨てる所が少しもないわ』
「杉や檜の皮もあちこちで
『あとはそう、木の皮なんかを集めて寝床を暖かくしたりとか』
「あれやこれやの被害で島はどんどん駄目に
「ごめん。それでも
健太が青年の言葉を遮った。
「爺ちゃんと、最後に約束したもん。『弱きを守る盾となるべし』」
「磯村先生の遺言が『道場訓』の一部
「上原さんだって、昔は磯村空手道場に
「聞け健太」
「爺ちゃんの
青年が初めてたじろぐ様子を見せた。
しばらく決まり悪そうに首筋を
「また明日来る。もういっぺん、
青年が去った後、健太は床に座り込んだ。
陽が傾くまでずっと、そのまま棚を見上げていた。
トロフィーたちの真ん中に写真立てがあって、白い眉の、
「爺ちゃん、僕、間違っとると……?」
やがて夜がやってきた。
一度部屋を出て、濡れた頭を拭きながら戻ってきた健太は、私にはなぜだか少し吹っ切れたように見えた。中腰になって
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