レドーム

 メガラニア基地一帯をブリザードが襲っていた。天地の判別も付かないほどに一面が真っ白に染められた、ホワイトアウトの状態である。


 そんな中で、辛うじて輪郭が窺える多目的アンテナを収めた黒い球体の上に、全身を覆うスーツタイプの防寒着に身を包んだフランス人男性、アンリがしがみついていた。アンテナを保護するレドームを構成する数多のパネルのうちひとつが傷んでいたため、修理に来ていたのだ。

 彼にとってはこんな作業は手馴れたもので、簡単に完了できるはずだった。それが現下、必死でレドームに張り付くアンリの脳裏には、後悔の念しかなくなっていた。

 さっきまで晴れていたというのに、突発的な吹雪が襲ってきたのだ。まず彼が危惧したのは命綱のことだったが、無理によじ登ろうとでもすれば、ますます強風の影響を受けることになる。そのため、レドームと自身の身体の隙間に風を侵入させないよう、密着するので精一杯だった。アンリはこうして、嵐が沈静化するまで耐えるつもりでいた。

 ところが冷酷な自然は、懸念していた事態を招いてしまった。レドームの上部に結びつけられた命綱は、慣れた仕事に高を括っていたアンリによって、ずいぶん緩いものになっていた。


 風雪がやんだときには、レドームに人の姿はなかった。ただその下の地面には、半分雪にうずもれて男が倒れていた。

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