第77話 76、イスラエル国の大韓民国併合

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 アクアサンク海底国の哨戒範囲は広大な範囲になった。

中央アジア連合の哨戒はブルー大隊が行なっている。

そのコースは陰険で露骨だった。

 日本海から飛び上がり、大韓民国とイスラエル国の国境上空を横切り、黄海を横断して真っ直ぐ北京に向かう。

北京上空を通過するとすぐにモンゴル国境にぶつかる。

内モンゴルを併合しているモンゴル国と中華人民共和国の国境線に沿って東に向かい、ロシア連邦国の国境に達すると、ロシア連邦国の国境に沿って西に向かい、カザフスタン共和国の国境に沿って進みカスピ海に出る。

カスピ海からはウズペキスタン共和国、タジキスタン共和国、ネパール連邦民主共和国、ウイグル国の国境沿いに進み、再びモンゴル国の国境を通って出発点に戻る。

そこからは来た時のコースを取って北京上空を通過してから日本海に戻る。

 この哨戒は1小隊10機のカプセル型戦闘機で3時間ごとに行われた。

ロシア連邦国と中華人民共和国の国境警備の戦闘機は哨戒の戦闘機隊が来るたびにスクランブル出動した。

両国の迎撃戦闘機は自国の長い国境線に沿ってお付き合いしなければならなかった。

迎撃戦闘機の航続距離はブルー大隊の戦闘機の航続距離よりも短かった。

ブルー大隊の戦闘機は迎撃機が近づくと追ってこられるようにスピードを落として迎撃機の速度に合わせた。

昼夜3時間毎のスクランブル発進は両国にとって負担となった。

 レッド大隊の哨戒はブルー大隊より短かった。

地中海から飛び上がって東に向かい、イラン・イスラムの国境に沿ってペルシャ湾に出、ペルシャ湾を通過してから再びイラン・イスラムの国境を飛び、トルクメニスタン国の国境に沿ってカスピ海に出る。

カピス海ではレッド大隊の戦闘機はブルー大隊の哨戒戦闘機と出会ってからジョージア国とロシア連邦国の国境線を通って黒海に出る。

黒海からウクライナ国、ルーマニア国、ブルガリア共和国の国境を通ってから地中海に出、トルコ共和国の海岸線に沿って進んで出発地点に戻る。

 アクアサンク海底国は日本国周辺の哨戒を行わなかった。

アクアサンク海底国にとって東シナ海と南シナ海の支配領域の哨戒が最優先だったのだ。

それでも日本海海底に展開しているブルー大隊の司令官がイスマイルに毎週報告しに来る時には100機の戦闘機中隊を率いて北海道の外側を回って海中と海上に展開して掃海掃空しながら静岡に来るし、ブラック大隊の司令官は沖縄の太平洋側を通って100機の戦闘機を海中海上に展開させて静岡に来る。

 レッド大隊の司令官は同じように100機の戦闘機を引き連れてヒマラヤ山脈の上空を通り、中華人民共和国を横断して川本研究所に来る。

中華人民共和国の横断では戦闘機隊は低空から高空にまで縦に展開され、司令官の原子力深海調査船は50㎞の高空を飛行した。

毎回の領空侵犯に対して中華人民共和国は数機の戦闘機を出撃させるのだが、レッド大隊の戦闘機の速度に着いて来ることはできなかった。

中華人民共和国の国内上空の制空権は無きに等しかった。

 イスマイルはシークレットを連れて椎木学徒(しいのきがくと)統合幕僚長に会いに行った。

日本の防衛顧問としての定例訪問だった。

「こんにちは、椎木学徒統合幕僚長。定例の報告に参りました。」

「いらっしゃい、イルマズ顧問。アクアサンク海底国はうまく動いているようですね。」

「はい、おかげさまで。安全保障条約のおかげで安定した収入があります。戦力を増加させるには十分な金額です。」

 「防衛費から見れば安いものですよ。戦力の増加というのは新しい大隊を創るということですか。」

「いいえ、これ以上の哨戒範囲を広げるのは得策ではないと思います。敵があっての味方ですから。」

「確かにそうですね。オスマン連合と中央アジア連合を合わせるとモンゴル帝国に匹敵する広さになります。モンゴル帝国は豊かな文化に溺れたことと指導者が時が過ぎて死んで行くことで次第に衰退していきましたが、アクアサンク海底国のロボットは快楽に溺れませんし、イルマズさんも長生きしますね。」

 「アクアサンク海底国は別に支配している訳ではありません。争いがなくなればそれぞれの地域で文化は発展して行きます。まあそれで困る人もいるでしょうがね。」

「・・・アメリカですか。」

「そうです。アメリカはほとんどずっと戦争に関わって来ました。次はどこあたりでしょうか。」

「軍産複合体は困っているでしょうね。稼ぎ頭のジェット戦闘機もアクアサンク海底国の戦闘機には手も足も出ないのですから。弱い戦闘機を高いお金を出して買おうなんて気は起きませんよ。これまで売りもしなかった原子力潜水艦も簡単に拿捕される始末ですから潜水艦を売ると言っても買う国は少ないでしょうね。」

 「消費材の核兵器やミサイルなら売れるのではないですか。」

「どうでしょうか。私ならアクアサンク海底国の戦闘機を買いますよ。成層圏上層から静止した状態から大型爆弾を落とすことができて、深海の海底に隠しておくことができるなんて最強ですよ。爆弾は安価だし、攻撃地点を限定できますから核兵器より便利です。長持ちもしますから。」

「日本国はアクアサンクの戦闘機が欲しいですか。」

「・・・それは遠慮します。軍事力バランスが変わってしまいます。日本には遺憾砲があれば十分だと思います。遺憾砲を持つ日本は領土的野心を持つべきではないと思います。それで世界は安心します。」

 「不気味なのはイスラエル国です。3時間おきに大韓民国との国境をアクアサンクの戦闘機が通るのに迎撃機も飛ばしません。中華人民共和国とロシア連邦国は律儀(りちぎ)にお出迎えをしてくれるんですが。」

「無駄だと思っているかもしれませんし、攻撃しなければ安全だとも思っているのでしょうね。賢いことです。」

 「・・・椎木さん。イスラエル国は大韓民国にだいぶ浸透して来たようです。大隊司令官から報告が入っております。イスラエル国が中東から北朝鮮に移国して来て100年も経っていますからね。大金を出して村を無人にして荒野に変えていく方法がうまく行っているようです。人がいないんです。大金をもらった人は海外に移住してしまうのかもしれません。自国が嫌いなのか国民性なのかもしれませんね。」

 「韓国も合法的だから始末におえないでしょう。報告ではソウルもひどい様子になっているようです。建っている建物はほとんど役所だけで残りは空き地ですよ。空き地はイスラエル人の土地ですからどうにもできないのですね。そんな土地ですから税金収入も激減しているようです。韓国の人口も半減しています。2000万人になっています。職がなくて飢死か自殺ということです。でもイスラエル国なら暗殺隊くらいを作っているかもしれませんね。逆にイスラエルの人口は倍増しています。半島に来た時は1000万人ほどでしたが今では2000万人です。海外から人間を呼び寄せて大韓民国の町の住民を入れ替え、市町村の為政権を少しずつ奪っていくのですね。うまい方法です。今にソウルも乗っ取られますよ。」

 「椎木さん、大韓民国の為政者も分かっているのでしょうが、大統領は何の対策も取らないのですか。」

「茹でガエルでしたからね。気が付いた時はもう手遅れってことです。韓国は日本が併合してくれることを望んでいるそうですよ。」

「『歴史は繰り返す』ですか。200年前と同じような状況ですね。当時はロシアよりは日本で、今回はイスラエルよりは日本をっていうわけですね。」

「日本は優しいですからね。ロシア人やイスラエル人は朝鮮人とは全く違う民族です。他民族を奴隷にすることは意に介しません。でも日本と朝鮮は昔から繋がりがありました。」

 「日本の対応はどうするのですか。」

「分かりません。それは政治家が決めることです。併合して日本人と同じようにしようとして教育や産業に力を入れても、後で『侵略された』って反日教育を続けて来た国ですからね。私だったら200年前と同じようにはしないでしょうね。」

「椎木さんならどうしますか。」

 「そうですね。・・・私ならイスラエル国の南鮮併合を待ちますね。イスラエル国は南鮮と違って日本に敵対する国ではないですから。」

「併合ってそう簡単にできるものなのですか。」

「簡単にできる場合とできない場合があると思います。もしも南鮮にイスラエル人が多数住んでいれば併合は簡単です。議会を牛耳ることができれば併合は簡単にできます。軍事クーデターを起こして親イスラエル政権を作ってもできます。要は南鮮に親イスラエルの住民が多数いるかどうかだと思います。そんな住民が居なければ反抗組織ができるでしょうね。200年前の日本国は日本人がほとんど住んで居ない朝鮮を朝鮮の要望に従って併合したので多大な援助をしなければなりませんでした。でも人間性でしょうか。感謝はされなかったようです。」

 「大韓民国がイスラエル国に併合されたら反抗組織から傭兵の要請が来るかもしれませんね。」

「それはどうでしょうか。今の大韓民国は貧乏ですから。それに、大韓民国はアクアサンク海底国と隣接しています。イスラエルを追い出した後にそのままアクアサンク海底国に国を乗っ取られると考えるかもしれません。そう考えがちな民族です。」

 「椎木さん、イスラエル国は太平洋に出ることができる航路を欲しいでしょうね。日本海の北側はロシアが抑えていますし、黄海はアクアサンク海底国と大韓民国が抑えています。残りは対馬と大韓民国の間の狭い海峡だけです。」

「私がイスラエルなら大韓民国を併合したいですね。」

「それが100年間準備して来たことなんですかね。」

「そうだと思います。」

 そんな話から3年後の2178年4月、大韓民国はイスラエル国に併合されてイスラエル国となった。

併合は平和裏に行われた。

大統領選挙で対立候補が投票日の直前に事故死して親イスラエルの大統領が誕生した。

新大統領は大韓民国の衰退を憂い、発展を続けているイスラエル国の力を借りて昔のように大発展を遂げようではないかと民衆を説得した。

民衆は現状の貧困を脱することができるならとイスラエル国との併合を受け入れた。

大韓民国は名目上は朝鮮族自治領となったが、統治権はイスラエル国が握っていた。

 イスラエル国は食料の完全な自給を目指し、南鮮を食料庫にしようと農地を広げ漁港を開発した。

もちろん農地や漁港では朝鮮人が小作農や網子として働き、イスラエル人は朝鮮人を雇用する本百姓や網元の形になった。

南朝鮮の生産性は向上したが朝鮮人の地位は低下した。

 世界の形が変われば綻(ほころ)びも生じる。

ブルー大隊による中央アジア連合の哨戒は日本海の海底から始まる。

日本海海底から飛び上がったブルー大隊の戦闘機はこれまで通り大韓民国とイスラエル国の国境線だったコースに沿って飛行し、北京に向かっていた。

 イスラエルの大韓民国併合が発表された2年後、ブルー大隊の戦闘機は朝鮮半島上空でミサイル攻撃を受けた。

戦闘機は一般旅客機が飛行する高度10㎞を飛行していたが、地上から戦闘機に向けて地対空ミサイルが発射された。

ブルー大隊の戦闘機はミサイルを探知すると直ちに上昇し、地上100㎞の高度まで上昇した後、分子分解砲で上昇して来るミサイルを撃墜した。

 3時間後、次のブルー大隊戦闘機隊は相変わらず高度10㎞で飛行し、再びイスラエル国上空で地対空ミサイルの攻撃を受けた。

この時の戦闘機隊は50㎞の高空に逃げたのちにミサイルを撃ち落とした。

その3時間後の偵察でも地対空ミサイルの攻撃を受けたのだが、戦闘機隊はミサイルから逃げないでその位置から向かって来るミサイルを破壊した。

 さらにその3時間後の偵察では戦闘機隊はミサイルを見つけるとミサイルが近くまで少し待ってから急降下し、地上10mをミサイルの方向に向かって全速力で直進した。

高度が1万mに達そうとしていたミサイルは方向を地上に向けて加速したが地上付近で方向を変えることができずに地上に激突した。

その小隊は分子分解砲を撃たないでミサイルを破壊したことになる。

ブルー大隊の偵察小隊の指揮官はミサイルを始末する自分の技量を競っているようにも見えた。

4回のミサイル攻撃に失敗したイスラエル国は5回目の攻撃は行わなかった。

 月末、イスマイルがシークレットを連れて椎木学徒(しいのきがくと)統合幕僚長に定時報告で会いに行った時、椎木統合幕僚長は待ちかねた様子だった。

「イルマズさん、戦闘機がミサイル攻撃を受けたそうですね。」

椎木はいつもの恒例の挨拶をする前にイスマイルに言った。

「こんにちわ、椎木統合幕僚長。アクアサンク海底国の攻撃能力を示す機会をイスラエル国が作ってくれたようです。ありがたいことです。それにしても日本国からかなり離れている場所のことなのに自衛隊はよく探知できましたね。」

 「日本からも探知できましたし、人工衛星からも探知できました。他の国もそれくらいは当然探知しているはずです。」

「いよいよ軍事衛星の必要性が増したようです。そろそろ作った方がいいですね。」

「イルマズさんが作る軍事衛星は周回軌道ですかそれとも定点に固定ですか。」

「もちろん周回軌道型です。軍事衛星はとても重いんです。周回軌道でなければ如何に重力遮断パネルが優秀でもやがて壊れてしまいます。パネルの中のリチウムがヘリウムに変わってしまうんです。周回軌道であれば重力に逆らうエネルギーは必要ありません。低軌道ですから空気の抵抗で次第に速度が落ちて来ますが、その時には少し加速してあげればいいわけです。」

 「それにしてもイスラエルもバカなことをしましたね。アクアサンクを敵にするなんて愚かとしかいいようがない。」

「まあ発射ボタンを押したのは朝鮮人かもしれませんね。軍事力が優れたイスラエル国民になって気が強くなったのかも知れません。」

「それでイスラエル国からは何か言って来ましたか。」

「いいえ、何も言って来ません。イスラエル国はアクアサンク海底国を認めておりませんから。それに、ミサイルを発射しても撃墜できなかった事を公表したくはないでしょう。」

 「そしたらアクアサンクから報復されたら何て言うのでしょうね。テロリストですかね。」

「それはなってのお楽しみです。今度はウイグルと違って朝鮮人とイスラエル人の顔つきの区別は容易です。イスラエル国の人口はイスラエル人が2000万人、朝鮮人が2000万人です。小銃弾なら最大で4000万発です。結構な金額になりますから大隊司令はもっと効率がいい方法を考えるでしょうね。」

「どんな方法でしょう。」

「分かりません。」

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