interlud-1-


「え、ドリゼラは今日はずっと城にいた……ですか」


 アキホ達が夕食を取っている最中、三人組の男のうちの一人が通信機器を使い誰かと連絡を取っていた。


 目の前に姿は無いにも拘らず、その男は腰が引けぺこぺこと頭を下げそうな勢いだ。だが思いもしない返答だったのだろう、彼の口からぽろりと疑問が漏れる。



「でも、帽子越しに見たその様相はどう見ても………」



 納得のいっていないその声に、通話相手は何かを彼に伝えている。その言葉を聞いた男は首を左右にブンブン振り、恐縮した様子で通話越しに焦りを見せていた。



「こちらで調べるって……お、お忙しいのにそんな手を煩わせるわけにはいきませんって!……え、こちらでも気になることがある、ですか………はぁ、そういうことでしたら」



不承不承、といった感じで男は頷き通話を切った。それを周りで聞いていた他の二人は、いそいそと会話の詳細をつぶさに聞こうと耳を寄せる。



「ドリゼラは城にいた。俺たちが見たあの女は別人だったそうだ」


「は?……だが」


「わかっている。帽子越しとはいえあの輪郭や、逃げようとする素振りからもあいつは女王だと、俺もそう思っている」



 しかし、城に張本人が居たのなら別人だと納得するしかない。どれだけ似通っていても、それは絶対に本人ではないのだから。


 そう二人が思っていると、続けて通話をしていた男は会話の続きを伝える。



「だが、団長のほうでも気になる点があったようだ。その少女の詳細について、こちらでも調べてみるとのことだ」


「………そうか。ってことなら俺らも納得するしかねぇわな」



 そう言って彼は勢いよく椅子から飛び降りた。とある廃墟の一室を魔改造し、この三人は住処にしていた。ほかにも反乱軍はいろいろなところに潜伏しているため、こういった光景は珍しくは無いようだ。


 仄かに明るいランタンを三人で囲みながら、いつものように他愛もない話をする。今回の話題は昼に遭遇したあの青年についてだった。

 


「しっかしあの男はなんだったんだろうな」


「あぁ、見たことない風貌だったな」


「そのうえ凄腕ときたもんだ。斬る気が無いのが幸いだったが、下手したら俺ら三人同時に掛かっても斬って捨てられたんじゃないのか?」


「わからん……が、在り得ないと笑うことは出来んな」



 女を助けに入ったあの青年の体捌きを思い出し、三人は身震いした。自分達よりも一回り以上年下の青年がそこまでの域に達していることに三人は戦慄する。



「騎士団なら問答無用で殺しに来るだろうし………何モンだったんだ、あいつは」


「騎士団じゃないというのであれば……学生騎士が妥当なところだろうな」


「学生騎士か………それなら、数年もすれば紛うことなく敵になるのか、あいつが」


「おーこわ。できれば会いたくないもんだねぇ。気づかれないまま傍に寄られるなんて、美女でもない限り怖くて仕方がねぇよ」


「………いや、それは美女だろうが怖いぞ」



 その言葉に三人は顔を見合わせる。そして誰からともなく大声で笑い声を上げ始めた。


 昼の出来事や青年のことは今の爆笑で頭の片隅へと消え、ここからは三人で下らない会話をしながら盛り上がり一晩を過ごす。


 これがこの国で唯一自由に生きている男達。理不尽なほどの圧政を敷く狂王へ抗う事を決めた男たちの、下品で粗暴だが確かに笑いあえる日常の一幕だった。






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