interlude‐4‐
綺麗な夜空に、夜桜が舞っている。
春先の寒い風に吹かれながら私は校門へと歩みを進めている。微かに高揚した胸の内のまま、火照りを冷ますように小さく息を吐いた。
大切な話をした。大切な話を聞いた。光と影が映ろう幻想的な景色の中、彼と交わした言葉の一つ一つが鮮明に記憶に残っている。
「………」
最後に嘘をついた罪悪感が、私の心をチクリと刺した。
母の名を使えば彼は追ってはこないだろうという打算で着いた嘘が、僅かに私の心を苛んでいる。
しかし本当のことを言うわけにはいかない。
言えばきっと彼は私を止めに来る。だからこそ私は独りで
私の歩いていく先、校門の前。そこには見覚えのない顔の人たちが、誰でも見たことのある騎士の鎧を身に纏って悠然と佇んでいた。
その中央、漆黒の鎧を身に纏う男性が一人でこちらへと歩み寄る。
「やはり仕事が早いですね。ギゼリック王国騎士団団長」
「その様子だと、我々の意向も既にお気づきになっているようですね」
「はい。だからこそ、私は独りでここに来たのです」
本当は怖い。直前までは逃げたいと心の何処かで思っていた。
でも、覚悟は決まった。彼に話して、彼と話して、私の心の震えは止まった。
今は毅然と目の前の死に相対することが出来ている。彼と話した彼の兄の生き様が、私のか細い勇気の糸を優しく支えてくれている。
そして私は確信している。
これこそが、間違い続けた私が唯一歩める正しい道なのだと。
「抵抗は、されないのですか」
「そんな無駄なことはしません。……終わらせましょう、この国に巣くう悪意の連鎖を。くだらない憎悪に人々が身を焦がす日々へ、終止符を打ちましょう」
「……ありがとうございます。そして、どうかお許しください。よもや逃げるやもしれぬと貴女を疑った浅ましいこの身を」
的外れな一礼をする彼に私は盛大に溜息を吐いた。
感謝されるいわれも非難する理由もない。
私はあの人の娘。一族に課された許されることのないその罪科を、これから
「それでは、我々にご同行ください。シルヴィエスタ・ル・ユースティア第四王女殿下」
その言葉に頷いて私は大人しく騎士団長に付いて行く。先導する彼と数人の騎士に周りを囲まれる中、私はふと立ち止まって後ろを振り返った。
まだ彼がいるかもしれない屋上を私はじっと見つめる。
そしてあの時きっと聞こえていなかった、そしてもう届くことのない言葉を私は懺悔するようにもう一度呟いた。
「……ごめんなさい。そして、さようなら」
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