第281話 鳩羽村ダンジョン攻略(19)

「ピーナッツマンだ? お前ら、知っているか?」


 男がギルドのパーティメンバーの方を見る。


「――た、たしか……町を救ったとか、海ほたるでレムリア帝国の四聖魔刃の一人クーシャン・ベルニカを戦って退けたとかニュースでやっていたのを見た事があるぞ」


 スキル「神眼」で、男たちのステータスとレベルや名前を確認。

 団長と呼ばれた者は、俺達が鳩羽村ダンジョンに入る前にステータスを閲覧した男。

 その名も織田(おだ) 信伯(のぶはく)。


 レベルは1187と、ギルド【戦国無双】の中では群を抜いている。

 ちなみに、暴言を吐くばかりか相沢の肩を掴もうとした男はレベルが866で名前は石橋(いしばし) 和成(かずなり)。


 その男の俺を見る目が睨むような様子になる。


「どうせ、嘘に違いない! こんなふざけた着ぐるみを着ていて正体を隠しているような奴が、アメリカ第七艦隊を一人で壊滅させたクーシャン・ベルニカと同等な訳がない!」

「いや――、さすがにニュースで嘘をつくのはリスクが高いだろう?」


 どうやら、俺のことを知っているのか石橋と同じギルドメンバーの人間が割って入ってくる。


「いいや! 間違いないね! 俺の魔法「レベル確認Ⅱ」で分かるんだよ! こいつのレベルは1100だ! 団長よりもレベルが低い! そんな奴が、レムリア帝国の四天王を退けられる訳がない! どうせ、日本ダンジョン探索者協会はヒーローがいないからって、ある程度強い奴をヒーローに仕立てたに違いない! これなら団長の方がずっと強いぜ!」

「本当なのか?」

「上田。お前だって、俺が相手のレベルを看破出来るのは知っているだろう?」

「ああ、知っているが……。特殊な魔法を覚えているんじゃないのか?」

「――けっ! それでも、俺達! 最強のギルド! 【戦国無双】が、此処には32人も居るんだ!」

「たしかにな……」


 石橋の言葉にニヤリと自分達の優勢を確信したのか、懐からポーションを取り出すと口に含み立ち上がる織田。

 

「おい! おまえら!」


 織田の指示に、戦国無双のメンバーたちが一斉に動く。

 各々、弓やナイフ、ロングソード、刀、槍と、獲物を携えると俺や相沢だけでなく日本ダンジョン探索者協会の職員と、治療中の女性を囲むように円陣を組んで威圧してきた。


「謝罪をするなら今の内だぜ? その女を寄こして、それなりの金を積むなら許してやるぜ! げへへっへ」


 石橋という男が小物感満載で話しかけてくるが――。


「貴方たちは自分達が何をしているのか理解しているのですか!」


 一喝するかのように日本ダンジョン探索者協会の女性が言葉を紡ぐ。


「ああ!?」


 織田という男が甲冑を鳴らしながら、職員の女性を睨みつける。




 ――魔法「威圧I 」を感知しました。



 

 視界内に半透明なプレートが開くと共にログが流れる。

 そして魔法が効いたのか日本ダンジョン探索者協会の女性は、体中から力が抜けるようにして尻もちをつく。


「へへへ、あとで可愛がってやるよ! 何度か抱けば女なんて物は、言う事を聞くようになるものだからな」


 そう言うと俺の方へと視線を向けてくると同時に、視界内に再度、ログが流れるが――、





 ――魔法「威圧I」を感知しました。

 ――魔法「威圧I」の干渉を受けました。

 ――スキル「威圧LV10」の効果により魔法「威圧I」を無効化しました。




 俺の保有するスキルの力により無効化される。


「ちっ! 異常耐性スキルを持ってやがるのか! ――なら! お前を殺したあとに、そこに居る女共を貪りつくして俺達の奴隷に――「黙れ!」――!?」


 俺は苛立ちを隠さず――、さらにスキル「威圧LV10」を使わない。

 スキル「威圧LV10」で戦わず勝つことも出来るが、それでは俺の苛立ちが治まらない。そして――何より……。


「まったく好き放題、自分達の権力や力を誇示して我を通す! その醜い根性が気に入らん! それに何より! 貴様らは、本来であれば男が守るべきはずである女性に手を上げるばかりが辱める言動や行動を行った。さらにお前達の言動からは、犯罪に加担するような事も日常的に行ってきたのは明白!」

「何を正義ぶってんだよ! そんな着ぐるみを着て! 素顔さえ見せられない雑魚がよ!」


 石橋という男が、言葉を吐き捨てるように俺へと近づいてくると両手持ちのロングソードを振り下ろしてくる。

 それは、相手を必ず殺すという殺意が含まれていた。

 何せ、俺の頭上から振り下ろしてきたのだから。


 救いようがないな。

 

「ひゃっはー! 脳天炸裂コースだぜ!」

「まったく――」

 

 俺は苛立ちを含んだ声色で呟くと同時に振り下ろされた2メートル近いロングソードを左手で掴む。


「――へ? な!? くっ――くそっ! 離せよ! 何だよ! この馬鹿力やろうが!」

「黙れ!」


 俺は左手で掴んでいたロングソードを握り砕く。

 金属が砕けた鈍い音が辺りに響き渡ると同時に、石橋の視線が自らが握っているロングソードの柄と、地面の上に落ちた刀身の残骸へと向けられたと同時に、石橋の腹を思いきり殴りつける。


「ぐはっ――」


 石橋が着ていた日本甲冑の鎧が軋む音と共と共に――、石橋が苦悶の声を上げて地面と水平に吹き飛び地面の上を転がり続け止まった。

 その身体はピクリとも動いていない。

 ステータスを確認する限り、ギリギリ生きてはいる。


「「「「「…………」」」」」


 一瞬の出来事に何が起きたのか分からないのか全員が無言。

 何が起きたのかギャラリーすら理解できていない。

 

「――さて、貴様ら! この俺を怒らせたんだ。覚悟は出来ているんだろうな? 五体満足で、ダンジョン内から出られると思うなよ?」

「――っ!? い、石橋は、史上最強のギルド【戦国無双】の中では最弱! 全員、コイツを殺せ! 我がギルドの威信にかけて!」

「威信か。――なら、その威信や誇りと言ったモノを徹底的に潰してやる。徹底的にな!」


 数人の男たちが俺から距離を取る。

 それと同時に視界内にログが流れる。




 ――魔法「ファイアーボール」の発動を3つ確認しました。

 ――避けることを推奨します。



 

「「「ファイアーボール!」」」


 男たちが攻撃魔法を――、直径2メートルほどもある火の玉を放ってくるが――、俺は炎の玉に向け正拳突きをする。

 それだけで衝撃波が放たれ目の前のファイアーボールが全て消し飛ぶ。


「ば、ばかな……。こんなバカなことが――」


 驚愕な表情の男たちを――、知覚できない速度の指弾が襲う。

 男たちが着ている鎧が、散弾銃を近くで受けたかのように粉々に砕け吹き飛ぶ。 

 そして――、一瞬で、ギルドメンバーを壊滅させられた男が俺を恐怖の眼差しで見てくると――、唐突に土下座をしてきた。


「すいません! 出来心だったんです! 許してください!」

「許すわけがないだろう? さっきも言っただろう? 五体満足では帰さないと――」

「ひっ! こ、こうなったら!」


 人質を取ろうと周りに集まっていたギャラリーの元へと向かおうとする男の腕を俺は掴む。


「どこに行こうというのかね?」

「――ば、化け物が! ぎゃああああああああああ! う、腕があああああああ」


 掴んでいた腕を圧し折る。

 ついでに両足も下段蹴りで叩き折ると同時に顔面に向けて流れるかのように上段蹴り。

 男の体が空中で何回転もし――、地面の上に落ちる。


「さて、こんなものか」


 体をピクピクと震わせながら織田という男は意識を失った。

 そして――、様子を遠巻きに見ていた人間たちから唐突に歓声が沸き上がる。

 



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