第280話 鳩羽村ダンジョン攻略(18)

「そう悲観する物でもない。怪我人の治療はしよう。俺の弟子が!」

「――え?」


 横で、すでに下の階層へ降りる気構えだったのか相沢が素っ頓狂な声を上げてくる。


「相沢、丁度いいだろう? 『治癒の魔法』を覚えたんだ。その練習台として使える人がたくさんいる」

「いいんですか?」

「ああ、魔法は使っておかないと効果が分からないからな」

「水上さん、怪我をした冒険者の治療をさせてもらってもいいか?」

「もちろんです! 怪我をした探索者が戦線に復帰して頂ければ、それだけで防衛力は上がりますので!」

「――だ、そうだ」

「分かりました」


 俺の言葉に頷く相沢。

 話が決まったところで相沢は日本ダンジョン探索者協会の女性職員に連れられて治療に向かう。

 そして――。


「水上さん、これを使ってくれ」

「これは?」

「ミドルポーションになる。本数としては10本ほどだが、無いよりはマシだろう?」


 俺の提案にゴクリと唾を呑み込む職員。


「――で、ですが……、宜しいのでしょうか?」

「何がだ?」

「これは、最低落札価格一本200万円はする代物です。そのような物を……」

「気にすることはない。これは俺からの提供品だ。それに――」


 自分が関わった場所で誰かが死ぬのは……。


「何か?」

「いや、気にする必要はないということだ」

「分かりました。このお礼は何時か必ず――」




「殆どの探索者の治療は終わりそうだという事です」


 日本ダンジョン探索者協会の事務所の一室で休んでいたところ、水上が部屋に入ってきて説明してくる。


「そうか。それで相沢は?」

「お弟子さんですね。まだ治療をしているようですが、もうすぐ終わるそうです」

「そうか」


 俺は立ち上がり相沢を迎えに行くために事務所を出る。

 先ほどまでは苦悶の表情を見せて倒れていたり壁に寄りかかっている冒険者が多数見受けられたが、いまは治療が済んだこともあり普通に休んでいるようだ。


「さて……」


 どうしたものか。

 さすがにピーナッツマンの着ぐるみを着ている俺は目立っている。

 歩けば全員の視線が俺に向けられてくる。

 もちろん好意の視線だけでなく嫉妬や妬みなどと言ったモノも感じ取れる。


「まったく、厄介な物だな」


 スキル「神眼」を使いながら休憩の階層をしばらく歩く。

 日本ダンジョン探索者協会の職員のレベルは120から160前後。

 そして冒険者のレベルは200から400前後と、それなりに高い。

 ダンジョン自体が安全だと言っても、Dランクのダンジョンというだけはあるのかも知れないな。


「俺の所の団長を先に治療しろよ!」


 しばらく歩いていると、そんな声が耳元に届く。

 視線を向けると、そこには20代の女性冒険者を魔法で治療している相沢の姿がある。

 そして、相沢に詰め寄っているのは20歳後半の金髪の男。

 雰囲気からして問題児だと言うのは一目で分かる。

 

「重症な怪我人から治療していますので――」


 そう説得するのは日本ダンジョン探索者協会の――、相沢を案内する為に事務所にきた女性。


「うるせえな! 俺達は、お前達! 不甲斐ない日本ダンジョン探索者協会の職員を助ける為に怪我を負ったんだぞ!」

「……分かっています。――ですから順番に……」

「ちっ! お前じゃ話にならねーよ! 俺達のことを知らないとは言わせねーぞ! かの有名な! Sランクギルドの【戦国無双】のパーティだぞ! そこいらの弱小冒険者ギルドとは格が違うんだよ!」


 その言葉に、周りの冒険者たちが委縮する気配を見せる。

 命が掛かっているダンジョン内で大手ギルドを敵に回したくないという表れだろう。


「なあ! お前も、俺達のギルドに入らないか? 回復魔法が使えるなら好待遇でギルドに入れてやるよ。そうすっよね! 団長!」

「うむ!」


 30歳前半のキザっぽい男が頷く。

 そして舐めるように相沢の体を目に焼き付けるかのごとく見る。


「私は旦那が居ますので」

「それは燃えますね! 団長!」

「そうだな。俺の愛人にしてやってもいい」

「――そういうことだ! 分かったな! おい! 女!」


 男が手を――、相沢の肩に伸ばそうとする。

 そこで俺が、男の手を掴む。


「――ああっ!? なんだてめえは!」

「俺の名前はピーナッツマン! 俺の弟子に汚い手で触らないでもらおうか?」





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