第279話 鳩羽村ダンジョン攻略(17)

「それは本当に良かったです……」


 ホッと胸を撫でおろすような様子で溜息をつく男。


「とりあえずは、しばらく此処で大人しくしていた方がいい」

「重々承知しています。それでピーナッツマンさんにお願いがあるのですが……」

「お願い?」

「はい。他の33階層と44階層に休憩の階層があるのですが……」

「まさか連絡しに行って欲しいということか?」

「はい。誠に心苦しいのですが……」

「ふむ……」


 どうしたものか……。

 チラッと相沢の方を見るが俺をジッと見てきているだけ。

 流石に、普段とは違う状況に何かしら考えがあるのかこちらに無理強いはしてこないようだな。

 ただし、問題は――。


「分かった」


 いまの俺はピーナッツマンの着ぐるみを着ている。

 そんな現状で断るという選択肢を取るのは非常に難しい。

 それに恐らくだが……、現在の鳩羽村ダンジョン内で安全に探索できるのは俺と相沢くらいな物だろう。

 モンスターのレベルを冒険者が見られると聞いた事は無い。

 ただし貝塚ダンジョンのモンスターレベルの分布を参考にすると現在、鳩羽村ダンジョンに出現するモンスターのレベルは一桁は高い。

 そうなると、鳩羽村ダンジョン内で探索するには、かなりの高レベルが要求されることになる。

 面倒になったものだ。


「本当ですか?」

「ああ、もちろんだ。俺が44階層まで降りて現状の説明に赴くとしよう」

「ありがとうございます」

「気にするな。それと相沢」

「はい」

「君は、ここで怪我人の手当をしておいてくれ」

「それは……」


 俺の言葉に相沢が頭を左右に振る。


「できません。私も目的があってダンジョンに潜りましたので」

「……そうか。なら仕方ないな」

「あの……、差し出がましいようですが――」

「――ん?」

「お弟子さんもモンスターを倒せるのですか?」

「そうだな……」

「まぁ、弟子ではないんだが先ほどは、そう説明してしまったからな」


 とりあえず頷いておく。


「それなら、22階層の守りをお願いしたいのですが……」

「それは当人に聞いてくれ」

 

 俺が口を出す事ではない。

 そもそも彼女は夫を探しにダンジョンに潜ったのだ。

 そして、俺はそれに手を貸している。

 約束を違うような事があれば、相沢から身バレする危険性だって存在している。

 つまり、俺が決めることですらない。


「私は、自分ですることがありますので」

「……そ、そうですか……」


 肩を落とすようにして目を伏せる水上。

 同情はしないが、頑張ってもらいたいものだ。


「とにかくモンスタートレインしてこない限り問題ないだろう?」

「分かりました」


 渋々といった様子で引き下がる職員。

 まぁ、日本ダンジョン探索者協会も死者が出ているのだから、何とか被害を抑えたいというのは分からなくもない。



 


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