第269話 鳩羽村ダンジョン攻略(7)
――やる気がでない。
俺は、ボーッと目の前で繰り広げられる戦闘を見ながら思わず溜息をつく。
現在の俺達が居る階層は10階層を隅々まで探索したあとに降りた次の階層である11階層。
そこに出現するダンジョンモンスター『空飛ぶ酒樽(空)』。
そのモンスターと、相沢が戦っている。
彼女は、日本刀を片手で振りながら、30リットル前後が入る大きさの樽を破壊していく。
「はぁはぁはぁ……、疲れました……」
10階層に降りてから戦闘経験を積ませようとして、まったくサポートをしなくなった結果――、相沢は戦闘の場面では自分でモンスターを0から倒す攻略方法が必要になった。
そのことで、精神と体力の両面からストレスが蓄積されていき――、座り込む状況に陥っている。
いくらレベルが上がってもステータスが上がろうとも、その辺は改善できないのだなと感じながらも俺の場合は貝塚ダンジョンを攻略した時には殆ど疲れなかった事を思い出す。
「少し休みますか」
「はい……」
ダンジョン内の――、苔が生えていたり罅が入っている石壁に背中を預けながら、彼女は俺から受け取ったペットボトルを口にする。
ちなみにペットボトルの中身は、ミドルポーション。
効果はHP回復や、単純骨折から粉砕骨折まで回復してくれるので、スタミナなども回復してくれるだろう。
……たぶん。
「これって不思議な味がしますね」
「まぁ疲れている時は、ヌカリスエットとかいいですからね」
「はい! 例の人の体液に近い成分とか何とかって物ですよね? 何となくですけど疲れが飛ぶ気がします!」
「もう一本いっておきますか? 24時間戦えたりはしないと思いますけど」
「頂きます」
俺はアイテムボックスからミドルポーションが入ったペットボトルを取り出す。
そしてキャップを開ける。
ちなみにミドルポーションを入れる為にキャップは開けたので、そのまま渡すと不審に思われるのでキャップを開けてから渡す。
彼女がミドルポーションを飲んでいるのを見ながら俺はアイテムボックスから松阪牛で作られた牛丼を取り出しながら食する。
ふむ……。
味付けは牛野屋には及ばないが、肉が良いのかホロホロ崩れるのはいい感じだ。
問題は、味付けだな。
世界を席巻するパソコンOSの9割を占める企業と同格の売り上げを出している牛野屋には、まだまだ遠く及ばないか。
ピーナッツマンのぬいぐるみ(頭)の部分を脱いだあとアイテムボックスの魔法を起動。
松阪牛の牛丼を取り出す。
「いただきます! ぱくぱくむしゃむしゃ」
「山岸さん?」
俺が食べていたところで、相沢が話しかけてくる。
「もぐもぐ……どうかしましたか? ……もぐもぐ」
「食べてからでいいです」
「ごっくん――、で? 何か?」
「あの、その着ぐるみって――、そろそろ脱いでも問題ないのでは?」
「――何かあったら困るので、とりあえず食べる時以外は脱がないことにしてます」
「そうですか……。それにしても、すごい食べますね。そんなにお腹が空いていたんですか?」
「まぁ、久しぶりの牛丼ですからね」
食べ終わった器をアイテムボックスに仕舞ったあと、俺はダンジョンの壁に背中を預ける。
「あの……、どうして山岸さんは冒険者になったんですか?」
「ふむ……」
相沢の問いかけに一瞬考える。
そのせいで一瞬、間が開き――、
「何となくですね」
まぁ、俺が冒険者というか探索者になったのは本当に偶然の産物だからな。
そもそも俺は、派遣社員よりも危険で実りが変動し命が関わるような探索者になるつもりは、端から無かった。
そもそも俺は、上落ち村に関わる情報を得る為に、コールセンターで仕事をしていた訳だし……。
「何となくですか……、それでSランク冒険者になれるのはすごいですね」
「そうですね……」
頷きながらも、俺は自分の手を見る。
そもそも俺の力は、一般の冒険者とは異なる。
自宅にダンジョンが出来たことで、それを介して手に入れた力に過ぎない。
最初は、何となく手に入れた力だったが――、よくよく考えれば俺の力は普通ではない。
理由は分からないが、俺が夜刀神を探していた理由と、俺の力は何かしらの関係性があるのかも知れない。
「山岸さんは、今後はどうするつもりなんですか?」
「今後?」
「はい。ピーナッツマンの活躍はネット上で動画が上がっていました! それだけの力があるのでしたら――、それだけの知名度があるのなら何だってできますよね?」
「……」
俺は無言で返す。
今の俺にしたいことは、妹を探すくらいで――、それは日本国政府に頼んでいる。
それに……。
ネット上で見た事がある記事には――、
「出過ぎたことを言いました……」
「いや――」
俺は頭を左右に振る。
最近、考えないようにしていた。
――俺が既に死んでいるという記事がネット上のニュースで上がっていたことを。
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