第268話 鳩羽村ダンジョン攻略(6)

 一般の牛よりも一回りほど巨体の体躯をしているモンスター『レッドブル』が突っ込んでくる。

 

「行きます!」


 ダンジョンモンスターが走って近づいてくるのを見ながら、相沢が俺の前へと進みでる。

 そして――、腰に差してある日本刀の形をした神刀・天津彦根命(アマツヒコネノミコト)を抜き放つ。

 その動きは、まだぎこちないがダンジョンに入った時と比べて格段に良くなっている。


 9階層に降りてからは、すでに100匹近いモンスターと戦闘をしている事と、ステータスとレベルが強化されたことで少しずつ戦闘に慣れてきたのが大きいのかもしれない。

 突っ込んでくる牛のモンスターの攻撃を、横に跳躍することで避けたあとモンスターの側面から神刀・天津彦根命(アマツヒコネノミコト)を振り下ろす。

 刃は、紙でも切り裂くようにモンスターの体を両断――、さらには勢い余って、その刀身はダンジョンの床すら切り裂く。




 ――レアモンスター、レッドブルLV51を討滅しました。

 ――パーティメンバー、相沢(あいざわ) 凛(りん)が経験値を取得しました。

 ――パーティメンバー、相沢凛は、消去者(イレイザー)の加護により取得経験値が倍増されます。

 ――パーティメンバー、相沢凛のレベルが上がりました。

 ――パーティメンバー、相沢凛のレベルが175から176に上がりました。




 100匹倒して、ようやく相沢のレベルが上がった。

 経験値ブーストが掛かっていても、レベルが1上がるのに100匹倒す必要があるとなると、レベル上げはかなり大変なようだ。

 そうなるとSランク冒険者の……ダンジョンに入る前に見たレベル1000超えというのは相当すごい事になるな。

 

「山岸さん! レベルが上がりました!」

「お疲れ様です」


 俺は、真っ二つになった牛の魔物を、魔法『アイテムボックス』を起動して収納しながら言葉を返す。


「あの……」

「何でしょうか?」

「次の階層は、何時頃探索するんですか? すぐに戻ってきましたよね?」

「ええ、まあ……」


 一応、10階層をチラリと見たが――、10階層からは魔物の種類がガラリと変わっていたので、とりあえず9階層で狩りをすることに決めたのだ。


「相沢さんは、まだ体の動かし方が戦闘面を含めて慣れてはいないようなので、格下を相手に戦闘経験を積んだ方がいいという判断です。これから下の方に行けば行くほど強いモンスターが出てくるのは容易に想像がつくので――」

「本当ですか?」

「ええ、Sランク冒険者ですから――、これからの事も考えて行動している結果です」


 まぁ、さすがに10階層からは酒樽に羽が生えた『空飛ぶ酒樽』が居たからやる気が無くなって牛を集めているとは言い難い。

 相沢との約束を忘れているつもりはないが、やはり牛肉は補充しておきたいというのは『牛丼マイスター』を目指す者にとっては常識だからな。


「あの……」

「何でしょうか?」

「もうダンジョンに入ってから10時間近く経ちますけど……」

「なるほど。それでは、今日は帰りましょうか」

「――え!?」

「何か?」

「いえ、そうではなくて43階層までいくのでは……」

「ふむ。ただ、無理をするのは良くないので――」

「――で、でも! きちんと調査をするって」

「ああ、忘れていました」

「山岸さん……」


 何だか呆れたような表情で俺を見てくるが、俺だってそんなに暇じゃないんだぞ?

 半ば強制で付き合わされているだけで――。

 まぁ、それを言ったところで何にもならないけどな!


「はぁ、わかりました。とりあえず食事にしますか」


 俺は、飲み物とコンビニで購入してきた松阪牛を使った弁当をアイテムボックスから取り出す。


「え? あ、あの……」

「何でしょうか?」

「一応、お弁当を作ってきましたので――」


 せっかくお弁当を作ってきてくれたのだ。

 此処はご相伴にあずかるとしよう。

 相沢が、背負っているリュックサックの中からピクニックシートを取り出すと、ダンジョンの床の上に敷く。

 正直言わせてもらえるなら、ダンジョン内にピクニックシートを敷かれても、殆ど意味はないと思うんだが――、このへんは気分の問題なのだろう。


 俺が見ている間に保温が出来る弁当を2つ取り出すと、「これは山岸さんの分です」と手渡してくる。

 俺としては、大きなバスケットに弁当を入れて出すと思っていたが、まさか保温弁当が出てくるとは予想外。


 二人して食事をしつつ、


「これからどうしますか?」


 俺は差し出されたお茶を飲みながら、「牛の魔物だけを狩るというのはどうですかね?」と言葉を濁しながら話すが早く階下を降りたいとお願いという却下をされた。

 まったく、地酒が入っているかどうか分からない『空飛ぶ酒樽』モンスターとか俺の管轄外なんだがな……。




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