第265話 鳩羽村ダンジョン攻略(3)

 ――鳩羽村ダンジョン1階層。


 入口から300メートルほどの地点を現時点、俺と相沢は歩いている。


 ところどころ、通路の隅に配置されている通信端末装置。

 それらは、日本でも有数の携帯会社ノコモコサービスが日本ダンジョン探索協会と技術協力して提供して設置している機器であり、ダンジョン内でスマートフォンを使う際に中継ステーションとして利用される物。


「それにしても、便利なものですね」


 呟きながら、スマートフォンのアプリをチェックする。

 そして――、日本ダンジョン探索者協会津市鳩羽村支店が提供しているデーターをダウンロードした物を開く。


 俺達が移動すると共に、リアルタイムでダンジョン内の自分達がいる場所が光点で表示される。

 さらに、ダンジョン内のMAPは50階層まで表示されていることから、余程の事が無い限り迷うことはないだろう。


「はい。――ですけど……」


 相沢の言葉が沈む。

 その理由は分かる。

 ダンジョン内を探索するときに、もっとも重要なのは食糧と水と自分が何処に居るかを把握できるかどうかだ。

 つまり場所が常に表示されている鳩羽村ダンジョンに限って言えば、50階層より下の階層に潜らないかぎり場所が分からなくなることはない。


「そういえば旦那さんのレベルは?」

「レベルは53です」

「なるほど……」


 たしか、日本ダンジョン探索者協会の規定では、現時点のレベルからマイナス10を引いた数字が安全に探索できる階層限界だったはず。

 そしていの命が関わってくるダンジョンに無理をする冒険者は限りなく少ない。

 結婚をして妻が居るのなら尚更だろう。


「そうなると43階層くらいまでが探索限界と言ったところですか」

「そうなります」

「ふむ……」


 そうなると、色々と不審な点が出てくる。

 鳩羽村ダンジョンは、50階層までMAPが存在している。

 そして通信も繋がる状況になっている点から、不足な事態が起きたとしても問題はない。

 俺も、ノコモココールセンターに居たのだから分かる。

 ダンジョン内に居ても電話は繋がるのだ。


「旦那さんは無理をしてまで階層攻略に邁進したりすることは?」

「ないです。食材を仕入れていたので、そこまで無理をすることはないです」

「なるほど……」


 そうなると、やはり色々と矛盾が生じてくる。

 鳩羽村の日本ダンジョン探索協会の支部長である宮本の対応もおかしい。

 ここは用心をしておいた方がいいかも知れないな。


 ――そう思ったところで、視界内に赤いプレートが開くとプレート内に文字列が流れる。




 ――魔物『レッドブル』が攻撃態勢に移行。

 ――突っ込んできます。 


 


「相沢さん、モンスターがきます」

「――え!?」

「早く用意を」

「は、はい!」


 引きずるように運んでいた日本刀であり神刀・天津彦根命(アマツヒコネノミコト)を、鞘から四苦八苦して抜いたあと、必死に両手で構える相沢。

 それと同時にモンスターが姿を現す。

 大人の豚よりも二回りは大きい。

 それが、全力で突っ込んでくる。


「は、はやいっ!?」


 相沢が悲鳴を上げるが――。

 俺は、親指を人差し指で押さえつつ空気を弾く。

 それだけで凶器と貸した空気の弾丸は音速で『レッドブル』の四肢に激突。

 その右前足と右後ろ足を破壊する。

 

 勢いをつけていた弊害もあり、豚はそのまま横倒しに倒れる。


「相沢さん! モンスターが、躓いて転倒したようです。すぐに日本刀で頭を攻撃してください」

「――ッ! わ、わかりました!」


 ダッシュで走る相沢。

 そして……、モンスターの傍まで近寄ったところで日本刀を両手でシッカリと掴んだまま上段の構えをし――、「はあっ!」と、力強く――、その刀身をモンスターの頭部に向けて振り下ろす。

 神刀・天津彦根命(アマツヒコネノミコト)の刀身は、呆気なくモンスターの頭を跳ね飛ばした。


「やりました! 倒しました!」

「お疲れ様です」


 モンスターの方を見るが、宝箱もアイテムも出ていない。

 何となく分かっていたが――、モンスターからアイテムが出るかどうかは運のステータスと共に最後に攻撃を仕掛けて倒したかどうかも関わってくるのかも知れない。


 …………それにしてもレベルの伸びがいいな。




 ステータス 


 名前 相沢(あいざわ) 凛(りん)

 職業 自営業 ※小料理屋店主

 年齢 23歳

 身長 155センチ

 体重 46キログラム

 

 レベル14→18


 HP180/HP180

 MP180/MP180


 体力17(+)

 敏捷23(+)

 腕力14(+)

 魔力 0(+)

 幸運 6(+)

 魅力21(+) 


 所有ポイント0→4




「すごいです! レベルが18になってます! レベルを一つ上げるだけでも、何日も何週間もかかるのに」


 相沢が興奮した面持ちで振り返ってくる。

 

「それは良かったですね」


 相槌を打ちながら視界内のプレートを確認するが――、

 やはり取得経験値倍増というログが大きく関わっているのかも知れないな。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る