第264話 鳩羽村ダンジョン攻略(2)

「大丈夫ですか?」


 ショートスピアが折れたあと、体勢を崩して尻もちをついている相沢さんの元へ駆け寄りながら手を差し伸べる。


「――は、はい……、――で、でも……」


 俺の手を握るのを確認したあと、軽く力を込めて引っ張り立たせるが――、その視線は折れたスピアではなく爆散したレッドボアから出た宝箱に向けられている。


「宝箱ですか」


 宝箱なんて初めてみたな。

 しかも縦横奥行きと2メートルずつあって大きい。

 正直、通路にあると邪魔以外の何物でもない。

 

「宝箱が出るなんて、すごく運がいいです」


 ――いや、問題はそこじゃない。養豚場にいるような豚の大きさなど高が知れている。

 その豚よりも明らかに体積の大きい宝箱が出ている事に! まずは疑問を持つべきだと俺は思うんだが――。


「とりあえず運がいいかどうかは別として――」

「分かっています。――私の武器のことですね」


 そんな話も別にしていない。

 さっさと宝箱を開けておきたいから、そのことを言おうと思っただけ。

 しかし……、何やら相沢さんの様子がおかしい。

 まるで何か大事なことを話したがっているように思える。

 まぁ、俺が余計なことを聞く必要もない。

 余計な事情に首を突っ込むのも面倒だからな。


「じつは、あの武器は夫が居た時に一緒に購入した――」


 いや――、だから……、どうして態々(わざわざ)、説明してくるのか。

 俺は聞きたいなどと一言も言ってはいないんだが……。


「そうでしたか」


 こう言葉を返すしか方法がない。

 とりあえず、宝箱を開けて何が入っているのか確認しないとな。


「ピーナッツマンさん」

「はい?」


 宝箱を開けようと近づいたところで相沢さんが横から俺のキャラ名を呼んでくる。


「何でしょうか?」

「宝箱には、トラップが仕掛けられていることがあるそうです」

「それなら、普通はどうやって開けているんですか?」

「基本は、宝箱は宝くじと同じくらいの確率で本当に出ませんので――、台車を取りにいって日本ダンジョン探索者協会の方に赤外線スキャンなどをしてもらって何も問題が無ければ機械などで開けてもらうのが一般的です」

「なるほど……」


 俺の時は、宝箱どころか剥き出しでアイテムが出てきたが――、普通はそうなのか……。

 色々と勉強になるな。


 ――だが! 地上に戻る時間がもったいない。


「とりあえず離れてもらえますか?」

「もしかして、開錠の魔法を覚えているんですか?」

「まぁ、一応は――」


 そんな魔法もあるのか。

 色々と便利だな。


「ふんっ!」


 俺は宝箱に向けて手刀を打ち下ろす。

 それだけで宝箱は爆散し、周りに木片をまき散らす。

 中から現れたのは一本の日本刀。


「日本刀みたいですね」


 俺は、呟きながら日本刀を持ち上げスキル「神眼LV10」で性能を確認する。




【アイテム名】  

 

 神刀・天津彦根命(アマツヒコネノミコト)

  

【効果】   

 

 鍛冶の神・天津彦根命が鍛えた名刀の一振り。

 オリハルコンを主軸とした玉鋼を利用した作りになっており、破邪の効果を持つ。

 使い手を選び、主として認めれば重さを感じることなく振るう事が出来る珠玉の一刀。




「なるほど……」

「えっと……、宝箱を壊した? ……んですか……?」

「まぁ、自分がよくやる開錠(物理)方法ですね」


 疲れ切った様子の相沢に、神刀を投げ渡す。

 一応、鞘に入っているから怪我をすることはない。


「――え? あ――、お……重い……」


 両手で辛うじて受け止めることが出来た相沢。


「とりあえず、ショートスピアは折れてしまったようなので自分の方で回収しておきます」


 四次元ポーチを取り出しショートスピアを入れる。


「あ、あの……、そ、それは……」

「ああ、これはアイテムボックスみたいな物なので」

「Sランク冒険者の方は色々とすごいんですね……」


 相沢が、もう色々と諦めた表情をしている。


「まぁ、そうですね」


 俺は肩を竦めながら答えつつも、相沢のステータスを弄る。


 


 ステータス 


 名前 相沢(あいざわ) 凛(りん)

 職業 自営業 ※小料理屋店主

 年齢 23歳

 身長 155センチ

 体重 46キログラム

 

 レベル14


 HP140/HP140

 MP140/MP140


 体力12(+)→17(+)

 敏捷23(+)

 腕力14(+)

 魔力 0(+)

 幸運 6(+)

 魅力21(+) 


 所有ポイント5→0




「あれ? なんだが、ほんの少しだけ軽くなった気がします……」


 まぁ、ステータスを弄ったのだから少しはマシになってもらわないとな。


「それでは先に進みましょう」

「はい」


 


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