第251話 旅館のプレオープン!

 鳩羽村交通の社屋建設地の整地を佐々木が魔法を使い数日で終わらせてから2週間。

 すでに、社屋の建設の為の資材が投入されており、いまは鳩羽村交通の会長である光方さんが今後のことも鳩羽村工務店と話を詰めている。


 ――そして、俺と言えば……。


「ようこそ! 旅館『捧木』へ!」


 ――と、各政財界の大物の親族――、つまり泊り客を受け入れる手伝いをしていた。

 政財界の大物と言っても、それは宣伝として利用できないといけないので、身体的に障害がある家族のみという事になっている。

 つまり、いくら権力やお金があっても該当しなければ受け入れない。

 それは、正式開業に向けて先駆けとして一週間だけ一部の人相手に限定的に公開するなら当たり前の事である。

 何せ、ミドルポーションを薬効として利用した薬湯温泉に――、皮膚病から視力まで回復する為の貝塚ダンジョン産のアイテムが使い放題なのだ。

 

 ――ただし……。


「まったく、こんな田舎まで――、総理は一体何を考えているのか……」

「古臭い旅館ね。本当に、こんなところで娘の皮膚病が治るのかしら。変な病気なんてないかしら」


 上級国民なだけあって、他者をナチュラルに蔑む言葉を使ってくる声が聞こえてきた。

 いくら、夏目総理の紹介であっても――、


「あの、お客様」

「何よ?」

「お帰りはあちらでございます」


 ――こちらだって客を選ぶ権利はある。

 ……と、言うか此方は宣伝になるからと無料で宿泊を受けているが――、別に苛立つくらいムカつく客には帰ってもらってもいい。


「――え? 私達は客なのよ? お客様は、神様だという言葉を知らないのかしら?」

「申し訳ありません。それは、店側が言う事であり利用客が言う言葉ではありませんので――。あと、店の経営方針や、どのお客様と取引するかは店側が決めることですので、こちらを愚弄するような発言をされるのでしたらお帰りくださって結構です」


 俺の言葉に、40代の厚化粧の女の眉が逆立つ。


「あなた! 自分が何を言っているのか分かっているの? 私は、日本を代表する大手家具店の女社長なのよ! 責任者を出しなさい! 責任者を!」

「――やれやれ……」


 俺は、先ほどまでの対応と変える。


「さっさと帰れと言っているだろ? 責任者は俺だ! 文句があるのなら、俺に文句を言え。まぁ、貴様が俺に文句を言おうが、ここは俺の旅館だからな。クレームは、一切受け付けない。お前ごときが客として利用しなくても他に利用したい人間は、幾らでも出てくるだろうからな」

「――っ!?」


 女は顔を真っ赤にする。

 そして皮膚病を患っている子供の手を掴んだまま、俺を睨みつけてくる。


「ほら、さっさと帰れ」


 シッシッと手を振ると、女は男と一緒に旅館入口から出ていく。


「やれやれ――」


 俺は溜息をつく。

 夏目総理が、紹介してくれた経団連のお偉方は、旅館『捧木』のプレオープンに来てもらうのは良いんだが、どうも金持ちというのは庶民を馬鹿にする癖がついていて余計な問題ばかり起こすんだよな。


 ――そう。


 俺の仕事というのは、クレーマーになりかねない客を支配人として追い返す仕事なのだ。

 こんな仕事、派遣社員を社員として登用したが過度な責任が掛かるから任せられない。

 それに何かあれば全て俺に回ってくるだろうし、何より接客になれていない仲居見習いには任せられないからな。

 あとは、旅館の支配人である俺が確固たる意志を利用客に示すことで、利用客側も変なクレームを入れてくることも少なくなるはずだからな。



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