第250話 魔法は重機の代わり。

 鳩羽村交通の社屋の改築が決まってから、図面が上がってくるまでは2週間近くかかるらしく――、その間は鳩羽村交通周辺の森を切り開くこととなった。


「ウィンドカッター!」

 

 佐々木の魔法が、鳩羽村交通の周辺に生えている大木を切り倒していく。

 それを見ながら、俺は図面の作成を鳩羽村工務店の図面作成担当の田中雄二と話しながら注文を付けていた。


「先輩っ!」

「どうした?」

「どのくらいまでの範囲を整地すればいいんですか?」

「そうだな……」


 晴天と言う事もあり、外で図面作成の話をしていた俺は椅子から立ち上がり、ビニールテープを手に持ちながら範囲を囲っていく。


「とりあえず、このくらいだな。田中さん、このくらいで大丈夫ですか?」

「そうですね……、もう一回りくらい有った方がいいかも知れません」

「なるほど……」

「えー」


 佐々木が不平不満の声を上げるが、大木などを除去する為には時間が掛かるし尚且つ職人の手配が必要になる。

 その点、佐々木の魔法なら、風の刃を飛ばして木を離れた場所から伐採できるので安全性が非常に高い。


「ふむ……」

「せんぱい?」

「いや――、風の魔法は応用が効くなと思ったんだ。佐々木なら林業の会社を立ち上げるというのもありかも知れないな」

「……私は、林業よりも――、先輩のお嫁さんが……」 


 最後の方はぼそぼそと小声で話していたのでよくは聞こえなかったが――、あまり林業は好みではないようだな。

 

「それじゃ、佐々木頼んだぞ」

「……はい」


 小さな溜息をつくと佐々木は、魔法で改築予定の社屋となる場所を確保するために森を切り開き始めた。

 夕方になる頃には、図面も粗方できた。

 正確には、こちらの要望だけを盛り込んだ図面という形になるので、あとは法令に則った図面と建造物として耐震構造や建築法に沿っているように手直しするのが残っているが――。


「それでは、これで承らせて頂きます。図面が、基準に見合う図面が出来るのは一週間ほど掛かると思いますので」

「よろしくお願いします」

「アースウェーブ! ウィンドカッター! アースウェーブ! ウィンドカッター! アースウェーブ! ウィンドカッター! アースウェーブ! ウィンドカッター!」


 話をしている間にも佐々木の声が辺りに木霊する。

 田中が帰ったあと、しばらくして十分に森が切り開けたところで、ヨロヨロと佐々木が近寄ってくると、俺が座っていた椅子の隣の席に座り――、麦茶が入ったペットボトルを口にして飲み始める。


「疲れました……、先輩も少しは手伝ってください」

「――いや、俺が手伝うのはマズイだろう?」

「だって、先輩なら一瞬で終わるんじゃないんですか? あの緑色の剣を使えば……」


 まぁ、たしかに一瞬で終わるかも知れないが――、魔法:草薙の剣は色々と問題があるからな――、その最たる例は威力が強すぎるという点だ。

 しかも、どう考えてもレベルを隠蔽している俺にとって、魔法を使うのはマズイ。

 佐々木の本家のお膝元で、こちらの手の内を晒すのは愚行と言えるからな。


 チラリと見ると、佐々木が先ほどまで作業をしていた場所の大木は綺麗に伐採されているだけでなく切り倒されている大木は、表皮は綺麗に剥ぎ取られており枝もキチンと取り除かれていて丸太になっていた。

 しかも、土系の魔法を使ったのか切り株も綺麗に掘り起こされて一纏めに積み重なっている。


「佐々木は土方にも向いているのかも知れないな」

「……」


 不服そうな目で見てくる佐々木。

 俺は何かマズイことでも言っただろうか?




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