第172話 蠢く陰謀(1)

 首相官邸から出たあと、スキル「威圧」により意識を失って歩道や道端で倒れている人を避けるように移動する。

 中には、俺のことを警戒していた警察関係者も居たが誰もが沈黙をしたまま、行動に移そうとはしない。

 もしかすると、小野平防衛大臣が何かしらの命令をしたのかも知れないな。

 何ごともなく霞が関の方へと向かい――、路肩に停車している車が見えてくる。


「いま戻りました」

「先輩、おかえりなさい。どこに行っていたのですか?」

「ちょっと知り合いに会いに行っていただけだ。それより相原さん」

「分かっています。向かうのは三重県で宜しかったでしょうか?」

「佐々木」

「はい。そうです。三重県まで宜しくお願いします。

「それでは首都高に乗った後は、東名高速で南下する形でいいでしょうか?」

「はい」


 佐々木が頷きながら答えた後、車は首都高に乗ると――、渋谷方面へと走り東京ICで東名高速へ乗り換えたあと南下していく。

 その間、俺はスマートフォンを取り出し三重県までの距離を確認する。


「佐々木、お前の実家はどこにあるんだ? 松坂牛を特産物にすると言う事は松坂市に近いのか?」

「はい。松坂市から車で2時間くらいの距離です」

「それは近いというのか?」


 思わず突っ込みを入れてしまうが、松坂市までのルートを確認することにする。


「結構、遠いな――」

「佐々木様、松坂市から向かう町か村の名前を教えて頂けますか?」

「は、はい――。鳩羽村と言います」

「鳩羽村ですね」


 運転をしながら音声入力されたカーナビには到着予想時刻などは表示されていく。


「到着は8時間20分後ですね。先日に起きたレムリア帝国のテロ被害により高速道路の一部修繕が入っていて渋滞しているようです」

「それなら仕方ないか……。相原さん、今日は松坂市内で一泊しましょう。無理に山道の中を走っても危険なだけですから」

「そうですね……、山岸様がそれで宜しければ――」

「問題ないです」


 とりあえず、俺は松坂市内で牛丼屋があるかどうかチェックしていく。

 するとご当地名物である松坂牛を使った牛丼を提供している店が幾つか出てくる。


 ――これは、いくしかない!


 営業時間は夜10時までと、このペースなら十分間に合う。


「先輩……」


 俺が、今後の牛丼食べ歩きコースを考えていると佐々木が俺の手を掴んで小さな掠れたような声で話しかけてきた。


「どうした?」

「無理を言って着いてきてもらってごめんなさい」

「ふっ……、俺は大事な物(ぎゅうどん)の為にいくだけだ。その為なら、どんな労力を惜しむこともしない」

「先輩……、そんなに大事(わたしのことが)なんですね」

「当たり前だ。そのためなら俺は火の中、水の中に余裕で入れる」

「なんだかんだ言って……、嫌いとか言っていたのに……、やっぱり先輩は――」

「何を言っているんだ。俺は一度も嫌いになったことなんてない。むしろ大好きと声を大にしてまで言う気概すらある!」

「私、がんばります!」

「ああ」


 ご当地名物の松坂牛であるA5ランクの牛丼を俺に頑張って出してくれ!

 

 



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