第171話 陰謀渦巻く(6)第三者視点
山岸直人が、会議室から出ていったあと――、その後ろ姿を見送った夏目一元は、窓から見える景色――、其の眼下に山岸直人が官邸から出ていく姿を認めると笑みを深くした。
「相変わらずのようだね」
夏目以外は、存在しない室内に声が響き渡るが――、夏目一元は外を見たまま言葉を紡ぐ為に口を開く。
「何のようだ?」
「僕が来たんだから意味は分かるだろう?」
「ふん。貴様らが問題ばかり起こすから――、このような事になっているんだろう?」
「それは見解の相違ってやつだよ」
「見解の相違か――」
カーテンを閉めたあと――、室内は薄暗くなるが、夏目以外の姿は見当たらない。
「相変わらず姿を現すことはしないのだな」
「そうだよ。あくまでも僕は伝達役に過ぎないからね」
「――ふん。伝達役の割には、余計な人間ばかりを我が国に持ち込んでくれるものだ。レムリア帝国の少尉であるカクを倒したのは結局の所は山岸だったではないか」
「間に合わなかったとだけ皇様は仰せなんだよ」
「間に合わなかった? クーシャン・ベルニカの入国を手引きしてやったというのに、処分が間に合わなかったのは貴様の落ち度だろう?」
「ひどいね。僕だって――、それなりに頑張っているのに……」
「頑張っているのなら、それなりの成果を出してみせろ。何のためにレムリア帝国の動きを黙認してやっていると思っているのだ」
「いやいや――、だから君達の国の人間は殺さないって約束しているじゃないか。君の国の臣民には手を出さない――、だから僕たちの帝国には日本国は干渉しない。そして――、日本国が干渉しない代わりに僕たちに君は依頼したじゃないか。第7艦隊の壊滅を――」
「ふん。――だからと言って、伊豆半島に【神の杖】での攻撃を許可はしていないぞ?」
「それは、君の国の上級国民が彼を恐れたからだよ」
「彼?」
「東京夕日新聞の会長が殺されたのを見たことないのかい?」
「知っている。それと――、どういう関係がある?」
「色々あるのさ。夏目一元――、君と僕たちは協力関係にこそあるけど……、あくまでもそれは協力関係というだけで同志ではない。それと【神の杖】は、アメリカ合衆国の国防長官が日本国の上級国民からの依頼から行ったことであっても僕たちは仕方なく関与したに過ぎない。その事だけは理解してもらいたいね」
「ふん。よく囀(さえず)る。もう、調べはついている」
「くくくっ――、さすがは僕たちの王が唯一、取引相手として認めた人間だけはあるよ。君は、神の杖で起きた事も想定していたんだろ?」
「さてな」
夏目は、眉一つ動かさず答えるが――。
「食えないねぇ。まぁ僕としては彼みたいなのが出てくるとは想定していなかったけどね」
「彼?」
「君が会っていた彼だよ」
「山岸直人のことか?」
「そうそう。彼、すごいよね。八百万の力だけじゃなくて魔術大国レムリア王国が作り出したシステムも使えているんだから――」
「何を言っている?」
そこで初めて、夏目一元の眉間に皺が出来る。
「おっと――、これは人間にはもったいない情報かな? ――さて、本題だけどね。四聖魔刃のランハルド・ブライドと、四聖魔刃のユーシス・ジェネシスが日本国に入りたいみたいなんだよね。――で、融通を利かせてもらえないかな?」
「日本国内に四聖魔刃を二人も入れて何を考えている?」
「ちょっとね。二人ともピーナッツマン――、山岸直人って人間に興味があるみたいなんだよね」
「殺り合うつもりか?」
「――さあ? 僕は知らないけど……、皇様からの依頼だからね。日本の軍事レーダーは優秀だからね。さすがにレベル1万の人間が入るのは厳しいからね。それと日本国民には、レムリア帝国の人間は手を出さないことは約束するよ」
「カク ドンニョンの件があった癖にか?」
「あれは、僕も想定外だったんだよね」
「想定外で済むとでも?」
「そうとしか答えられないね。だからクーシャン・ベルニカをすぐに手配したよね?」
「かなりタイムラグがあったようだがな……」
「それと、君に伝えておくけど――、皇様にも四聖魔刃にもピーナッツマンが山岸直人だと言う事は伝えていないから安心していいよ」
「伝達役の癖に、正確に情報を伝えなくていいのか?」
「いいんだよ。全てを伝えるという約束なんて交わしていないからね。僕は、僕の役目があるからね」
「……わかった。ただし――、条件がある」
「何でも言ってくれていいよ」
「今度、北方領土奪還に向けての作戦を行う。その時に四聖魔刃の力を貸すように皇に――」
「伝えておくよ。これは互いのビジネスの話だからね。それじゃ夏目一元総理――」
最後の声が聞こえると同時に会議室内は静まり返る。
それと同時に扉が開く。
「夏目総理! 伊豆半島各地に派遣する災害対策チームについての概要が出来上がりました」
若い官僚が室内に入ってくると同時に、一人部屋の中に佇んでいた夏目へと声をかける。
その夏目の表情は官僚からは見て取れなかったが――。
「分かった。すぐに行く」
襟元を正すと、夏目は会議室から出ると、対策会議室へと歩を進めた。
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