第101話 激戦! 激闘! 海上決戦!(4)

「ピーナッツマンとやら。真下に――」


 狂乱の神霊樹が語り掛けてくるが――、言われなくとも分かっている。

 場所と、方角さえ分かればスキル「神眼」が情報を視界内のプレートにログとして表示するからだ。


「問題ない」


 クーシャン・ベルニカが切り裂いた【海ほたる】。

 その切り裂かれた隙間から海面に向かい飛び降りる。


「まて! きさま! 逃げるつもりか!」


 飛び降りた直後、クーシャン・ベルニカの声が頭上から降ってくるが相手をしている余裕などない。

 屋上から、【海ほたる】の基礎部分まで落下する。

 そして――。


「見えた!」


 柱に括り付けられるようにして存在する核爆弾。

 スキル「神眼」が視た内容がログとして流れる。




【アイテム名】


 改良型放射線強化型核爆弾002


【効果】


 ダンジョンで産出された金属を使ったことで殺傷能力を極めて高いレベルで実現させた核爆弾。 

 爆心から300メートル以内の建物を破壊、生物の即死。

 1500メートルまでの範囲内でほぼ即死、物理的破壊は起きない。

 4000メートルまで死亡者80% 放射障害患者が発生。

 3基の核爆弾とリンク中、停止は不可能。




「間違いない」


 コンクリート製の柱に貫き手を放ち柱にへばり付くと同時に核爆弾を縛っていたワイヤーを手刀で切り裂く。

 括り付けられたいた核爆弾が海面に向かって落下する前に柱から手を引き抜いて両腕で抱きかかえながらコンクリートの柱を蹴り上空に向けて跳躍し――、海ほたるの直上100メートルまで上がったところで太平洋に向けて投げると同時に、遠くの様子が――、袖ケ浦に向かう道路の崩れた場所が土で補強されているのが見えてくる。


「あれは……」


 土で補強をしている人物――、佐々木が視界に移る。


「そうか……、お前は佐々木の――」

「――何か問題でもあるのかえ?」

「いいや、問題ない」


 視界内に映っている佐々木の姿を見ながらカーソルを選び、ギルド編成の申請を送る。

 



 ――ギルド加入申請が承諾されました。




「(――え? 山岸先輩ですか? これは、一体……!?)」

「(時間がないから簡単に説明するぞ。いま、そっちに避難民が向かっている。江原と藤堂が避難を指揮しているから3人で、避難民をなるべく【海ほたる】から離せ)」

「(――え? どういうことですか?)」

「(核爆弾が、【海ほたる】に仕掛けられていた。2個の除去は出来たが、もう一個の除去は間に合わない、だから――、なるべく距離を取れ。出来れば4キロメートル以上の距離を取れ)」

「(――そ、それで先輩は大丈夫なんですか?)」

「(大丈夫だ)」

「(本当ですか? 本当に?)」

「(ああ、何度も前から言っているだろう? 社会人は約束を守ることが大事だと――)」

「(でも……)」

「(議論をしている余裕はない。江原、藤堂も聞いていたな? 佐々木と一緒に避難民の誘導をしてくれ」

「「わかりました」」


 二人から了承の声が聞こえてくる。 


「狂乱の神霊樹、一つお前に聞く。佐々木は水の魔法を覚えているか?」

「使えるが……、まさか――、お主!?」


 話が終わる前に東京湾アクアラインの海底へと通じる入口前に降り立つ。

 10台ほどのバスやトラックが海底に通じる道から上がってくるのを確認しつつ――。


「(佐々木! いまから、バスとトラックを全て投げる。水の魔法で飛んできた物体の衝撃を緩和しつつ受け止めろ! 俺のステータスの1割が反映されているから受け止められるはずだ!)」

「(え!? ステータスの反映? 一体、何を言って)」


 佐々木の答えを待たずに、海底を通るアクアラインから上がってきたバスの後方へと移動。

 そして――、袖ケ浦の方へと向けて全力で押す!

 バスは、アクアラインを音速に近い速さで飛んでいく。

 もちろん、その際に狂乱の神霊樹をバスの上に乗せることも忘れない。


「(いま投げたぞ! アクアラインの道路と平行に投げた。水の魔法で衝撃を緩和しつつ受け止めろ!)」

「(――ッ!? わ、わかりました)」


 袖ヶ浦の方で巨大な水の壁が、一瞬で成形されると同時に爆発音が聞こえてくる。


「(受け止めました)」

「(よくやった。次いくぞ!)」


 次々にバスやトラックを袖ケ浦の方へと押し出す。

 それら全てが終わったところで、背後の【海ほたる】を見る。

 反応は3つ。


「あと、海ほたるに居るのは俺と――」

「俺だけのようだな……」


 俺の呟きに答えてきたのは、クーシャン・ベルニカ。


「クーシャン・ベルニカ。すでに勝敗はついた」

「勝敗? 俺は負けを認めちゃいない! 正義だの! 平和だの! そんな現実から目を背けるような――、偽善を! 言葉を使う奴を! 俺は絶対に認めない! 下れ! 切り裂け! 我が言の葉に応じよ 顕現せよ! 雷切!!」


 声、高々に! クーシャン・ベルニカは叫ぶと同時に――。

 その手には、紫電を身にまとった刀身が作り出されていく。 

 それと同時にスキル「神眼」が、クーシャン・ベルニカが持つ刀身の能力を視界内に表示されているプレートにログを刻み付ける。




【アイテム名】


 雷切


【効果】


 雷を刀身に纏った刀。

 数千から数億ボルトの電圧を生み出すことが出来る。




 明らかにイガリマやシルシャガナよりも劣る武器だと言うのが分かる。


「クーシャン・ベルニカ。お前は、俺には勝てない。そのくらいは理解しているだろう?」

「――ッ!」


 大きく目を見開く男。

 そして、その体を戦慄かせると同時に俺に向かってくるが――。


 すでにステータスが限界突破で強化されている俺にとって、その動きは遅すぎた。

 俺の方から間合いを詰めると同時に、腹部に手を触れ、少しだけ力を入れて押す。


「ぐはっ!? ――な、なん……だと……、――き、きさま……、い、一体……、なにを……」


 クーシャン・ベルニカは、そのまま膝から崩れ落ちるとアスファルト上に崩れ落ちた。

 俺は溜息をつきながらクーシャン・ベルニカこと田中を抱き上げると駐車場に向けて跳躍しリムジンに走り寄る。


「まさか? 山岸さんですか?」

「ええ、まあ……。よく、わかりましたね」

「客商売をしていると何となく――」

「それより、どうして避難していないんですか?」

「リムジンを残していく訳にはいかないので――、それに車のカギが騒ぎでどこかに……」

「それなら車に乗っていてください」

「――え?」

「早く!」

「は、はい」


 富田がリムジンに乗るのを確認すると同時に、田中をリムジンの後部座席に乗せる。


「(佐々木! もう一台、追加で投げる。しっかりと受け止めろよ!)」

「(は、はい!)」


 了承の声が――、チャットログを通して聞こえてきたと同時にリムジンを投げる。

 

「(受け止めました)」

「(佐々木、よく聞け。今から、海岸線沿いに水の壁を出来るだけ広範囲に展開しろ)」

「(――え? それって、どういう?)」

「(今から爆発する核爆弾は、人体を即死させるほどの強い中性子線を発生させる。だが、中性子線は水素原子によって減速され遮断される性質を持つ。だから、あとは任せたぞ!)」

「(せ、先輩!?)」


 佐々木が何か言っているがチャットログを切る。

 そして東京湾アクアラインの海底へと通じるトンネルを走り下りていく。

 核爆弾の位置は、すでにスキル「神眼」で確認が取れている。


 途中に地上に這い出ようとしていた魔物を瞬殺していく。

 そして、核爆弾の前まで到着したところで、爆弾の表面のタイマーに表示されていた時間は――。


「あと10秒――」


 思わず唇を噛みしめる。

 これでは、外へと持ち運びする時間もない。

 それに――、いくら海底で爆発と言っても、こんなところで核爆弾が爆発すれば周囲に与える影響は測りしれない。


「考えている余裕はないか」


 東京湾アクアラインの頭上を破壊すれば莫大な水が流れ込んで多少は、爆発の威力を抑えられるはず。

 もう、それに掛けるしかない!

 トンネルの上部の壁に向けて跳躍。

 そして、トンネル天井を全力で殴ると巨大な振動と共に天井に亀裂が入り莫大な海水が流れ込んでくる。


「あとは――」


 もちろん、トンネルを塞いでいた瓦礫も拳圧で吹き飛ばす。

 これで通路内は何キロにも渡って水没するはず。


 そこまで考えたところで、視界内にレッドアラームと鳴り響くと同時に視界内が白い閃光に覆われ――、俺は意識を失った。


 

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