第5話 ダンジョン講習会(2)

「それでは、パンフレットのまずは表紙を捲ってください」


 先ほど、紹介のあった山根という人物が話し始める。

 もちろん、俺はすでにパンフレットを開いて半分くらいまで流し読みを終えていた。

 他人と同じペースで学習するなど時間の無駄だと理解しているからだ。

 勉強というのは他人と同じペースで勉強をしても意味はない。

 何故なら、知識を吸収できるかどうかは地頭を普段からどれだけ鍛えているかに依存するからだ。

 だから平均的なペースで勉強を勧めようとする講習担当者には悪いが俺は自分のペースで学ばせてもらう。


「それでは1ページ目をご覧ください」


 たしか1ページ目には、ダンジョンの総数と各国のダンジョン数が書かれていた。

 日本だけで607個。

 先ほど説明があった時は600個と言っていたが、まあ誤差の範囲だろう。

 ちなみに、ダンジョンが多く出現している地域は環太平洋造山帯に位置する場所が多いらしい。

 国連の研究機関の話では地震が多い場所に集中しているだとか。

 そう考えると日本には、世界に存在している9割のダンジョンが存在していることになる。

 ダンジョンもそうだが、日本は色々と問題を抱える体質のある国土のようだ。


「えー、日本を含んだ世界各国には確認されるだけでも666個のダンジョンが存在します。そのうちの9割が日本にあり、その対策を日本政府は行ってきているわけです」

「――あの! 対策を取らないと魔物がダンジョンから出てくると聞いたのですけど!」


 俺の前の席に座っている女性が、説明をしている男性自衛官に質問をした。

 年齢的は20代と言ったところか。

 髪を茶髪に染めているが、リクルートスーツを着衣しているところから、社会人としては佐々木よりはマシだと思われる。


「山岸先輩。何か、俺のことをディスっていません?」

「気のせいだ。自意識過剰にも程があるぞ? お前ごときをディスって俺に何の得があるんだ?」

「いや、お前ごときって……」

「自意識過剰も程々にしないと駄目だぞ?」


 中々、勘の鋭いやつだ。

 若さゆえの感性の鋭さというやつなのかも知れないな。


「そこはご安心ください。自衛隊が責任を持ってダンジョンの魔物を間引いていますので出てくることはありません」

「そ、そうですか……」


 女性がホッとしたような声で呟いていた。

 だが、それは逆に大問題なのでは? と思っている。

 つまり、間引かない場合は魔物がダンジョンから出てくることを意味するからだ。

 ということは人手が足りなくて間引きができなかった場合は? つまり、そういうことだろう。

 決して、ホッとする場面ではないはずだ。

 まぁ、周りを見るかぎりそれに気づいている人間は居ないようだが……。


「山岸先輩」

「何だ?」

「あれですよね? ダンジョンの魔物を放置しておくとモンスタースタンピードが発生するってことですよね?」

「――ん? ああ、そうだな……」

「それって、かなり不味くないっすか?」

「ああ、まずいな」


 思ったより佐々木も色々と感じ取っているようだ。


 それにしてもダンジョンが日本だけで607個もあるとか、管理だけでも相当大変なことになっているのでは?

 自衛隊員募集に力を入れているのも何となく想像がついてきた。


 たしか移民規制法を可決した時の自衛隊の人数は25万人ほどだったはず。

 その中から諸外国に対しての防衛人数を割り引くと、国内のダンジョンに回せる人員は素人考えだが多くはないはずだ。


「さて、国連の研究機関の発表ですが、ダンジョンは海底では存在の確認が取れていません。それと地震が多い地域であっても人口密集地域では存在していません」

「ふむ……」


 俺は相槌を打ち山根自衛官の話を聞きながらパンフレットに目を通す。

 日本の次にダンジョンが多いのがアメリカと書かれている。

 やはり場所は西海岸に集中しているようだ。

 あとは、世界中に点在していて人があまり足を踏み入れない場所にあるようだが規則性を見出すことはできないな。


 ちなみにレムリア帝国半島には0個と言った具合だ。

 レムリア帝国半島も地震はあるはずだが、不思議なものだな。


「日本では、繁華街にこそダンジョンは出現していませんが、農村地帯には出現しています。そこで日本政府は、日本に住む人々の生活を守るためにダンジョン周辺の土地を権利者から買い取り管理しています」

「ふむ……」


 まぁ合理的ではある。

 ダンジョンに勝手に入って怪我でもされて政権を批判する種にされたら困ると言ったところが本音だと思うが……。


「さて、ここからが本題です。探索者というのは日本国政府が管理しているダンジョンに潜り魔物を間引く仕事です」

「なるほど……」


 つまりダンジョンの深層に向けて攻略を進めるのではなく、あくまでも現状維持に努め怪我人を出さない方向で日本国政府は動いているということか。

 そうなると実入りはそんなに多くないのでは? と俺は予測してしまう。


 よくゲームなどでは厳しいダンジョンを攻略すればするほど稼げるお金というのは増えていく。

 それが一般的なルールだ。

 だが現実はそんなに甘くない。

 死というものが存在している以上、生命の危機が存在するダンジョンで無理をするのは愚かな行為だ。

 なら、間引きだけで十分だと思うのは至極真っ当と言える。


「あの……、ダンジョンで探索する人の稼ぎは良いと聞いたのですが……」


 俺の隣に座っていた佐々木が手を挙げながら質問を口にしていた。





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