第3話 女勇者結婚異世界転生

「……また転生したのね」


 気づくと、俺は森の中に立っていた。見たことのない森……今回は俺一人なのだろうか。


「ちょっと。ぼんやりしていないでくださいよ」


「……やはり、いたか」


 振り返ると、アンナが不満そうに俺を見ている。


「まったく……こんなに好き嫌いする転生者さんも初めてですよ? 普通は1、2回目の世界でOK出すもんです」


「いや、それはあまりにも早すぎだろ……俺は、買い物にもじっくり時間をかける主義だったもんでね」


 呆れ顔で俺を見るアンナ。どう思われようが、俺としては自分が確実に転生したいと思う世界にしか転生したくないだろう。


「……まぁ、いいですよ。今回は気に入るはずです。なにせ、今回は危険なことなんてありませんからね」


「ほぉ……じゃあ、魔王とかはいないのか?」


「いえ。います……というか、正確には、いました、ですかね」


「いました?」


 俺が疑問に思っていると、アンナはなぜかいきなり前方を指差す。そこには小さな木造の小屋が建っていた。


「見て下さい! あそこにはこの世界の魔王を倒した女勇者さんが住んでいるんです!」


「……へぇ。そうなんだ」


 俺があまり興味なさそうな返事をすると、アンナは苛立たしげに俺を睨む。


「転生者さん! 女勇者さんはこの世界で最強で、とっても美人なんですよ? それなのに……なんと! 今この世界に転生すると、転生者さんはその恋人として転生できるんですよ! 良くないですか!?」


 目を輝かせてそういうアンナ。俺は今一度木造の小屋の方を見る。確かに詳細な容姿は見えないが、人影が見える……それが女勇者なのだろう。


「……なるほど。確かに悪い話ではないな」


「でしょう!? では、今度こそこの世界に――」


「だが、嫌だ」


 俺の言葉を聞いてアンナの表情は固まってしまった。


「え……な、なんでですか!? これで断る理由なんてないでしょう!?」


「……その女勇者が魔王を倒したんだから、ソイツがこの世界で最強なんだよな?」


「え……ま、まぁ、そうですけど」


「仮にだぞ、俺がソイツの恋人として転生した場合、俺はソイツに勝てるのか?」


 俺がそう言うとアンナは意味がわからないという顔で俺を見る。


「え……い、いや……それは、ちょっと無理だと思いますけど?」


「じゃあ、駄目じゃないか」


「え……だ、だから! それでいいじゃないですか! 転生者さんは世界を救うとか魔王を倒すとか、そういうのが嫌なんでしょう!? だったら! そういうのは全部女勇者さんに任せれば!」


「もし、俺とソイツが喧嘩したらどうする?」


「……へ?」


 俺がそう言うとアンナは目を丸くして俺を見ている。しかし、俺は真剣だった。


「俺とソイツは恋人同士なんだよな? もし、意見が合わなかったりした場合、俺が正論を言っていたとしても、ヤツの力には敵わないわけだ」


「そ、それはそうですけど……喧嘩なんてしませんよ。女勇者さんは優しい人ですよ?」


「いや! 喧嘩ならまだいい方だ。もし、仮に喧嘩中に魔王が復活して、俺と険悪な感じの女勇者が魔王に寝返ったらどうする? 誰が世界最強の女勇者を倒せるんだ?」


 と、そこまで言うと、アンナが黙って俯いているのに気づいた。


「おい。どうした? 反論があるのか?」


「……ええ。わかりました。この世界も……アナタには合わないようですね!」


 そう言うと同時にアンナが取り出した拳銃の銃口が火を吹く。結局、またしても俺は転生を遂げるのであった。

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