第2話 それゆけ!巣くうもの2

「見て!こんなところに”祠”がある!」


洞窟に入ってすぐ、文字の書かれた石を見つけた。

文字の意味は分からないが、幽霊の出る場所にはだいたいこの石が置いてある。


少し前に気になって図書館に聞きに行ったことがあった。

祠と呼ばれる神様を祭るための石らしい。

悪さをする霊や妖怪を閉じ込める目的で使われることも多い。

直接祠に触ったり壊したりするのはやめたほうが良さそうだね。


噂で聞いた話だけど、祠を壊したフレンズが毎日悪夢を見るようになって、夢に耐えられなくなったのか笑いながら崖に身を投げたなんてのもある。


「おおい!パフィン!置いてっちゃうよ」


「ちょ、待って待って!置いてかないでよオオカミ氏」


先に進む二人を飛んで追いかける。この洞窟は入口辺りは広いので、鳥の子でも余裕で飛ぶことができる。


しばらく進むと道幅が狭くなり、ヒンヤリとした空気が不気味さを醸し出していた。

それからは結構盛り上がって「うわーッ!」「いい顔いただき」「いま何かいた!絶対いた!」とか言って楽しんでいた。


そしてメインディッシュが見えてきた。

洞窟の最奥部には小動物が入れる程度の穴があった。

ソレからは今までとは明らかに異質な雰囲気を感じた。


「これが心霊スポットですか....なんか禍々しい気がするで~す」


何の変哲もないただの穴だ、サイズははウォンバットの巣穴くらいだ。

近づいて中をのぞいてみると、小さめの家?のようなものが見えた。

ハトが入れるかどうか程の大きさで薄汚い見た目をしていた。


「これは興味深いね、いい漫画のネタになりそうだよ」


パフィンに続いてタイリクオオカミも穴を覗く。

二人が興奮する中、連れのエトピリカは遠くから様子を伺っていた。

「そんな強くないけどいる気配がする...」

その時であった...


「ワン!ワン!」


静まり返った洞窟内に犬の鳴き声が響いた。

「ファッ!?」一瞬にして場の空気が凍りつく。


野犬が迷い込んだのだろうか?いや、それはありえない。

野犬は夜行性、今は昼である。野犬が活動しているとは考えにくい。

となると、原因はひとつしかない。


「確か、ここって犬鳴洞窟って言われてるんだよね...(パ)」

「今の鳴き声が心霊現象だっていうのかい?...ガタガタ...」


二人はとっさに穴から離れる、鳴き声がしたのは穴の中からだった。


「ダメッ!もっと離れて!」


見えるエトピリカが叫ぶ、それと同時に二回も音がした。

「ガシャ....」「ずるずる....」何かが這い上がってくる。

嫌な感じがした、本能に訴えてくるとても嫌な感じだ。


「に、逃げよう!ヤバいって絶対ヤバイ!」

「ちょっ、パフィンちゃんの意識が!」


最悪だ。この危機的状況でパフィンは気を失ってしまったのである。

その間にも「ずるずる」と音を立てて嫌な感じが増えながら迫ってくる。


「オオカミさん!こっち来て!そっち持って!」


タイリクオオカミとエトピリカが両足を引っ張る。でも妙だ、パフィンの体がビクともしない。その時チラッと見えた、井戸のソレがパフィンの腕をつかみこちら側を覗いているのを。


「その手を放せ!」それはもう死に物狂いで引っ張った。

もう何が何だか、混乱状態だった。

ただ、一つだけ確かなことがあった。白い煙が目の前にいる。


ちょうどその辺りから、ずるずるずるずるずる、ズシャズシャズシャズシャズシャ、音が大きくなる。白い煙が音を出しているのか?


いや、違う。その煙のようなやつが音の主とぶつかっているんだ。

井戸から出てくるソレを止めているのだ。


「今のうち、早く逃げよう!しっかり持って!早く!!」


二人でパフィンを持って必死で出口まで這い出た。逃げてる最中も後ろから激しい金属音が聞こえてくるし、生きた心地がしなかった。心霊スポットを探索しているとたまにこういう危険な状況に遭遇するけど、今回はかなり恐怖を感じた。


洞窟を出るころにはソレの気配はなくなっていたけど、「ずるずる」という音だけはしばらく耳から離れなかった。

それからは、パフィンの小屋に向かった。


結局、小屋に着くまで気を失っていたパフィンは洞窟内で見た白い煙のことや音のことについて覚えていないようだった。


「で、何が見えたんですか?」


「本当に何も覚えてないのか?犬の鳴き声とかしてたじゃないか!」

「そうだよ、パフィンちゃんいきなり倒れるし大変だったんだよ?」


信じられないというような顔でパフィンに詰め寄る。

「記憶にないもんはないんで~すオオカミ氏、エトピリカ氏」

「ねぇ、そんな危ない奴だったの?ねぇ」


「うん、かなりね。白い煙が助けてくれなかったらどうなっていたか...」

「パフィンちゃんから出てたように見えたけどなんだったんだろ?」


「いや、煙って何?話についてけないんだけど(困惑)」


「守護霊、みたいなもんじゃないかなぁ。」


洞窟で襲われたとき、白い煙は明らかに私たちを庇うような動きをしていた。

気配も悪霊や妖怪の類とは違って、一切の邪気が感じられなかった。


きっと守護霊的なもので、憑依した者パフィンとその周囲の私たちを守ったのだろう。そして、あの穴にいた霊(?)とまともにやり合っていたことから、かなり強い部類の守護霊であることも分かった。


「守護霊かぁ...これはいいかもしれないですね」


「何だって?悪霊ハンターにでもなるつもりかい?」


「そうだよ、守護霊強いみたいだし大抵の悪霊は退治できるでしょ」

「フレンズ助けもできて最高でーす」


パフィンはやる気満々に答える。

今まで何度か怪異に悩まされるフレンズの話を聞いてきた。

そんなフレンズを救えるかもしれない。

救うものヒーローになれるかもしれない。

パフィンのケツイは高まった。


「エトピリカ、大丈夫なのか?闇雲に使っていい力じゃない気がするんだけど」


「問題ないように見えるよ。大丈夫なんじゃないかな」


「いいね~、拠点はどうする?オオカミ氏」

やはり、ハンターと言ったら秘密基地だ。

今住んでいる小屋は圧倒的に秘密基地感が欠けていた。


「なんで私に聞くんだ?拠点なんてここでいいんじゃない?」


「オオカミ氏、この小屋を見て何か思うでしょ」


パフィンの小屋はハッキリ言って汚い、屋根には所々穴が空いているし

外観は錆びだらけで見るに堪えない状況だ。よく住めるな、この小屋。


「そこで、でーす。ロッジの空き部屋を貸してもらいたいと思ってね」

「ほら、あのロッジ空き部屋多いそうじゃん」


「確かに、あのロッジはセルリアンも出ないし安全的にも良いかも」

「どうにかならない?」


エトピリカが便乗する。

ロッジはタイリクオオカミが寝床にしている建物だ。

木の上に作られた小屋がいくつも連なった構造をしている。

昔はヒトが寝る場所だったみたいだ。

今はアリツカゲラという鳥のフレンズが管理していて、

フレンズのみんなが泊まれるようになっている。


「確かにロッジはたくさん部屋あるからねぇ、1部屋くらいあるかもしれないね」

「明日アリツカゲラさんに聞きにいってみよう」


しんりんちほーにあるロッジは歩いて半日の半日くらいの距離、

とても近い距離にある。飛べばもっと早く着くだろう。


しかし、今は日が暮れている。

夜は野獣やセルリアンの数が増えていて危険だ。


明日の朝、ロッジに向かうことにした。


「オオカミ氏、エトピリカ氏、おやすみ~」


「そうだ、念のため盛り塩を置いとくね」

「アレが追ってくるかもしれないし」


「やめてよ、眠れなくなるじゃあないか」


三人は床に就いた。


正体不明の霊に憑りつかれてしまったパフィン。

そして、彼女は無事に悪霊ハンターを始めることができるのだろうか...

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