小説書いててよかった
昨日はあんなことあってさ。今日もあんなことあるかもしれないんでしょ? 夜? 眠れなかったに決まってんじゃん。
とにかく俺の家はわかったってことで今日は公園には出陣せず自宅待機ってるだけ。
それと今日は母さんはいないが父さんがいるな。
朝十時。ピンポンことインターホンが鳴って、ドアを開けるとりっちゃん。
入ってもらうと父さんも一階にいたのでごあいさつ。
今日のりっちゃんは俺ん家の壁みたいな薄だいだい色ひらひら系スカートに学校の長そでカッターシャツにひらひらがちょっと付いたような白いブラウスだった。
しかしポシェット装備に加えてなにやら水色の四角いカバンを装備している。見てる分には材質不明でつやつやしてる。学生カバンよりかはちょい小さい。
そして恒例になってしまったのか今度は父さんの職場の話がされた。さすがにりっちゃんパパと職場でつながってるなんてことはなかった。じゃなんでこの話がされたんだ? りっちゃん自体は興味深く聴いていたようだが。
昨日に変わって今日はアイスココアとクリームクッキーサンドを持っていざ俺の部屋へ。また同級生女子が俺の部屋に入ってる。ドアの開け閉めも慣れたようだ。
昨日はひたすらパソコンの前にいることが多かったが、今日はまずちっちゃいテーブルの周りに座ることにした。座布団召喚。召喚したはいいがまたひとつりっちゃん思い出してまうがな物体が増えてしまった。
りっちゃんは座布団にちょこんと座ってる。向かいじゃなくて俺の右斜め前にポジショニングしている。やや近い。謎の水色カバンはりっちゃんの横に置かれている。
……とりあえずアイスココアとクリームクッキーサンドでのほほんはしている。
が。セリフがない。
(やはり先手を打たねばならぬか!)
「きょ、今日も遊べるなんてなー。はは。パソコンつけてほしかったら言ってくれよなっ」
ちょこっとうなずくりっちゃん。
「な、なんかするか? トランプドミノチェス将棋囲碁バックギャモン~おしバックギャモンしようぜ!」
俺は勉強机の横に立て掛けていた紺色のバックギャモンボードを召喚。
「……する?」
改めて聞いてみたらうなずいてくれたので、いざバトル!!
3ポイントマッチで戦い3-0で勝利してしまった俺。えっへん。
バトってる間もセリフはほとんどなかったが、でも表情はまぁ普通?
バトルが終わったのでお片付けして、下に置いてたおぼんをまたテーブルの上に戻した。
てか小説の中でもバックギャモン登場させてるとはいえりっちゃんもルール知ってたんだな。
(……昨日のあのきらきら具合は夢だったのだろうか……?)
しかし昨日が夢であったとするならばなぜ今日ここにいるんだってなるわけで。
「あ、あのー、りっちゃんさーん? 昨日そのカバンなかったよなー? 中には何が入ってるのかなー?」
ここでこの話題を繰り出す。りっちゃんはカバンを持って……ひざの上に置いただけだった。
「あぁぁ別に無理に開示しろなんてないから! そーだよなプライベートな領域だよなそーだよなー!」
……んむむむ。いまいちまだりっちゃんの性格をつかみきれてないぜ。どういう話題や展開が有効なのかわからないぞ。
でも今日もここに来たいって言い出したのはりっちゃんの方からなんだよなぁ。ほんと謎だらけ。
(まぁ~……のほほん待ちますかっ)
俺はアイスココアを飲みきった。りっちゃんのは残ってる。氷は入れてないから薄くはなっていない。
じっとしたままりっちゃんをガン見ってのもりっちゃんが反応に困りそうなので、俺は最新版の冊子を手に取って眺めることにした。戸棚にこれまで作った全冊子が並んでる。
ステープラーぽちぽちはしたが紙にしてから中をじっくり見ていなかったので、まぁなんとなく。
パソコンの時点ですでにいろんな確認や修正は終わってるし、印刷できてるかどうかはステープラーるときにチェックするから、本文の作業という点ではわざわざ紙にした後で中身を確認する必要はないんだけどー、りっちゃんらはこの紙の状態からみんな読んでんだよなー。
「り、りっちゃんさ、もうこれ読んだ?」
やっぱり声かけちゃう俺。
「……少しっ」
「ほぅほぅ」
りっちゃんボイスが静かに響き渡る。
「また続き作るから、読んでくれよなっ」
ここはりっちゃんしっかりうなずいてくれた。
(……素直に考えて、同級生女子が俺の作る物を待ってくれているって、これ結構うれしい状況じゃね?)
ふとそう思いながらも冊子を読む俺。実は俺作業が終わったファイルはそんなに読み返さないんだよなー。もちろん過去の出来事の確認とかで必要なときは読み返すけど。
「……て、てっちゃんっ……」
「なんだなんだ?」
久々に呼んでくれたので即反応。
「あの……お、お話が……」
「うんうんどしたどした?」
俺は冊子をテーブルの上に置いた。律儀りっちゃんは水色カバンを腕でクロスしながら抱える形になっている。なかなかの防御体勢だ。
「……てっちゃん、あの……」
「なんだなんだ?」
そわそわ。
「私……あの……」
「りっちゃんはりっちゃんだなうんうん」
そわわのわ。
「……実は…………」
えらい引っ張るな。このままCM行けそうだ。
「…………絵、描くのっ……」
「へーっ、そういやしおりに名前載ってたしな!」
ためにためて出てきた言葉がそれだった。
「でもね、その……あんまり自信、なくて……」
「いやいや自信なくたって『絵描いてます』宣言してる時点で俺よりぜってーうまいし!」
右手親指立ててばっちぐぅしておいた。
「たまに私の絵を見てくれた友達が、ほ、ほめてくれることもあるけど」
「ほらうめーじゃんウッウッ!!」
「でもほんとに自信なくってっ。私より上手な絵を描く友達いっぱいいるし……」
「いーなー絵描けるのうらやましーなー」
りっちゃんがどういう想いでためにためて絵を描くことを公表してくれたのかはわからんが、数少ないりっちゃん情報であるため、ここは精一杯よいしょしておこう。もちろん絵を描けることはほんとにすごいと思ってる。
「わ、私からしたら、小説を書けることの方がすごいよ……私は作ることもできないもん」
「文字並べるだけ! あら簡単!」
ぜってぇ絵の方がすげぇと思うんだが~。
「文字だけなのに、いろんな景色が広がって……笑顔が目の前に浮かんできているようで……絵は描いた物をそのまま見てもらうだけだし……でも小説はみんなそれぞれ頭に浮かんだ景色が違うから、読んでいる物はみんな同じなのに自分だけのお話っていう感じもして、なんだか不思議で……だからすごいの」
今日イチのいっぱいセリフいただきました。俺の心がぬくたくなっております。
「りっちゃんはどんだけ俺の心臓を攻撃したいんだ? 確かにいろんな人から小説の感想をもらったけど、こんなにも俺のことをほめにほめてほめちぎっては投げほめちぎっては投げってしてくるのはりっちゃんだけだぞ?」
属性防御の低いところを見事にピンポイントで狙われてるからなぁ。
「ご、ごめんなさい……」
「ぅああいやいやなんでそこで謝るっ! お、俺がうれしすぎてウッピクピクッってなってるってだけで、さっ」
あぁりっちゃん斜め下。
「りっちゃんがどんな絵を描いてるかとかどんだけ自信がないとかはよく知らないけどさ、俺だって小説作ってるんだから、自信がない気持ちとか、なにかを作りたい気持ちとか、ほめてくれてうれしい気持ちとかはよくわかるぜ」
ちょっとこっち向いた。
「俺が小説を書いている目的は、読んでくれる人がいるから、だぜ」
テーブルに置いていた冊子を180°反転させてりっちゃんに向けた。
「最初はなんとなく書き始めた小説だったけど、芽依が見せろっていうから印刷して見せて、そしたら他にも読みたいっていうやつがいるってことも聞かされてさ。続きを出すまでに時間がかかったときもあったけど、芽依たちは別にせかしてくるわけでもないし、のんびり続けてるぜ」
ちょっと水色カバン抱えてる腕が強められた? ばきって折れたらどうすんだろう。
「だから~なんていうかな……りっちゃんにもほめてくれる友達がいっぱいいるんだしさ。その言葉は素直に受け取っていいんじゃねえかな。自信がないとかどうしても気になってしまうことは、まぁちょっとはしょうがないとこもあるかもしれないけど、でもせめて友達からのほめてくれている言葉くらいは、信じてやってもいいんじゃないかな」
あぁぁまた角度がぁ。
「あ、あくまで物を作るってことが同じなだけで、絵を作る苦労は俺にはよくわかんないけどさっ、友達との関係って信頼しないと始まんないだろ? 相手がこっちを信頼して言葉をかけてくれてるんなら、こっちもちゃんと全力で受け止めて……な? なっ?」
なんかごちゃごちゃなってきた?
「とにかくだっ。りっちゃんが俺のことほめてくれるんなら、俺だってりっちゃんのことをほめまくるぞ! りっちゃんが俺の小説に興味を持ってくれてるように、俺だってりっちゃんの絵に興味あるわけだから、よかったら絵見せてくれよ!」
今度は両手でばっちぐぅしといた。効果二倍!
「どれだどれだ? ほらほら教えてくれよぉ~」
俺は瞬時に立ち上がり勉強机に向かい、立て掛けておいたしおりを手にして戻ってきてぺらぺらめくりながらうながすっ。
「ぁ。はずかしい? あぁあ無理にとは言わないぞ! 興味はあるがりっちゃんが見せたくないならだいじょぶだいじょぶ!」
昨日停止していたことを思い出したぜ、戻しとこ。
「てっちゃんっ」
「んおぉあぁっ!?」
勉強机へしおりを戻しに行こうとしたら、俺の左手首がりっちゃんに両手でつかまれ床にどてんっ! りっちゃんすぐ横に不時着したっ。
「ななななんだおいおいっ!」
「てっちゃん……私、私……」
意外と力持ち?
「てか手首ぃぃぃ!!」
女子としゃべることは多くても女子に手首つかまれることなんてありませんからーーー!!
「……はずかしいけど……自信ないけど……昨日、一生懸命描いた絵が、あるの……」
「へ、へぇ~……?」
すまん、すごいこと言ってくれてんだろうけど大半の意識が左手首にいっちゃってる。
「てっちゃんに見せるために、か、描いた、けど……」
「ぉ俺っ?」
俺が掃除してるシーンの絵とか? いやそれ需要不明。
「でもどうしようかなって迷って……迷いながらも描き続けたらできちゃって……でも明日行くって言っちゃったし、持っていくのも迷ったけど……でも……でもぅっ……」
「え、えーとりっちゃんっ、よくわかんないけど、見たい! 持ってきてくれてるなら見せてくれ! 俺りっちゃんのこといっぱい知りたいし、これからも仲良くしてーし! りっちゃんいいやつなんだから描く絵もぜってぇいいやつ! さ、見せてくれっ。なんなら俺の小説読んでんだからそっちの絵見せろやグッヘッヘっていうセリフを用意してもいいからさ!」
つかまれてない方の右手でばっちぐぅしといた。一倍効果。いや左手つかまれてるから効果量激減。
「てっちゃん…………」
両手を俺つかむために離したからか、りっちゃんのひざとテーブルとで絶妙な角度を保ちながら立て掛かっていた水色カバン。りっちゃんは両手を俺から離して、ついに謎に包まれし水色カバン結界解除の儀が執り行われた。俺の左手首助かった。
ゆっくり開けられたが……ん~なんか紙とかが入ってるっぽいけど……?
「……あの、てっちゃん……」
「なんだ?」
お目当ての物が見つかったのか、右手の指をちょっとカバンの中に入れながら顔だけこっち向けてきた。
「……いつも、小説、ありがとう。想いを込めて……描きましたっ……」
ずきんと心臓にクリティカルヒットがなされ、続けざまに~……水色カバンはテーブルに置かれ、白い画用紙? が、両手でゆっくり差し出されて……?
「…………あぶり出し?」
「えっ?」
お、りっちゃんはてなまーく。しばらくして笑ってくれた。いい笑顔だ。
「ひっくり返してね」
「はい」
単純に裏返していただけらしい。なんとなく正座になって、俺も両手で受け取った。
「さんきゅ……ぬ?!」
りっちゃんちょっと笑ってる。ま、まさかこれは裏奥義渡さないよーだカウンターバージョンではないか!
俺が小説の冊子を渡すときにした手に力を入れて渡さない技をまさかカウンターで仕掛けてくるとは!!
「……くすっ、ふふっ」
「なんだよー見せたくないんなら別にいいんだぞー?」
「ううん、家に帰ってから夜ごはん食べるまで、おやすみの時間も遅くなってでも夢中になって描いたから……」
「お、おいおいこの一枚そんなに貴重なアイテムなのか。じゃ、じゃあ見るぞ?」
なんか緊張してきたぞ。
「うん……」
りっちゃんはゆっくり両手の力を抜き、今度こそ俺の手に渡ってきた白い画用紙。
「あぁっ、やっぱりはずかしいなっ」
「どてっ、まだキャンセル利きますよ?」
「ううん、早く見てっ。じゃないと私、どうにかなっちゃいそうっ」
なにがどうどうにかなっちゃうのかよくわからなかったが、そういうことらしいので、俺は意を決して、右手を画用紙の左側に掛けて、そして…………
(…………こ……こっ、これ……は…………)
突風が、
右下に女子。左下にイスに座ってる男子。その男子の机の周りに男女二人ずつ。全員学ラン&セーラー服。場所は教室で……上には大きく『遥か夢願いの彼方』の丸文字……。
いかにもな少女マンガちっくな絵だけど、優しい感じの絵だ。
絵の具で描いたんだろうか。たくさんの色が使われていて、弾けた笑顔、楽しげな雰囲気。まさに俺が小説を書いてるときに思い浮かべていた情景……いや、それ以上にもっともっと楽しそうだと感じる世界が、この一枚の絵から、俺に……流れ込んでくる……。
(……う、うれしすぎて……やべぇ)
言葉にできないとはまさに今の状況のことを言うんだろう。小説書いててよかった気持ち。読みたいって言ってくれてうれしい気持ち。絵にしようって思ってくれてうれしいって気持ち。こうして絵になったことへの感動。
(そして、これを描いてくれたのは、目の前に座っているりっちゃん……)
まさに、俺が今までずっと小説を書き続けてきたのが報われた瞬間だって言えるだろう。
「……りっちゃん……」
ぽつんと出てきた呼びかけ。やっぱりりっちゃんは視線斜め下。
「……えっ、あ、て、てっちゃんっ」
気づいたら俺は、左手で絵を持ちながら、両腕使ってりっちゃんを包み込んでしまっていた。顔も横に当てちゃった。
「あの、あのっ、あぅ」
そんなりっちゃんの反応に、思わず腕の力を強めてしまう。
「て、てっちゃんっ……」
なんか聞こえるなー。無視っとこ。シカトシカト。あ、俺のひざをぺんぺんしてきた。
「てっちゃんてばぁ……」
電波の調子が悪いので聞こえませーん。ぺんぺん速度が弱まってきた。
「うぅ……きゃっ」
俺は右手だけりっちゃんの左ひじ辺りをつかんで、俺の背中に腕を回すよう誘導した。誘導完了後再び俺はりっちゃんをぎゅってする。
りっちゃんの抵抗力も薄れてきたようで、ついには両腕を俺の背中に回してきた。超ゆっくりで。
なんにもセリフがないままその体勢が続き。
「俺の彼女になってください」
……この気持ちの高ぶりから、自然とそんな言葉が出てきてしまった。
こんなにも俺の書きたい気持ち・世界をわかってくれていて、俺のこといっぱいほめてくれて、こんなに最高の絵を描いてくれる。そんなりっちゃんと一緒にいたい。
急だろうけど……もう……うん……。
(……お、お返事はー……?)
…………ない。
「で、電波の調子が悪かったのかな? ははっ」
ついこんなのを挟んでみたが……。
(うおぉっ)
俺をぎゅってしてきてるりっちゃんの腕の力がちょっと強まったかっ? そういえば隠れ力持ちだったなっ。
「こっ、困らせちゃったかなー? だ、だめだったらうん、断ってくれていいからうんうん。突然言われても困るよなー? うんうん」
(あぁもう俺一体何言っちまったんだぁ……)
返事なし。だめだ。やっぱ俺だめだな。
「すまんりっちゃん! りっちゃんを困らせるようなこんな俺じゃだめだよな! ほんとすまんっ!」
俺はりっちゃんの背中に回していた腕を解除し、りっちゃんから離れようとしぐぇぇっ。りっちゃんは俺の背中から腕を離すことがなかったので俺ちょっとのけ反る感じに。
「り、りっちゃん? うぉっ」
久々にりっちゃんの顔を上方向から見えたが、隠れ力持ちりっちゃんが引き寄せる腕によって俺の顔はまたりっちゃん顔横ポジションに戻された。
「あ、あのーぅ? ってうおおっ!?」
と思ったら今度は両腕をつかまれ、ちょっとだけ引き離された。りっちゃんの顔を改めて正面から見ることができたが
(うっわぁ~やっばいぐらい顔真っ赤!)
色を確認している間にりっちゃんは視線を俺にまっすぐ向けてきた。ん? 目を閉じ接近………………
(あ)
……ふわっと。すごく……。
何秒なのか数えてないけど、りっちゃんは顔だけ俺から離れた。俺の両腕は捕まったまま。またてれてれりっちゃんの顔を見ることができた。
「……いちばん近くで、てっちゃんの小説……読んでいいかな?」
近くもなにも、さっき顔が零距離でしたけれども。
「いちばん近くでほめてくれ」
ちっちゃーく、でもしっかりとうなずいてくれたりっちゃん。あまりにもかわいらしかったので、今度は俺から反撃で唇へ向かった。
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