そんなにうきうきしてくれるもん?
(……あーやべ緊張してきたっ)
そりゃね? 女子とはよくしゃべるよ? 吹奏楽部って女子多いからね? でもさ? 休みの日に女子と遊ぶなんてめーったにないし? 俺の家に女子がやってきたっていう日なんてもはや小学生までさかのぼるだろうしさ? おまけにさ? りっちゃんじゃん? どきどきじゃん? どきどきだよね。
俺の家を知らないってことで、昼の一時に公園で待ち合わせってことにした。深夜一時なわけないけど。先に到着した俺が辺りを偵察するも、今のところ小学生っぽい軍団が数人いる程度。
木を縦に切ったようなのを模したベンチに座っているが、りっちゃんがジャングルジムや鉄棒やブランコや滑り台などのところに身を潜めている様子もない。素直にまだ来ていないと判断。まぁ俺早めに来ちゃったし。鉄棒でグライダーって技が流行ったが今も通用するんだろうか。ちなみに俺はどんなに練習してもできなかったしくしく。
それにしてもりっちゃんって外見やしゃべり口調からおとなしいオーラ出しまくりなのに、しゃべっていきなり俺ん家来たいとか、おとなしくない勢をも軽く飛び越す積極さっぷりだなぁ。
なんかその一生懸命さがやっぱいいなってちょっと思った。
夏に入る前のこのちょうどいいぬくたさ。あぁこれからぐんぐんあちぃー季節になってくんだろうな。
(……ん? おおっ)
公園の入口をぼーっと眺めていたら、薄いピンクワンピース装備の女子がこっちに向かって歩いてきている。
継続してぼーっと眺めていたら、やっぱりどんどんこっちに近づいてきた。
穏やかな風にそよそよ揺られている髪。肩から提げた白いポシェット。普段のセーラー服とは全然違うさわやかさ全開の……
「や、やぁりっちゃん」
「こんにちは」
うっまぶしいっ! まぶしいぞその笑顔っ! 俺の心が洗われてゆく……。
「ふ、普段そんな服着てんだな」
りっちゃんは自分の服をなんか見回している。見回しタイムが終わったのか、こっちを見て、ちょっとはにかみタイム。
俺? 白いシャツに茶色いジャケット、紺のジーパンだけど。
「滑り台でもするか?」
あいや冗談のつもりだったんだがそない真剣に考えんでもっ。
「せ、せっかくの服が汚れるのもあれだよな! よし俺ん家行こう行こうっ」
俺は立ち上がってパーティの先頭に立った。先導するつもりだったんだが、りっちゃんのポジショニングは俺の左横だったため、二人で並んで公園を出ることになった。
公園を出ると団地の中を一緒に歩く。大通りからは中に入った道なので、車通りもそんなにない。小学生の自転車軍団もちょいちょいいる。
俺のすぐ横で一緒に歩くりっちゃん。横から見るりっちゃん。うーん見れば見るほど伝説しおりの女子が浮かんでくる。
まさか……あのしおりの表紙制作者は…………
(りっちゃんをモデルにしたとか!?)
とするとりっちゃんと普段から仲がいい人物が描いたってことか?
ぱっと浮かぶのは芽依になるんだが、正直りっちゃんの交友関係は不明。ぇ、まさか芽依が描いたとか? まーっさかぁ~。
年賀状のやり取りをしたことあったけど、ああいうタイプの絵じゃなくて動物をデフォルメさせたような絵が中心だぞ? まぁそういうのも描けてああいうのも描けるとかっていうのもないこともないかもしれんけど。
しかし芽依が描いたのならしおり持ちながらあたしが描いたのよふふんと得意げに報告してきそうなものだ。
得意げかどうかはともかくとして、やっぱりそんな話が出ないまま
(あ、こっち向いた)
前に歩きつつ横のりっちゃんを眺めていたら、りっちゃんもこっちを向いた。
「あ、ああいや、なんでも」
やんわりにこやかな感じなのが『なんでしょう?』と問いかけていたかのように見えたので、そう切り返しておいた。でも笑顔はまぶしかった。
「楽しみだなぁ」
「そ、そんなにもか? でも俺の小説はすでに全部読んでいる可能性だってあるわけで」
「それならそのまま最新のお話を読むだけ」
せやな。
「具体的にー……あれのどんなとこがいいんだ?」
自分は書いている側だからなぁ。
「キャラクターが魅力的。
……質問する内容はちゃんと考えてから質問しよう。俺の心臓がもたねぇよ!!
「そ、そっかっ」
口ではそうとしか言えなかった。むしろよく立って歩いてしゃべってるよ俺。
「いつもどうやってお話を書いているの?」
「何使って書いてるかってことか? パソコンだよ。ってプリントしてるとこ見てたら想像つくかっ。小学六年のときにお父さんから古くて使わなくなったパソコンをもらったんだ。プリンターはお父さんも使ってるやつだけどな」
「そうなんだ。すごいなぁ」
あかん。何言っても俺の心臓にダメージがっ。きっと藤美崎利々絵は貫通属性持ちなんだなっ。
「そ、そんなにすごいか?」
「すごいよ。文字だけであんなに想像がいっぱいふくらむ。楽しいクラスの様子が伝わる。一人一人みんなキャラクター輝いてる」
「ちょ、タンマりっちゃん。俺ほめられ属性防御低いから、顔からにやにや隠せなくなっちまうっ」
んで笑うっしょりっちゃん?
「……ずっと伝えたかった。でもなかなか話せなくて……もっと早く言えたらよかったね……」
「いやその点は今で正解だろう。中一でそんなウレピーセリフ連発されたら俺そこらへんのた打ち回ってるだろうから」
んで笑うっしょーりっちゃーん?
「でもやっぱり、てっちゃんともっと早くからしゃべりたかった」
「ま、まぁさ? 今こんだけしゃべれてるわけだし……さ?」
手を前で軽く組んでいるりっちゃん。指ほっそ。
「てか今さらだけどなんだそのてっちゃんてよぉ!」
「えっ?」
あ、組んでた手が解除され右手が首付近でぐーになってる。
「だ、だめ、かな?」
「むしろウェルカム」
にこっとなってくれてめでたしめでたし。
「むしろむしろ俺がいきなりりっちゃん呼びでよかったんだろうか。芽依の影響のままにだが」
「うん。好きなように呼んで」
正式な許可来ました。
「おぅ。でも女子にニックネーム呼びって、これまでした記憶がないんだが」
「そうなの?」
「ああ。俺自体ニックネームで呼ばれることがほとんどないしな」
「そうなんだ」
あれ、なんか今回の笑顔にはにやにや度が含まれてません?
「……き、気軽に呼んでほしいな。てっちゃんって、作ったお話がおもしろいだけじゃなくて、おしゃべりしてても楽しい」
おぃー。ほめられ属性防御低いって言ったそばからそんなこと言ってくるぅー。ええ子すぎません?
「じゃ、じゃあ、今日以外にも、またー……遊ぶ、とか?」
その視線斜め下具合の角度はよく見た。
「……うんっ」
勢いのまま遊ぶって言ってしまったが、休みの日に女子と遊んだ経験少なしって思い返したばっかだったろうにっ!
「あ、む、無理に遊ばなくってもいいからなっ。男子といるとこ見られて周りからごちゃごちゃ言われるの嫌ってのもあるだろうしうんうんっ」
と言ってみたがそこはすぐに首を横に振られた。
「……いっぱい遊びたい。てっちゃんとっ」
ちょっとだれかー、スペアの心臓持ってきてー。
「俺も~……りっちゃんといっぱい遊びたい」
秘奥義オウム返し。
「……うん……」
結局俺がどきどきするだけやんけ!
「ここが俺ん家」
「そうなんだぁ」
めっちゃガン見してるりっちゃん。
「……光次郎くんのおうちに似てる?」
「さ、参考資料だよ参考資料っ」
オープンなガレージの形状とか薄だいだい色の外壁とかこげ茶色の門扉とか白い玄関のドアとかとかっ。そこににこやかなりっちゃんは登場してないがなっ。
「ただいまー」
「おかえりなさーい」
玄関のドアを開けながらただいまーする。今日は母さんがいる。休みの日はいたりいなかったりまちまちだ。父さんは出かけることが多い。
俺はドアを押さえながら手招きしてりっちゃんを招き入れ
(近っ)
ようとしたら急接近りっちゃん。
コホン。平然とした顔でドアを閉める。母さんリビングから登場。
「いらっしゃい。利々絵ちゃんよね」
「こ、こんにちは」
ぺこっとするりっちゃん。家に呼ぶという話はすでに昨日してあったからな。
「利々絵ちゃん、私のこと、覚えてる?」
おっとぅ? りっちゃんの頭の上にはてなまーくが浮かぶぅっ。俺もミニはてなまーく出てる。
「利々絵ちゃんが小学生のときにね、
お? それは俺も初耳である。りっちゃんのはてなまーくは消えていない。俺のはミニびっくりまーくに変わった。
「花枝ちゃんとは昔同じ職場だったの。今は別々の職場に転勤になっちゃったけど、でも今でもたまに会っておしゃべりするのよ」
そんなことが俺の知らないところでっ。
「ああ、ごめんなさいね立たせたままで。さ、上がって。レモネードを作ってあげるわね」
「おじゃまします」
この家にりっちゃんの声が響いている。ほんとにこの家にりっちゃんがやってきたんだなぁ。
俺が先行して立ったまま靴を脱いで上がり、続いてりっちゃんが座って靴を脱いだ。ほんとに同級生女子がおるわ。俺のより一回り小さい白のスニーカーが横に並べられた。
「ん?」
なんかこのタイミングで俺を見てきたぞ。
「おじゃまします」
「お、おぅ」
改めてそんなことを言ってきた。律儀っ。
木のつやつやダイニングテーブルを挟んで向こう側に母さんが座り、俺の右隣にりっちゃんが座る。レモネードが入った縦長なガラスのコップを大事そうに両手で持つりっちゃん。スポンッって抜けたら大惨事。
しばらく俺の母さんとりっちゃんの母さんとのつながりのことなどが話された。
母さんによると、りっちゃんの母さんはてきぱき作業をこなす人らしく、作業量が多くても効率的にクリアしていく優れた人とのこと。その娘りっちゃんはのほほんタイプに見えるが……?
一口チョコレートやビスケットといったお菓子や透明縦長容器にレモネードの残りなどをおぼんに乗せてくれて、部屋へGoとなった。母さんは一階にいるからなにか用があったら呼んでーとのこと。
(……俺の部屋へGoって……そりゃさ、パソコンも冊子の控えも俺の部屋にあるわけだから、今日の目的を果たすには俺の部屋に入るべきなんだろうけど……)
りっちゃんは緊張とかしてないんだろうか? って階段上りながらちらっと後ろからついてくるりっちゃんを見てみたが
(うわー露骨なまでにうきうき顔丸出しじゃねーかー)
そのうきうき顔は冊子の確認ができるからというファン的うきうきなら素直にうれしいが、同級生男子の部屋をのぞけるからという好奇心的うきうきなら……ちょっとイメージ変わるかも?
(ってりっちゃんイメージうんぬんの前に、ほ、本当に同級生女子が俺の部屋にやってくるのかっ……!)
俺は自分の部屋に呼ぶよりも他の友達の家に行って遊ぶことの方が多い派で、そんで俺の部屋に呼ぶにしても男子しか呼んだ記憶がないから……中学三年にして初めて同級生女子が俺の部屋にやってくることになった。いとこや親戚の女性陣ですら入ったことないのに。
「な、なぁりっちゃん?」
りっちゃんこっち向く。
「同級生男子の部屋って……入ったことある?」
ぶんぶん横に首を振るりっちゃん。
「そ、そか」
ぁ、ちょっと視線が下になっちゃった。ま、まぁそのなんだ、コホン。
「りっちゃん開けてくれ」
ドアの前までやってきたところでりっちゃんこっち向く。
「俺、ほらー」
おぼん上下に。コップとかお菓子とかレモネードとかアピール。
「うん……」
りっちゃん横長タイプのドアノブに手を掛ける。指ほっせ。そのまま前へ押して……
(同級生女子、初・入・城!)
とか仰々しく心の中では思っているが、女子の部屋自体は入ったことが少しはある俺なので、相手の女子もそんな感じに思ったことがあったんだろうかとちょっとゴニョゴニョ。
「おじゃまします」
「どぞー。ああ閉めてくれ」
俺が入るとりっちゃんはドアを閉めてくれた。ガチャンと音が鳴ってからは静けさがやってきた。
この静けさと振り向いたりっちゃんに、俺の胸は何らかの反応を示していた。
とりあえずおぼん置こ。ちっちゃいテーブルに置いた。
おーっとりっちゃんは俺の部屋眺めタイムに入ったぞー。
「これで作っているの?」
「そうだ」
小型の勉強机みたいなやつにすっぽり納まるほどの結構でかいパソコンで、本体と画面が一体化のやつだ。バックアップにはフロッピーディスクを使っているが、周辺機器があればでかいフロッピーディスクやテープディスクっていう形も想像できない代物を使うこともできるらしい。国語辞典も置いてある。パソコンのゲームのディスクもちょこっと置いてある。
この机も手前にあるくるくる回る系イスも昔父さんが使っていた物。
りっちゃんは興味津々。いろいろな角度からのぞき込んでいる。う~ん何度見ても女子。
「電源、つけてほしいな」
「ああ、わかった」
機械といえば
四角い電源ボタンぽち。プゥーキュィーンと
「座るか?」
「うん」
と、その言葉を発した瞬間はただ単純にずっと立たせてるのもあれかなーと思って言ったものだが、よく考えればそのイス今後も俺使いまくるじゃん!
あーあ座るたびにりっちゃん思い出すこと確定っ。
「わあっ」
しばらく起動の時間が進んでから現れた背景画像にりっちゃんが声を上げた。
ラグビーで二十五ヶ国ごちゃ混ぜ記念試合みたいななんか大会名は忘れたけど、国や地域ばらばらで混成されたチーム同士の戦いが一週間行われて、最後の試合終了後に全選手やスタッフが競技場内に集まってめっちゃにこやか……そんな画像を設定していた。
父さんがスポーツ観戦好きで、この画像ももともとこのパソコンに入っていたものだ。気分によってたまに変えるけど、しばらく経ったら結局この画像に戻す気分になっちまうんだよな。
いろんな項目やファイルをまとめているボックスなどが表示されていき、普段小説を書くときに使っているソフトも自動的に立ち上がり起動完了だ。
「りっちゃんが気になるのは、当然あれ……だよな?」
画面見ながらうんうんうなずいてる。
「んじゃ……」
俺はりっちゃんの後ろにポジショニング。マウスへ右手を伸ばしたが
(近すぎません?!)
なんとかぎりぎりりっちゃんの右腕には触れない範囲でマウスげっちゅ。義隆からもらったアニメキャラのマウスパッドもちょこっとずらす。
今地震来たら顔がりっちゃんの頭に当たっちゃうからハルマゲドン起こさないでね神様。
「ここが小説のファイルをまとめているところだ。こことは別にフロッピーにバックアップも取ってあるぞ」
「うわぁ~……」
見てる見てる超見てる。俺はマウスを操作しながらファイルの多さを見せびらかしている。
「この辺は長編本編のファイルで、これは漢字をまとめたファイル。ひらがなにするか漢字にするか判断するのにまとめているんだ。ここはボツ集。前後とつじつまが合わなくなったときとかやっぱこの展開やーんぴなんてときに放り込む」
「見たいっ」
「うあわっ」
こっちに振り返って超きらきらおめめをしているのはうれしいことだが近い近いぞりっちゃんよぉ!!
「ま、い、いいけど、さ……でも消した部分を移動させてるだけだぞ?」
りっちゃん前向いて戦闘態勢。俺ポチポチッ。
緑色の小説編集画面にボツ文字がずらりっ。ボツ日時付き。
「てちょぉりっちゃああーん!?」
なんとそこで! りっちゃんが右手を速攻で俺の右手の上に乗せてきた! そして人差し指も上から押してマウスぽちぽち! そうだね画面をスクロールさせるにはその画面の中の下三角ボタンぽちぽちするといいんだけどね! でもね! なんで俺の右手がサンドイッチされてんスかね?! 指ほっせ。
「入学式、家の前で会う案もあったの?」
「ああ、でも結局学校で会うことにした」
「この案はだめだったの?」
「だめっていうほどじゃないけど、学校で会った方が制服にどきっとするかなとか思ってさ」
「そうなんだぁ。私だったら、泉深ちゃんなら好きな男の子に早く制服見せたくて家の前まで行っちゃうっていうの、かわいくていいなあって思っちゃった」
「な、なるほどな。女子ってそういうものなのか?」
「女の子みんながそう思うのかはわからないけど、私はっ」
心の中でメモメモ。
「ってりっちゃんこの右手」
「あっ、水族館のところに二人っきりで回るシーンもあったんだねっ」
俺の手を握るりっちゃんの右手強まりうおぉおぉぉぅ。
「あ、ああ。でも普通は班で行動するから二人っきりで回るなんてことしたら班のやつらからも先生からも怒られそうでなんかめんどっちくなりそうだからやめた」
「でもこういうの憧れちゃう気持ちわかるなぁ。好きな男の子とちょっとでも一緒にいたくて、なんでもいいから理由を付けて二人っきりになりたいっていう気持ち、きゅんきゅんしちゃう」
(あぁ…………もうなんか、もう、ぬぅがぁあぁぁぁっ)
謎の心の叫び。
「す、水族館といえばさー! こっちこっちー!」
なんかもうどうにもならなくなっちまったので、すっと右手をりっちゃん&マウスの間から引き抜き、パソコン机から離れて普通の勉強机に誘導した。
(この右手この右手この右手……)
まだ感触が残っている。りっちゃんはイスから立ち上がりついてきた。
「あのシーンは遠足より前に書いたやつだけどさー、一年のときの遠足がまさに水族館でびびったなーあははーっ」
ふぅ、たまたま勉強机にあの伝説のしおりを裏にしたものとイルカの置き物を似たような感じで並べておいてよかったぜ。こうして右手どきどきから開放されたからなっ。ちなみにイルカの置き物は遠足で手に入れた物じゃなく母さんの職場での旅行お土産だけど。
「俺には予知能力でもあんのかなー!? ってか遠足で水族館って定番コースか、あははのはーっ」
あははのは顔をしながらりっちゃんの方へ振り返ると、
(なんか停止してる?)
両手が首付近で組まれて、停止しているりっちゃん。
「遠足といえばしおりだよなー! それにしてもこのしおりの絵、それこそ俺もきゅんきゅんしたってやつかなー! 表の絵からのこの裏への写真立ての絵の流れ超たまんねーよなー!」
俺はしおりを手に取って表向けたり裏向けたりした。
「ま、あそこのイルカのやつは遠足のじゃなく母さんのお土産なんだけどなっ」
水色でラメっぽいのがきらきらしてる小型の置き物。はし置きだったりして?
「……これ、ずっとあそこに置いてるの?」
「お、おぉーうっ。勉強机で宿題するたびに視界に入れてるぜ。勉強机以外のところで宿題してるときは視界に入ってないぜ」
ちょっとほこりかぶってる? 気のせい? ぺしぺし払っとこ。
「なんで、ずっと……?」
「ん~、さっき言ったようにきゅんきゅんしたってやつだからかなー。この絵を観る度に小説書く気力がわいてくるというか。表と裏たった二枚だけど明るく楽しげでー思い出にも残ってー、こういう雰囲気の世界を作りたいって思えるんだよ。言ってみれば俺の小説の目標みたいな?」
りっちゃんは黙って聴いてくれていた。
「でも残念なことにこれ描いたやつがだれだか知らないんだよなー。普段からだれか描いた絵を眺めることなんてないしさー。女子同士ならやってるかもしんないけど。そりゃ文化祭での美術部とか小学校での学童展とかはちら見したけど」
本日もすばらしい笑顔を見せてくれている右下女子。
「あぁそういえばこれ配られてるときにクラスの女子同士がこっしょりトークしてるのを見たことも覚えてるんだが、りっちゃんはこの絵がだれ描いたか知ってるか? 後ろにも名前の一覧あるしな」
しおりの最後のページをぱっと開く。三年になるまで飾りっぱがほとんどで中は一年以来全然見てない。
制作陣の名前一覧表にそれぞれの直筆名前。俺は参加してないから載ってな
(ん!?)
いぞって思ってたら藤美崎利々絵のお名前発見!! 六文字わかりやすすぎ!!
女子特有の丸文字系。うん、いい。
「うぇ!? りっちゃんこのしおり制作に参加してたのか! あ~小学校違うから中学校上がりたての一年生じゃりっちゃん=藤美崎利々絵ってまだ知らない時代だったかもしれないしなー」
改めてりっちゃんを見てみたら、ゆーっくりうなずいている。
「どれだ? どこ担当したんだ?」
絵以外にも歴史の紹介や行程表など様々な部分で担当するところがあるが、名前一覧にはどこどこを担当というのは書かれず名前だけの羅列だからな。
(って、やっぱりなんか停止してるんスけど)
さっきまでの停止と異なり、ちょっと視線下気味のやつ。
(もしやこれ、ひょっとして……)
よっぽどはずかしいことを書いてしまい封印したい歴史だったとか!?
「あぁぁいやいや言いたくないなら無理に言わなくても、な、うん、はーでもこの絵いいよなー。りっちゃんも思わないか?」
閉じてまた裏表ぱっぱと見せる。
(……反応なし……はっ、まさか!)
そんなにもさっきのボツ集の続きを見たいのか! 一体どんだけ興味あんだよ俺の小説に! 正直作者俺自身ですらそこまで積極的にボツ集眺めたいと思わないぞ!
「さ、さっきの続き見るか! しおり戻してーっと」
しおりを立て掛ける俺。一回しくじったけど二回目で成功。裏向きに。
「あーあ、だれが描いたかわかったら、俺の小説の表紙描いてくんねーかなーとか頼んじゃいたいんだけどなー。でもそんなのわざわざ頼むのもなんかはずかしいし、かといって俺絵心ないから今のシンプルすぎる表紙のままでいいや。んでボツ集だったよ……な?」
俺はパソコン机に戻りながらセリフを発していたが、りっちゃんはさっきの勉強机前で停止したままだ。
「りっちゃーん?」
うーむなんだろう。なんか勉強前机にやってきたときからさっきのボツ集勢いが急ブレーキかかってしまってるんだが。
(ま、まさかっ!)
「画面見た後に立って気分悪くなったとか!? 横になるか? そこにベッ……ぁあいやそのベッドは使えねーな! 下のソファーで横になるとか!? 母さん援軍召喚する!?」
(……停止っぱだから正解なのか不正解なのかもわからぬ)
うむむむ。どうしたものか。
「あのー、りっちゃんさーん?」
しーん。
「……て、てっちゃんっ」
「お、なんだなんだ?」
久々に聞いたりっちゃんボイス。でもよく考えたら二年までは別のクラスだったから学校では何ヶ月も聞かないこともざらだった。
「……あ、明日も、会いたいな」
「ああうん明日もかそっかー俺も空いてるからオッケえぇぇぇーーー!?」
明日も!? 明日もだと!? まさかの初日からの
「い、いいけど、明日はどこで何するんだ?」
「明日もここに来たい。いいかな……?」
「あ、ああ。おけっ」
ほんのちょっとにこっとしてるりっちゃん。視線は斜め下気味。
「……それ、続き、見ていい?」
「どーぞどーぞ」
俺はイスくるんさせるとりっちゃんがやってきて座った。座っただけなので俺が背もたれ持って再くるんさせ画面に向かせた。
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