第15話:オークの警備兵
「へへ、ちょろいもんよ」
キツネは後をついてくるものがいないか後ろを振り返りながら裏通りを小走りで進んでいた。
いかにもこの町に来たばかりという優男をちょいとからかってやっただけで財布をゲットだ。
まだ中身は確かめていないが重さからかなり入っているのは確実だ。
これなら数週間、場合によっては数か月は遊んで暮らせるかも……
そう思ってにんまりしながら歩いていると突然何かにぶつかって通りに尻もちをついた。
「おい!どこ見て歩いてやがん……」
尻をさすりながら怒鳴るキツネの目が不意に曇る。
「よおキツネ、ずいぶんとご機嫌じゃねえの」
そこに立ちはだかっていたのはオークの一団だった。
赤黒い肌をしたをした巨体がキツネを睥睨している。
全員で六人、揃いの軽鎧を着こみ、腰には剣を下げている。
ブレンドロットの警備兵をしている民兵、という建前だが実質町のごろつきと変わりない。
それどころか警備代と称して強引に店の売り上げを奪っていくので町民からの評判はすこぶる悪い連中だ。
「これはこれはザコーガの旦那。よそ見しちゃってどうもすいません。お怪我はございませんか?俺っちは急いでるんでこの辺で」
「ちょっと待ちな。さっきおめえが懐にしまったもんを出してもらおうか」
急いで通り過ぎようとするキツネをザコーガと呼ばれたオークが呼び止める。
チッと小さく舌打ちをしながらキツネは愛想よく振り返った。
「しまう?何の事っすか?」
「おめえがそこに隠したもんだよっ」
とぼけるキツネの腹にザコーガが拳をめり込ませる。
「ぐっ」
地面に膝をついたキツネの両腕を部下のオークが掴み、無理やり立たせた。
「ほらな、あったじゃねえか。ほーう、こりゃ大金だ。どう考えても万年金欠のおめえのもんじゃねえよなあ?こりゃあおめえお得意のスリの証拠品だな。こっちで預からせてもらうぜ」
そう言ってテオの革袋を懐にしまう。
「……はは、ザコーガの兄貴には敵わねえや。じゃあ、俺っちの方はこの辺で開放しちゃくれませんかね?ガイドの約束があるんで急いでるんすよ」
「おいおい、スリの現行犯をそのまま解放したんじゃザンギアック様が統治してるブレンドロットの治安が乱れちまうだろ?警備兵である俺たちとしちゃそいつは見過ごせねえよなあ?」
そう言ってキツネの腹に拳を叩きこむ。
「それにこの前バーのカード勝負で俺をカモにした事、忘れてねえからな!」
更に顔面にパンチを食らわせる。
「いいか、俺たちブレンドロット警備兵をなめんじゃねえぞ!」
オークの警備兵たちはうずくまるキツネを取り囲んで足蹴にした。
道行く人々はみな見てみぬふりをして通り過ぎる。
「今度俺の目の前で調子に乗ってみろ、その口を二度と開かねえようにしてやるからな」
「あの~、お取込み中すいません」
ズタボロになり、ザコーガに首を掴まれて吊り上げられたキツネの耳にとある声が聞こえた。
「その人は私の知り合いなんです。手を放してやっちゃくれませんかね」
それはテオだった。
後ろにはヨハンも控えている。
「なんだあ、てめえは?」
「私はテオと申します。ここにいるのは小間使いのヨハン。その方が何かしましたか?」
「ふん、俺たちはこの町の警備兵だ。こいつはスリの常習犯でな、二度と悪さをしねえように躾けてる最中だ。わかったらとっとと消えな!」
「そうは言ってもですね、彼に財布を預けたのは私なんですよ」
「ああ?」
不審そうに鼻を鳴らすザコーガにテオは話を続けた。
「彼にガイドを頼みましてね、食事をしてる間に魔法薬を買ってもらうように財布を渡していたんですよ。そうですよね?キツネさん」
テオの言葉に不思議そうな顔をしていたキツネだったが、言葉の意味に気が付いてぶんぶんと首を縦に振った。
なんで助けようとしているのかはわからないが、この機に乗じない手はない。
「へっ、そんな事に騙されるかよ。大方てめえらはキツネの相棒に違いねえ。だったらキツネと同罪だな」
そう言ってザコーガはキツネの首から手を放し、他の警備兵と共にテオとヨハンを取り囲んだ。
「なあに殺しゃしねえよ。俺たちに逆らったら損だってその体に教えてやるだけさ。まあ一週間は食事や散歩に苦労するだろうがな」
そう言って首と拳を鳴らしながら下卑た笑い声を放つ。
「言ってもわかりませんか……」
テオは軽く嘆息する。
「やばいよ、テオ!この町であいつらに逆らったら二度と町に入れなくなっちゃうよ!こんな奴おいてさっさと逃げようよ!」
ヨハンがテオのシャツの裾を引っ張る。
「ま、この一発で眠っときな!」
ザコーガが破城槌のような拳を振るった。
「
テオの詠唱と共にザコーガの拳が空中で何かと衝突し、ひしゃげた。
「???……っうぐあああああああ!!!!!」
突然のことにしばらく呆然としていたザコーガだが、やがて襲ってきた拳から伝わる痛みに腕を抱えて地面をのたうち回った。
「ザコーガさんっ!」
「てめえっ何をしやがった!?」
オーク警備兵たちが剣を抜き、テオとヨハンを取り囲む。
「殺せ……こいつらをぶっ殺せ!」
脂汗をかきながらザコーガが叫んだ。
「
「がっ!」
「ぐわっ!」
オーク警備兵が剣を振りかざして襲い掛かってきたが大気を固体化して放つテオの魔法がことごとく叩きのめしていく。
ものの数秒でオーク警備兵は全員昏倒した。
「ク、クソ……、てめえの面は覚えたからな!このままじゃ済まさ……!?」
そう言って逃げようとしたザコーガの後頭部にテオの放った大気魔法が撃ち込まれ、部下と同様に石畳にだらしなくのびた。
「凄い!テオって攻撃魔法も使えたんだ!今のって何をやったの?」
ヨハンが目を輝かせてテオの周りで飛び回る。
「怪我は大丈夫ですか?」
ザコーガの懐から革袋を回収しながらテオがキツネに手を伸ばす。
「……あ、ああ、これくらい大したことねえよ。でも助かったぜ」
キツネがテオを手を掴んで立ち上がった。
「それは良かった。金をすられたとはいえ、あれはやり過ぎでしたからね。それでは靴の中に隠した金貨を返していただけますか?」
「……なんだよ、見てたのかよ」
しばらく目を泳がせていたキツネだったが、やがて堪忍したように靴の中から金貨を取り出した。
「しかしあんた大した魔道士だったんだな。全然そんな風には見えなかったぜ」
「よく言われます」
「でもよ、気をつけた方が良いぜ。あいつらは執念深いし、ザンギアックが出てきたらやべえぞ」
「そのザンギアックというのは何者なんです?」
「そんな事も知らなかったのかよ!?」
呆れたようにキツネが叫んだ。
「このブレンドロットを牛耳ってるオーガだよ!俺も詳しくは知らねえんだけど、一年くらい前からこの町にやってきてあっという間にこの町を牛耳っちまったって噂だぜ」
「元々はミッドランドの牢獄に収監されてたなんて噂もあるぜ。悪いことは言わねえからさっさと逃げちまった方が良いぜ。俺っちもしばらく大人しくしてるつもりだ」
「肝に銘じておきますよ」
そう言ってテオは振り返った。
「お店とそのザンギアックについて教えてもらったお礼にその銀貨は差し上げますよ。それではごきげんよう」
そう言ってテオはヨハンと共に立ち去った。
しばらく呆然と見送っていたキツネだったが、やがて口の中から銀貨を一枚吐き出した。
「大した玉だぜ、あの
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