第6話:そんな装備で大丈夫か? 問題なしっ!

 ―――― 異世界生活2日目 ――――


 ドンガラガッシャーン!


 な、なに? 七星ななせは、慌てて自室のドアを開け、顔だけ出すとリーネの方を見た。

 リーネも入り口を呆然ぼうぜんと見ている。なに? 何の音?

 見ると、近所のおっさんが青ざめた顔でリーネの方を見て言った。


「た、大変だ! トロールが出た! お前たちすぐに来てくれっ」


 トロールってなに? 七星は、モンスターのたぐいだとは分かったが実物を見たことがない。

 名前から想像して、トロくて可愛らしいモンスターかな、と思っていた自分がバカだった。


 リーネの家を出て、通りに出ると身長三メートルはありそうな巨人が立っていた。

 手には棍棒を持っている。しかも、ゴツゴツした岩肌のようなヤツだ。


 キモっ! なにあれ、マジ無理! 怖い、怖い。

 七星は、すぐに自室に戻ろうとするのを、リーネに腕を掴まれる。


「中隊長さん、どうか助けてください!!」


 リーネが震えているのが、ガタガタと歯を鳴らしている顔と、掴まれた腕の振動からわかる。


 マジか! 助けられるわけないじゃん。これ、バケモノだよ。

 食べられたりするんだよ…… 七星は、イヤイヤと首を振った。


「お前たち、来ていたのか!」

「あ、ガスター! エステルも!」


 七星はこちらに向かってきたガスターたちに手を振った。


「よかった。男の人がいて助かった ……ん?」


 七星が、リーネの方を見るとめちゃ不安そうな顔でこっちを見ている。


「なによ、そのガッカリ顔は。リーネさんこそ、バシッと魔法でやっつけちゃってよ」


 リーネは、首をブンブン振って、拒否する。

 私たち、女の子だからここは男の人に任せようよ、そう二人で耳打ちした。


「中隊長殿、俺たちにはトロールと戦ったことがないし、無理です」

「無理って言い切るなよ! わ、私も無理よ。 あんたたち、男でしょ!」


 ほんと、全く頼りない男たちだわ。なにが冒険者よ、なにが魔法使いよ。


 《でも、私に期待されてるって思うと、ちょっといい気持ちね》


 村のオヤジたちが、棒を持って集まっている。モンスターに棒切れで戦おうとしてるおじさんたちの方がこいつらよりよっぽど勇ましいわ、と七星は思ったがあえて言わなかった。


「中隊長さん。 おねがいします!」


 もう一度、ガスターたちは頭を下げた。

 あちらこちらから、中隊長さんと声をかけられる。悪い気がしないが、できる気もしない。


「ちょっと、この村って、他に冒険者とか強い人はいないわけ?」

「いますよ。 あそこで戦っている連中がそうです」


 ガスターが指をさした方向には、近所のおじさんが棍棒を持って立ち向かっている姿だった。あの人たち、村人かと思ったら冒険者だったの??


「あれが、冒険者? 全く勝てそうじゃないじゃないの!」


 これはダメだと頭を抱えて、座り込んだ七星にエステルが話しかけてくる。


「中隊長さんならできますよ。 やればできる人です」


「やればできるって……わかったわよ。 武器と防具を貸してちょうだいっ」


 七星ななせは意外と単純だ。学校でも同級生の女たちに七星はちょろいと影で言われていたのを知っていた。

 だから、学校を辞めた。嫌な気分をしてまで学校に行く必要はないと思ったからだ。

 でも、今は違う。みんなが私を必要としてくれている。


 ふと見てみると、村人もガスターたちもオロオロとしているばかりだ。

 その間、トロールは村の家畜を一匹捕まえては、口に運び、咀嚼そしゃくしている。


 うへー!! 嫌だ、マジでグロすぎる……。マジで勘弁してほしい。

 牛を生で食べるのは百歩譲ってもいいけど、皮ごとはダメでしょ。

 こんな巨人と戦えだなんて、とんでもない異世界人だ。こんなのとどうやって戦えって言うのよ!


「中隊長さん、あなたしかいません。ぜひ助けてください」


 あの嫌味イヤミったらしいガスターでさえ、懇願こんがんしてくれている。やるしかないわね!


「わ、わかったわよ。ちょっと、誰か防具と武器を貸してくれない?」


 周囲を見回して、大声で叫んで見たが村人たちには聞こえていないらしい。

 あまりにもトロールの姿が異様なのだ。

 今まで戦ったことがないガスターたちは余裕がなく、ただ呆然と見ているだけだった。


「ガスター! あんたちゃんとしなさいよ。牛を食べてる今のうちに切り刻みなさい」


 七星は、ガスターへ檄をとばすと、自分の格好を再確認した。

 この格好では、戦えないわ。もう少し強く見える衣装に着替えないと……

 そうだ! 確かコス衣装の中に剣士の衣装を入れていたわ。


「中隊長殿、早く、ヤツを止めてくださいっ!」


「あー、もうわかってるわよ! ちょっと、待ってて。私、着替えてくるから」

「えっ、これから?」


 《後から着替えてどうするのよ!》


「そうよ、なにが悪いの。私は形から入りたいコスプレイヤーよ!」


 そういうと、リーネの自室に走って戻る。キャリーの中に確かあったはず。

 キャリーを開けて、工作用のボードで作った某アニメキャラの防具を取り出した。


 ……あれ? なんか素材感が違う。これ、私が作ったものよね? ……金属っぽい。

 取りあえげた防具は軽いが明らかに金属製になっている。さらに、布で包んでいた剣も本物の剣になってる。


「工作レベルの衣装とか小道具が本物になってる! どういうこと?」


 七星は、衣装を取り上げると、グルーガンで取り付けたフェイクの宝石を付けた衣装を確認した。

 やはり、既製品レベルの仕上がりに、宝石は本物の石になっていた。


 《細かいことは今どうでもいいわ! とりあえず着替えていかなきゃ》



 衣装はアイドルのステージ衣装に防具はアニメキャラの肩当て、胸当てをつける。

 胸当ては、巨乳キャラなので大きめに作っていたのに、なぜか身につけると七星の胸のサイズにフィットした。


 《これ、私のサイズに自動的に変わってるわ。なんで? 異世界すげえな》


 あー、そんなことどうでもいいわ! 早く着替えないと、みんな死んじゃう。と、大きな独り言を言いながら、ウィッグもかぶる。

 そして、軽くメイクもした。


 その間、二十分…… ずいぶんかかったけど、メイクはキャラに似せる必要がないため、簡単に済ませた。


 普段なら、アイプチして、つけま、カラコン、テープで顔のお肉を引っ張り上げて……ってやっていると一時間以上かかる。

 あまり待たせていたら、村の人たち全滅したら寝覚めが悪い。


「よーし、できたぞ! でもこの装備で大丈夫か? いいの、問題なし!」


 鏡で最終チェックして、ちょっとメイクは納得できなかったが、諦めて行くことにした。


 七星は、リーネの家を飛び出るとトロールがいた場所へ駆けていった。

 大きな剣を持っているのに、全く重くなく、むしろ体が軽く感じる。

 走るスピードも自分とは思えない早さだった。これって、アニメキャラと同じ動きできる感じ?



「おっ、中隊長殿が戻って来たぞ! お前たち」


 トロールは一軒の家の庭木を引っこ抜き、ぶん回して建物を壊していた。

 そのモンスターに石を投げたり、木の杭を投げたりしていた村人が一斉に七星の方を見た。


「おぉー!」


 村人が一斉に驚き、歓喜の声で大きなどよめきが起こった。

 トロールさえも、一瞬どよめきに驚き、動作を止めた。


 走ってくる七星ななせは、つややかな金髪のロングを風になびかせ、白金の防具を見にまとい、フリルとギャザーがふんだんに使われた可愛い衣装を着ていた。

 走っている七星から、キラキラと光が出ているようだ。


 複数のアニメキャラの衣装を組み合わせた、渾身の七星ななせオリジナル衣装だ。

 とっさに、七星が考えた組み合わせは、実に見事にハマっていた。



「う、美しい!」


 男たちばかりでなく、女性たちも七星の姿に見惚れた。それほど、凛々しく、美しかった。


「待たせたわね。 どう、似合ってる?」

「はい、似合ってます!」


 一同が声を合わせて返事をすると、拍手喝采となった。

 一瞬驚いた七星も、みんなに注目され、歓迎されると気分が良くなったのか、その気になっている。


 《見掛け倒しだけど、女勇者くらいに見えるでしょう》

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異世界レイヤー★自作衣装でS級冒険者に成り上がる! 桜空大佐 @sakuraaan

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