第2話:はぁ?ここって異世界!? 

 なに、この草の感触。鳥のさえずりも聞こえる……。

 あれ、私イベントに出ていなかったっけ? なぜ寝てるの……?


 ハッ! 地震だ、地震で気絶したんだ!――――


「やばっ、寝てる場合じゃないわっ!」


 七星ななせは、うつ伏せで寝ていたところから、一気に両手で地面を押した。

 上体起こしの状態で、前を見る……


「きゃあ! えっ、えっ、なに? なに?」


 七星は、目の前にヌッと現れた男の顔を見て驚いた。

 無精髭に、顔は切り傷まみれ。赤黒く日焼けしていて目が笑っている。


「あははは、おい、こいつ起きたぜ!」


「おぉ、やっぱり寝てただけだろ。ほれ、俺の勝ちだ」


 《な、何、このむさ苦しい男たちは……カメコ?》


 七星は、自分を綺麗に撮ってくれる人はカメラマンさんと呼ぶが、カメラ持って女の子に近づきたいだけの男は、カメコと呼ぶことにしている。

 カメコはカメラ小僧の略称だが、かなり侮蔑の意味がある。


「な、なによっ! 起きてるわよ、起きてます!」


 七星は、そう言うと体を起こして正座した。

 周囲を見回すと、先ほどまでいたイベント会場ではなかった。


 《街の中よね? どこの街? なんで街?……》


 七星ななせは、頭をフル回転させるがさっぱり状況がわからない。


 《え、何、ここどこ? 石造りの家があって…… 道は舗装されてない。電柱もないし、ハウステンボス? いや、違う、絶対に違う…… 待って、どういうこと? 》


 混乱しているところに、無精髭の男が、ポンと肩を叩いて大笑いした。


「おい、お前、おもしれーな。さっきからグーグーいびきをかいて寝てるかと思えば、今度は目をグルグルさせてさ。お前こそ、誰なんだよ」


 ガハハハと大口を開けて笑う姿に殺意を覚える。


「はぁ? あんた、私がいびきなんてかくわけないでしょう!」


 七星は、このいかにも外国人という顔立ちのゴリマッチョに食ってかかった。


 この際、この男たちが誰でもいい。私がいびきをかいてるなんて、そんなの誰にも知られたくない。

 なかったことにしてもらおう、全力でとぼけてやる。


「すげぇイビキかいてたぞ!  あれじゃ、 男と寝ていたら蹴飛ばされるんじゃないのか?」


 さらにガハハハと笑われた。


 《チクショー! 彼氏なんていないわよ!》


「彼氏くらい、い、いるわよ!  カッコいいんだから!  二次元だけど……モニョモニョ」


 最後は尻すぼみとなると、七星はもう一度否定した。


「いびきかいてねーし!」


 七星が全力で否定するものだから、男は気の抜けたように、はいはい、とこの話を切り上げた。



「あのー、ところでここってどこです?」


 七星は、単刀直入に男に聞いてみた。すると、もう一人の男も、一緒になって笑う。


「お前、もしかして寝ぼけてこんなところに来ちゃったってのか!」


 《な、何が面白いのよ!》


 七星は、ひとまず、立ち上がって周囲をじっくりと見てみることにした。


 えー、どっちが北かな? 山がある方が北か。北側に山があるけど見覚えないなあ。

 七星は、時計回りに周囲を順番に見て回ったが、全く見覚えがない世界だった。


「ねぇ、ここどこよ!」


 無精髭の男に、人差し指を突きつけて「いいなさいよっ!」とにじり寄った。

 その気迫に押されたように、男はソレッタだと言った。


「ソレッタ? どこなの…… 全く聞いたことがないわ。 今はいつなの?」


 男たちはさらに笑った。ヒーヒーと腹を抱えている男は、大きな剣を背負っている。


 《剣を担いでいるけど、なんのキャラだろう……》


「ねぇ、お願いします。私、ここがどこかさっぱりわからないのぉ」


 七星は、今度は下手に出て、ぶりっ子アイドル風に言って見た。

 自分で、キモいとは思ったが、案外可愛い声が出せたと思う。


 男たちは、七星のほうを見て頬を赤らめた。どうだ、可愛いだろう。


 《よし! 私のお色気作戦成功!!》


 七星が心の中でガッツポーズしていると、女性が近づいてきて言った。



「あらあら、そんな格好ではしたない・・・・・こと。そこのお嬢さん、スカートがめくれ上がってパンティ丸見えになってるわよ」


 ぬぉおおおー! 七星は全力で、スカートを叩いて下ろす。いつからだ、いつからなのだ?

 男たちが顔を赤らめていたのは、これか! これなのか?

 大慌ての七星は、男たちをキッ!っと睨むと、


「あんた見たでしょ? ねぇ、あんたたち! お金払いなさいよっ!」


「ば、バカなことを言うな。見てない、何にも見てない。だいたい、お前の水玉パンツなんか興味ないし!」


「や、やっぱり見たんじゃない。なんで、水玉って知ってるの、見たからでしょ! もういいわ、一人千円」


「…… センエン? なんじゃそれ?」


 七星は、この男たちがとぼけているわけじゃないと言うのは、目を見てわかった。


 《これは本当に知らないみたいね》


 さっきの女性のほうを見ると、魔法使いの衣装を着ていた。


「あのー、私はナナセです。今日、コスイベに来て、地震があって…… そしたら寝てしまって、起きたら……ここで寝てた……ん? コスイベ会場にいたのに、なぜこんなところに寝てるんだ、私は!」


「ねぇ、さっきからあなた何を言ってるの? ここはソレッタの村。この国は、スートリア王国よ」


 外国なのかな、たしかに町の感じが明らかに日本と違う。ログハウス風の家が建ち並んでいるけど、見たことない風景だ。


「知らない…… 私、そんな国は知りません。 お姉さんのそれって衣装じゃないの?」


「衣装って言えば、衣装かな? いちおう魔法使いらしくフード付きのローブだけどね。これでも、神の加護が付いてるローブよ」


 女は、身長が七星より少しばかり高く、そしてスレンダーな体型だった。

 ローブで見えないがスタイルが良いのは想像できた。

 なんのコスプレなんだろう、と七星は彼女の体を隅々までチェックする。


「見たことないキャラね。なんのコスプレですか?」


「コスプレってなに? 服の話かな?」


 女は、怪訝な顔をしながら、フードをさっと後ろにおろした。

 すると、長い耳を持ち、金髪が現れた。


「えぇ! もしかしてエルフですか? エルフさん?」


「そうよ、私はエルフ。 正確には、森の妖精ね。精霊魔法使いのマデリーネよ」


 エルフの女は、二十代くらいに見える。色白で、すべすべした肌。

 これは、ファンデーションではないはず。だって産毛が金色でキラキラしてる。

 さらに、髪の毛も金髪だけど、これ絶対にウイッグじゃない。

 耳だって、ピクリと動くのを見た。本物だ。


 七星は、マデリーネと名乗ったエルフに向かって、尋ねた。


「ここは、異世界ですか?」


「あら、異世界って、なんのことです? ここは、スートリアってさっき言いましたよ。もう忘れたのかしら、バカなのかしら」


「はぁ? いま、さらっと私をディスりましたよね? バカじゃないわ。少し頭が不自由なだけよ!」


 自分でも何を言ってるのかわからなくなったが、だんだんと状況が見えて来た。

 どうやら、異世界に飛ばされてしまったらしい。

 そんな漫画みたいなことあるとは思えなかったが、目の前の光景に信じざるを得ない。



 これが夢やドッキリだったとしても、なるようにしかならない。

 まぁ、どうでもいいかっ! と、七星は、独り言を吐くと、エルフと男二人に目をやった。

 見た目は、ダサいけど、悪い人たちではなさそうね。

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