異世界レイヤー★自作衣装でS級冒険者に成り上がる!
桜空大佐
第1話:コスプレイヤーは腹黒い?
ピーピピピーピピピーピピピーピピピー
スマホのアラームが鳴り響き、手探りで画面をタッチして止めると大きく伸びをした。
なんだぁ、もう朝なの? さっき目を
「あぁー!!……やばっ! 寝過ごした。今日イベントだった!」
今日のコスプレイベントに行くことを思い出し、眠気が一気に
そして、急いで洗面所に飛び込むと、髪を濡らして
いつものことだが、どうして前髪だけが跳ねてんのよ。
「どうせウィッグかぶるんだし、少々寝癖があってもいいよね!」
休日は昼過ぎまでダラダラと布団の中で過ごすのだが、今朝は八時に近所のコンビニでレイヤー仲間と待ち合わせしている。
「あぁ、なんで私、寝ちゃったのよ!」
独り言は
考えたことが口から出てしまうので、嘘や建前をつくのが苦手だった。
髪を整えると、歯磨きを一気に終わらせた。
もちろん、丁寧に歯磨きしないと写真に写った時に、歯に
撮影の時は歯磨きには気を使っている。
「お腹すいたけど、まぁいいか。昼に食べよっと。午前中の1着目はおなか出す衣装だし、ポッコリお腹のアイドルなんて恥ずかしくてできない!」
七瀬は、2つの大きめのキャリーケースを開けて、その中にあった衣装と小道具を取り出す。
「花びらいらんか。……小鳥の置物も今日は持っていかなくていいし、あっ、この衣装は今日も使う……しまった! 洗濯してねーわ。…… 消臭剤シュッシュしとこっ!」
前回のスタジオ撮影の後、入れっぱなしにしていたキャリーの中身を取り出し、今日使う衣装を納めて行く。
昨日、というか今朝方まで某アニメの
まだ塗装が乾いていないはず。
夜中にベランダで、シューシューとペンキを吹き付けていると近所迷惑になるので、風呂場で塗装をしたから部屋中がシンナー臭い。
「換気扇全開! よーし、準備万端!」
どうせ
マスクで顔を隠してグラサンでいいわと、ノーメイクで家を出た。
起きて、二十分以内で家を出るとは、我ながら素早いぞ!
それにしても、くそ眠い。
車の中で寝させてもらうかな。
いつもの
コスの時はいつもと違うパワーが出るようだった。
遠目でもすぐにレイヤーだとわかるのは、二人ともキャリーバックを持っているからだ。
しかも、一人は、武器を布にくるんだ大きな荷物を持っていた。
その二人が、七星に気づくと手を振って声をかけてきた。
「おはよー!久しぶりーー!!」
二人は、七星の手を握って、ぴょんぴょんと飛んで喜ぶ。
七星もつられてぴょんぴょんと飛んだ。
「カンナちゃんも、るあちゃんも久しぶりー!」
《はぁ、このテンションにはついていけねーわ……》
七瀬は、二人に『コンビニで昼ごはん買ってくるから』と手を離すと、キャリをガラガラと引っ張ってコンビニに入ろうとした。
二人のレイヤー仲間は『キャリー置いていきなよ、見といてあげるから』と呼び止められ、せっかくなので荷物を見張ってもらうことにする。
《サンドイッチでいいかな…… 水も一本買っておくか…… 》
お腹が空いても、イベントの後のアフターでファミレスに行こうって話になるのは分かりきっている。その前に小腹が空いたら軽く軽食を取るくらいは大丈夫だろう。
「ななせちゃん、今日は何着するんだっけ?」
「え? ……3着です」
「アイドル衣装と、あとは騎士だっけ? それと、何だったかな? ツイッターでつぶやいてたよね? 衣装できたの?」
一気にいろいろと聞くなよと、七星はカンナの方を横目でチラッと見た。
満面の笑みだ。いかん、可愛い。
この人は、すっぴんでもスペックが高すぎる。
レイヤー界隈で有名人だけのことはある。
「カンナちゃんは、今日も男装? えー、たまには女装も見たいなー」
「えぇ、私、ちょっと顔が長いから男装しかできないんよー」
知ってる、だから勧めたんだと七星は思ったが、当然口には出さない。
「ところで、誰が会場に連れて行ってくれるんだっけ?」
七星は、レイヤー三人だけでどうやって会場に行くのか聞いていなかった。
てっきり、カンナちゃんか、るあちゃんのマイカーで行くのだと思っていたが、この子たちの車は見当たらない。
「ハッシーさんが来てくれるんよ。カメラマンさんの」
「あぁハッシーさんか。この前のスタジオでも撮ってもらった」
るあちゃんが、速報をツイッターで見たよって言う。
だよね。あんた真っ先にいいね!してたもんね。
でも、できればリツイして欲しかったよ。
「そう、あの時の写真、ハッシーさん―――― 」
「あっ、来た来た! ハッシーさ〜ん!」
七星は、このノリにはついていけないと肩をすくめた。
《カンナちゃんって、人前ではこんなに優しくて可愛いけど、めちゃ腹黒いのを知ってるし、イベント後に二人で食事に行った時なんて、るあちゃんの悪口めちゃ言ってたし……。今日、
「よくあれだけ文句言っていたのに仲良くできるもんだわ……」
「え? 何?」
カンナが怪訝な顔をして、
《 やばい、心の声が漏れ出てしまったわ 》
レイヤー三人と、カメラマンさんの四人は小さな軽四自動車で移動した。
イベント会場は、市内にあるルネッサンス様式の建物。
外見が素敵だけど、屋内が暗いのは事前調査済み。
昔、イベントで使ったことがあったみたいで、ネット上にはこの場所で撮影された写真があった。
七星は、昨日いくつか見て回って、どんな写真が撮れるのかも確認済み。
準備万端なのだ。
構図やポーズを事前にイメージしてくることは、レイヤーとして当然だと思っている。もちろん、ノープランの時もあるけど、それは信頼できるカメラマンさんと自分がどっぷりハマっている作品のキャラの時くらい。
イベント会場には、着替えの列ができていたが、すんなりと三人は着替えに入れた。長い時は一時間ほど待たされることもある。
メイクをしていた時に、七星は忘れ物していることを思い出した。
「うわっ、やば! スパッツ、そういえば干したままだった…… どうしよう。超ミニスカのキャラなのに……」
七星は、るあに相談すると、さすがにスパッツの替えは持っていないという。
コンビニにも売ってないよなぁ。近くにしまむらでもあればいいんだけどなぁ。
ほぼほぼ、諦めてかけているときだった。
るあちゃんは、少し離れたところで着替えていた、カンナに向かって手を振って大声をあげた。
「カンナちゃーん、ナナちゃんスパッツ忘れたってぇ〜〜!」
あわわわ、そ、そんな大声で言うなし!
七星は慌てて、るあの肩を押す。
「え? 何?」
るあちゃんは、肩を押されびっくりした顔をして、七星を振り返った。
《こ、こいつ、天然か!? 男の人もいっぱいいるのに、
「る、るあちゃん……い、いいから。もういいから……」
顔を真っ赤にして七星は、それだけ言うのに精一杯だった。
とりあえず、着替えとメイクが終わったので、キャリーに着てきた服を押し込むとキャリー置き場に荷物を運んだ。
さすがに二つのキャリーバッグは場所をとる。
カンナちゃんと、るあのキャリーと合わせて5つを、荷物置き場の端に置いた。
先に二人は、連れてきてくれたカメラマンさんのところへ行くというので、七星は一人で名刺と水をキャリーから取り出していた。
そのとき……
―――― ドドドドォーー! ――――
大きな音がして、思わず七星はしゃがみこんだ。
あたりで、悲鳴のような叫び声が聞こえた。
「じ、地震?」
しばらく、七星は頭をかばうようにキャリーバッグに抱きついて身を低くして揺れが収まるのを待つ。
床が波打つほどの揺れに、恐怖で荷物にしがみつくのがやっとだった。
激しい揺れで、パラパラと天井から何か降ってくるのを感じて目を瞑り、息をひそめた。
何分くらい経っただろう。辺りは静かになっていた。
そっと、七星は目を開いて周りを見回す。
あれ? 真っ白な世界、何にもないぞ、あれあれ? 夢の中?
七星は、そのまま気を失った……
………… あれから何時間たっただろうか ――――
ピーヨ ピーヨ ピーピーピー
《鳥の鳴き声? ん? もしかして寝てた? 》
ハッ! やばい! 地震は?
七星は、目を開けると、草の上でうつ伏せになっていた。
腕立て伏せの要領で、腕で上体を起こすと目の前に男の顔があった。ギョッ!
「きゃっ!な、何? だれ?」
「はははは、起きたか。おい、こいつ起きたぞ」
男たちがゲラゲラと笑っている。
「なっ、なに?!」
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