あれをこう、なんやかんやと続けてましたらね?
しばらく北永とのげた箱文通が続いたと思ったら、今、俺はピーンポーンな効果音を聞きながらこんな場所に立っている。
「はい」
「あ、えと鍋岡雪司郎です! 北永さんとはお友達で! あ同級生です! 同じクラ」
「くすっ。はい」
うぉ、さっきの北永本人だったのかっ。緊張してつい。
(そわそわそわそわ)
……いくら女子としゃべることに慣れているとはいっても、女子の家にお呼ばれされたなんて……小学三年生とかその辺以来なんじゃないだろうか。それにあの時は俺一人じゃなく何人も行ったし。
薄い橙色の塀と黒い門扉の前でそわそわしていたら、白い玄関の扉が開かれた。もう一度確認してみても紺色の表札に書かれた白い文字は『北永』。インターホンも紺色。
(おぉ~ぅっ……)
私服北永志遊の登場である。薄いピンクに白い襟のついた長そでワンピース。
セーラー服北永志遊とはほとんどしゃべったことがないので、私服北永志遊だとしゃべってる北永という印象にちょこっと頭が切り替わる。
手招きしているので入っちゃおう。門扉がしゃーん。
「や、やぁ」
「こんにちはっ」
……実は俺。北永の声を聞くとついどきっとしてしまう北永志遊音声どきどき症候群にかかっているらしく、正直夏祭りとかで北永に会えるのを楽しみにしていたところはある。
文通効果により北永も俺と会うことは割と楽しみにしてくれているようなことがわかったら、なおのこと北永の声を聞きたいと思っていた。
そんな中での……
(……これが北永家……)
俺はゆっくり歩いて北永に近づいていった。今日は髪下ろしてる感じなんだな。とか観察していたらもう北永の前に着いちゃった。
(フッフッフ……ならば俺様の切る初手はこれだっ!!)
「じゃますんでぇー」
北永はにこっとしてる。
「……うぉっほん。じゃますんでぇー」
また北永はにこっとしてる。
(これは……わかってないな?!)
「北永」
北永が視線を俺に向けている。うっ、その純粋さを受けると俺の野望度合いに少し申し訳なさが……いやいや! ここで教えねばだれが教えるのだこの奥義を!
「俺が扉をくぐるときとかに『じゃますんでぇー』と言ったら、北永は『じゃますんなら帰ってぇー』と言うように」
「えっ?」
一気に疑問丸出しの表情になった。北永おとなしいけど表情は結構出るからなぁ。
「その北永のセリフに続いて俺は『あいよー』と言いつつ体を一瞬反転してからの『なんでやねん!』というツッコミでフィニッシュ。OK?」
うん。表面上での表情はぱちくりして見てきているだけだが、内面的にはまったくもってわけわからんわっていう表情をしているであろう北永。
「では本番! よぉーい…………アクションッ! カチンッ。じゃますんでぇー」
ちらっ。
「……じゃますんなら帰ってぇー?」
「あいよーってなんでやねん!!」
見よ! この完璧な反転動作からの流れるようなツッコミ技術!
(あ、北永の左腕に当たっちった)
だがここは重要な場面! しっかりキメ顔を演出しなければ! 目の前の北永はおめめぱちくりしてるけど!!
(………………なんかしゃべってくれません?!)
あの北永にしゃべってくれることを願うのもちょっとあれかなとも思ったけど、そもそも北永にセリフ付きのギャグをさせるというのもちょっとあれだろうか…………
「……くすっ。ふふっ」
(わ、笑っただとーーー?!)
なんて純粋たる笑顔!
「おじゃましまーす」
俺は内心にやにやしちゃったけど、平静を装い北永家へと足を踏み入れた。
「ここが北永ん家かー」
なんというか、落ち着いているというか。やっぱこれが女子のいる家っていうことなのだろうか。お、げた箱の上にいきなり写真があった。濃い茶色の木のフレームの写真立てで、普通の写真の大きさが縦になっている物。
「これ北永の父さん母さん?」
「うん。去年海に行ったときの」
北永と母さんは麦わら帽子装備。左に母さん右に父さん真ん中に北永というポジション……なのはわかるとして、
「後ろの人は?」
「お姉ちゃん」
「北永姉ちゃんいたのかよ!?」
「うん。むっつ離れてるから一緒に学校へ行くことはなかったけど」
衝撃の真実! そして北永どころか母さん父さんよりもさらに身長が高い姉ちゃん。
「えらく身長高い姉ちゃんだなっ」
「お姉ちゃんだけ段差に乗ってるんですっ」
ぇ、むすっとする北永ちょっとよくありません? てかなんでさっきの展開でむすっとしたんだよっ。
「あーうぉっほん! なんで家族写真がげた箱の上に置いてあるんだ?」
「いってきますのときに見るためってお父さんが言ってたよ」
「へー」
写真の下に敷かれてあるクロスも白色レースな感じでちょっとおしゃれだし。個人的にはサーキット場的なレースの方が熱いけど。
(……北永近いし)
「おじゃましまーす」
北永の表情は見てないけど、たぶんにっこりしてくれているということにしておこう。北永はサンダル装備だったため速攻で上がった。
俺も靴を脱いで北永家に上がると、横に北永。実に本日も北永。よし北永を眺めよう。こっち向いた北永。おめめぱちぱち北永。
「……なに?」
「北永を眺めてみようの会?」
と軽いジャブを打ち込んでみたが、北永は笑ってくれた。ボクシングに北永ルールを入れてくれたら俺世界チャンプになれるわ。
「じゃあ……私も、鍋岡くん眺めてみようクラブっ」
おおっとまさかのライバルの部活が現れたぞ!
こちらは部活というより同好会のような名前なのに向こうはきっと部活に格上げできる要件を満たしている手ごわい集団だぞ!
負けるわけにはいかぬ! これぞ
(…………だからってさ……)
なんでそんなに笑顔で俺を直視し続けてんスかぁーーー?!
(こんなに長時間女子を眺めることなんて今までなかったが……)
不思議ともっと見ていたくなるというか、ずっと見ていられるというか。
(……なんか、ちょっと……な……)
うーんなんだろう。やけにどきどきしてきたというかなんというか。もっと近づいてみたくなったというかなんというか。
というか俺というかばっかりだな。
「……き、北永?」
おめめぱちぱちで返事をするとは、外国の人ともコミュニケーション取れそうだ。
「あ、あのさ。なんていうかその。手紙、いつも返事くれて、さんきゅな」
おろ。俺らしくないセリフが口から出ちゃったかも。
「……私も、ありがとう。毎日楽しいよ」
そのセリフにその笑顔はだめっスよぉ! もっとどきどきしてまうがなー!
「だ、だからその。こ、これはあくまでさんきゅって意味でな! へ、変な意味じゃなくてだな! なんていうかほら、き、北永って優しいからさ! こうしても許してくれそうっていうか、ああなんていうかその、でも、今ものすごくこうしたくなったからというか、なんかその……と、とにかく、さんきゅっ」
まるでぐっちゃぐちゃな文章になってしまったが、言うだけ言った俺はそのまま北永に腕を回して……
(お、おぉぉぅ……やべーよこのどきどき具合……)
ぎゅっと抱きしめてしまった。
(だって北永ものすんげーかわいかったんだもん!!)
おおこれが北永の髪の感触。って俺何やってんだ。ああでもすいませんすりすりさわさわ。
(うぉっ!)
すりすりさわさわしていたら、北永もゆっくー……り腕を俺の背中に回してきた! 北永の腕と手の感触がやってきた。ちわーっす。いやそんな野太い声じゃないだろうな。
(……これいつまでしてていいんだろうか)
制限時間聞いてないし、知らないし、でももっと続けたいし、なんならもうちょっと強めたいし……強めちゃえ。
(あ、北永も?)
ほんのちょっと北永の腕も俺に抱きつく力を強めた気がした。
(……ほんといつまでしてていいんだろう?)
北永なんも言わないし……もうちょっとしとこ。
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