さて、次の日の反応は……?
次の日
今日も一日元気に過ごしている俺。
北永からは特にこれといった返事もなく帰りの会が終わってしまった。
(まさか北永が知らない間にコンパス盗まれて返したこと知らないとか!?)
ああいやいやむしろ返ってきてないならそれこそ俺に聞いてくるか、ははっ。
北永志遊というのはおとなしい女子だ。身長は女子の中では少し低めかな? 髪は長めで週替わりくらいで髪型が変わっている。気がする。
幼稚園も小学校も一緒なんだが、中学二年となった今でも北永が昔からずぅっとおとなしいためにそんなにしゃべったことがない……学校ではな!
実は地域のイベントとか夏祭りとかでばったり会うと、そんな人が変わったというほどではないにしても、学校とは違いそれなりにしゃべっている。
見た目どおり……って言ったら怒られるかわかんないけど、おとなしくゆったりと、でもしっかりこっちを見てまっすぐしゃべってくれる。
一生懸命というか誠実というか、そんな北永の姿勢にとにかく俺もちゃんと返事しなきゃって感じになる。
吹奏楽部っていうこともあって女子としゃべる機会自体は毎日あるけど、あんなに意識してしゃべる女子は北永だけだなぁ。
意識っていってもめんどくさいとかそういう意味じゃなく、なんていうか、つい北永に楽しんでもらえたらとか、そんなこと考えるというか……。
でも普段の学校では北永としゃべる機会がない。向こうもしゃべりかけてくるわけじゃないから、俺からもそんな……ねぇ? というか
物を借りるという目的があったとしてもああして声をかけたのは珍しい方だ。近くを通ってくれなかったら借りることはなかった。
部活も終わってさー帰ろ。
俺たちの学校のげた箱は扉があるタイプなので、そこらじゅうでばんばん開け閉めの音が聞こえる。朝の登校のときほどじゃないけど。
俺もそのアドリブパーカッションサウンドに混じってばんっと開けて
「うわっとっ」
なんだ、紙? 開けた瞬間落ちてきそうになった紙をあたふたりながらもキャッチ。
(果たし状か!?)
別に特定の流派を持っているわけじゃないし、どこかのエージェントに所属しているわけでもないんだけどな……って!
(北永志遊っ?!)
ルーズリーフかなんかを丁寧に折られていた物だったが、そこにはずいぶんかわいらしい丸っこくてちっちゃい字で『鍋岡雪司郎くんへ 北永志遊』と書かれてあった!
女子とは年賀状をちょっとだけやり取りしてるけど、こういうタイプの手紙は初めてもらったので、そりゃもう今の胸はどっきどきですわ!
でもそのどきどきはすぐに落ち着いていく。だってコンパスに手紙付けたのは俺なので、これはそれに対する返事なのだろうと容易に想像がついちゃうからである。
辺りを見回してみたが、今このレーンで靴履き替えてるやつはいない。とりあえず学生服の右ポケットに入れておくか。
俺は気を取り直して靴を履き替えた。
校門を抜けて周りにだれもいないタイミングになったところで、俺は右ポケットからさっきの手紙を取り出す。
てか俺はあの時放課後だったから手紙添えたけど、北永は朝とかにコンパス返したの気づいたのなら声かけてくれてもよかったような……? まいっか。今から読むが、家帰ったら部屋の学習机鍵付き引き出し行き決定宣言だけしとくわ。
俺はまたちょこっとどきどきしながら手紙を……これどうやって開くんだ? あぁここからこうでいいのか?
単に折り畳まれた形ではなく、複雑に折られてきれいにまとまっている。今度この折り方まねしてみるかな。
なんとか開けることに成功。うわなんかめっちゃ書いてあるぞ!?
『Dear鍋岡雪司郎くんへ
コンパス返してくれてありがとう。お役に立てたかな?
あのレターセットふろくのだよね?少女マンガ読んでいるの?
コンパス持っているのはノート書くときにたまに使うからだよ。←円グラフとか
また使いたくなったら言ってね。
From北永志遊』
(じーん)
……いいじゃん。これ。なんかぐぐっと来ましたぞ!(なんだこのキャラ)
小学校のころ女子同士が手紙で盛り上がっていたらしいのはなんとなく知っていたが、こんな感じでやり取りが行われていたのだろうかっ。
それにしても、手紙作戦を切り出したのは俺の方からとはいえ、学校では今日声をかけてくることなく手紙だけげた箱に入れていて、そして内容は夏祭りとかで会ってしゃべっているとき……よりも元気に見えるのは文字の威力だからか? とにかく北永的には声をかけるよりかはこっちの方がよかったってことなんだろうか。
何にせよ、手紙だったら北永はこうして積極的に気持ちを伝えてくれるんなら……
(……もっぺん書いてみるかっ)
俺は若干スキップを混ぜながら俺ん
(また来た!)
俺が夜手紙を書いて、朝に光速げた箱開け閉め術を使い周りの視線が飛んできてない瞬間を狙って北永のげた箱へバンサバンッと華麗に手紙を入れることに成功。
平和な一日を過ごし帰ろうとしたら、今回はもう今日の間に俺のげた箱に手紙が入っていた、というわけだ。
『Dear鍋岡雪司郎くんへ
後輩の子と仲良いんだね。あのレターセットは
「手紙にお願いを書いて星渡るポストというポストに出すと未来に必ず願いが叶う、
でもいつ叶うのかは誰にもわからない」ていうお話のふろく。
他の子に渡して手紙交換しようって書いてあったと思うから、
わけてくれた後輩の子にお手紙書くと喜んでくれると思うよ。
From北永志遊』
(なるほどそういう流れだったのか! しかし後輩は『先輩もちょっとは女子力上げなきゃ!』とかなんとか言っていたが……?)
とりあえず後輩にもなんか手紙を書いた方がいいんだな? 少女マンガなんて歯医者の待ち時間に読んだことあるくらい……?
……こうして、俺はいつの間にか北永との文通が始まっちゃっていた。
『私は家庭部だよ。去年の文化祭で展示見に来てくれたよね?』
『今年も夏祭りで演奏するの?聴きに行くよ。終わった後にしゃべれるといいね』
『テストどうだった?理科難しかったよね』
『津山くんのあのポーズってなんなんだろう?』
『球技苦手。ボール投げても届かないことばっかり』
『目的がなかったらあんまり外に出かけないかも。家の中で遊ぶことが多いよ』
『バックギャモンって知ってる?お父さんがたまにしているよ』
『強くないけどルール教えるくらいならできるよ。今度私の家で遊ぶ?』
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