短編35話  数ある果たし状なわけがなく

帝王Tsuyamasama

短編35話  数ある果たし状なわけがなく

(やば、コンパス返すの忘れてたっ)

「じゃーなー雪司郎ゆきしろう~」

「あ、ああ~」

 俺はちょっと手を上げて下鈴しもすず 博太ひろたと別れた。そのまま博太は教室を出ていった。

 博太たちとさっきの休み時間、コンパス(方位磁針のじゃなく丸描く方)だけで絵を描く話になって、ここ最近は授業でも使ってないけど今だれか持ってる人とかいるのだろうか~となったとき、近くを通った女子の北永きたなが 志遊しゆうに思わず声をかけると、なんと持っていたというっ。

 ピンク色のパーツと銀色の軸が光るコンパスを白いケース付きで借りて、博太が持ってきた雑誌に載っていたコンパス絵を描いて盛り上がっていた。

 い、いや普段こんな絵とかの話題で男子同士で盛り上がることなんてないんだが、でも道具を使いたがるのはやはり男子たるさが

 で、盛り上がるだけ盛り上がって今日最後の授業が始まるチャイムが鳴ると同時に先生が現れたので、北永にコンパスを返すタイミングを逃してしまった。北永結構前の方に席があるから返しに行くと授業スタンバるクラスのみんなから視線の嵐浴びるだろうし……。

 帰りの会が終わった後で返そう~と思っていたら、終わった直後から博太たちと今度はテレビゲームの話。機械を使いたがるのはやはり男子たる性!

(……で、気づいたらもういないや……)

 廊下に出て見回してみたものの、もう北永の姿はなかった。

(部活が何部かも知らないしなぁ……)

 明日まで自分の机の中に置いとくってのもー……かといって持って帰るってのもー……

(ん~)

 ほとんどのクラスメイトが部活に向かった。俺も行かないとな。

(手紙書いて置いておくかー)

 俺は吹奏楽部なんだが、余ったらしいとのことで後輩からもらっためっちゃくちゃ女子向けのレターセットがすぐ頭の上に浮かび、学生カバンの中から筆箱召喚! レターセット召喚! うーんどの柄がいいんだ? 無難な星のやつにしよう。このキャラクター全然知らないけど。


『コンパスさんきゅ! なんでコンパス持ってんだ? 授業あったっけ?  鍋岡雪司郎』


(これをコンパスのケースにはさんでっと……うしっ)

 ついに教室で俺だけとなったこのタイミングで、北永の席へ~……。

(女子の机に手突っ込むとか、初めてな気がするが……)

 ちょっと左奥の方へそっと入れた。

 最後に一回教室内を見回してみたが、だれも俺の作戦を見ていた者はいないようだ。

 ということで俺、鍋岡なべおか 雪司郎ゆきしろうも急いで部室……てか音楽室へ向かった。

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