第参話 新しい風 その一

「やった、アクセスがうなぎ登りだ!」


 携帯を片手に、和人は嬉しそうに言った。彼は手先の器用さと社交性を生かし、高校を卒業と同時に『千代紙と竹串で超ミニ和傘を作ろう!』というコンセプトで動画配信をしていた。動画で作成した作品は、店頭で商品として並べている。雅で粋な飾り物だと買っていく客も少なく無い。


 和人は理系の大学に通ってウェブデザイン同好会に所属し自由気ままに楽しんでいる。

 立花家は、今は亡き八代目の方針から、幅広い教養と豊かな人間性を築く為学校は好きなように選ばせ本人に任せていた。

 令和は文系の大学に通って教職課程を選んでいる。週三回ほど、ラクロス同好会に参加し、適度に体を動かすようにしていた。


「ウィーチューバ-でも稼げそうだな」


  と、弟を眩しそうに見つめる。


「最初の内だけだろうな。今は小学生も何十万再生とかされる時代だし、なかなかに厳しい。色々問題も出て来ているし、その内ウィーチューブというシステム自体無くなるかも知れないし」


 あっけらかんと答える弟は、切り変えも早い。駄目だとなるとサッと退く潔さも持っている。一度に複数の事を同時に素早く美しくこなす頭の回転の良さ。これでアイドル並の甘いルックスとあってはモテない筈はない。現にその親しみやすい性格もあってか、和人目当てに店にやってくる女性客も着実に増えて来ている。


(こういう器用な奴が跡継ぎになった方が、これからの時代生き抜けるんだろうな)

「そっか。それもそうかもな、なるほどな」


 弟に同調しつつも、一つの事に拘り執着する事で和傘職人一族の跡取り息子であるという事に必死に面目を保とうとしている自分を情けなく感じた。

 そう感じているのは今に始まった事ではないが。まだ正式に跡を継ぐ前、自分が大学を卒業する前までに申し出るべきだ、そう決意したのはいつ頃だったか。未だに踏ん切りがつかない己に自嘲の笑みを漏らす。

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