第弐話 しきたり その一
和傘の骨組は一カ月ほど水に漬けた真竹を使用する。まずは表面の皮を剥いて竹を二つに割る。そして糸を通す穴を開ける節をいったん除外しておく。それ以外の節を取り除いた後に更に細かく割って親骨と小骨合わせて本十八本の骨を作るのだ。順が狂わないよう、割った竹は黒墨で小さく印をつけておく。この作業を『竹割り』と呼ぶ。一本の竹で一つの傘を作り上げる故に開閉も滑らかで自然なものに仕上がるのだ、と和傘職人たちは口を揃えて言う。
……最初から和人は何でも器用にこなしたんだよな……
令和が幼稚園に上がったばかりの頃だ。物心つく時から和傘というものに惹かれていた令和は、よく作業部屋に行っては、当時は九代目だった祖父と、修行中の父が和傘を作っている様子をよく眺めていたものだ。何時間見ていても飽きず、いつの日か自分も和傘を作れるようになり立花家を引き継ぐのだ、と無邪気に信じていた。代々長男が、または男子が生まれなければ養子を育て、引き継がれてきたしきたりだったからだ。しかし現実はそう甘くはない。
「令和、何があったか知らんが作業だけに集中しろ」
背後よりボソリと呟くように諭す先代の声に、ビクリと我に返る。
「は、はい、失礼しました!」
慌てて竹を割る作業だけに集中する。十代目はチラッと令和に目を向けただけで、すぐに自分の作業に戻った。先代と言っても、息子に引き継がせただけで職人自体を退いた訳ではない。今は黙々と傘を作る事と、令和が和傘を作るのを背後から、時に隣からしっかりと見守りそして手ほどきをする役目を担っている。
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