その三
琴の音色が雅に響く和風な店内。灯里は満足そうにあんみつを頬張る。令和はその姿をわらび餅を食べながらぼんやりと見つめ、彼女の唇も黒蜜をかけて食べてみたい、などと妄想する。
「そういえば、私のお稽古ごとが続いちゃってしばらく会えなかったけど、名前の事で何か言われなかった?」
無邪気に問いかける声に一瞬何の事を言われたのかぼんやりと考えながらも、すぐに思い当たる。
「ん? あぁ。言われたよ。元号が発表になって、親父にもお袋にも。家族総出で突っ込まれたし。次の日学校でも散々言われたもんさ」
「あはは、だよね。私なんか元号知ってからすぐにLINERしちゃったし」
「他にもそういう奴いたよ」
会話を交わしながらも、令和はの脳裏には二か月ほど前の当時の様子の再現されていた。
それは新しい元号が発表された日の事であった。
「へぇ? 次の元号は『令和』なのね」
テレビを見ながら、母親は言った。心持ち嬉しそうに、涼やかな目元を細める。整った顔立ちの細面に、ほんのりと茜が差したように見える。対して、無言でテレビを凝視する祖父。いつもと変わらない無表情だ。顔色一つ変えない。深く刻まれた額の皺は、思慮深く勤勉である事、切れ長の瞳は相変わらず鋭い光を湛え、頑固そうに引き結んだ唇は寡黙さを保ったままだ。
「令和という名前の人は意外にも少なくないらしいな」
父親は興味深そうに身を乗り出して画面を見つめる。偶然にも元号と同じ名前の人たちの特集が始まったようだ。鋭利な光を湛えた切れ長の瞳、端正な顔立ち。父親を見る度に、令和は思う。祖父の若い頃の生き写しなのだろう、と。
「やったやん! 同じ元号に十一代目誕生! かっけーじゃん!」
お道化たように、弟の│
「止せよ、ただ単に偶然同じだっただけだろ」
令和は本当に勘弁して欲しい、と辟易していた。自分の名は祖父の│
。
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