第3-3頁 キノコタンの歴史
川で能力を試した静紅は、次々目覚めてくる友人に朝食を渡す。
・・・・・
「ふわぁ…あ、おはようございます」
「おはよーやでー」
「あれ?静紅が一番か」
六花、結芽子、蜜柑の順に起きて来たことを確認し、私は燻製器の中からキノコタンを取り出した。
朝露に濡れる草の上にしゃがみ、煙の臭いで咳をしてから、呟いた。
「うーーん、ただの煙じゃダメなのかな…」
私が落ち込んでいると、蜜柑が後ろからキノコタンにかぶりついてきた。
「あむ。もぐもぐ…うん。普通に美味いぞ?」
「本当ですね。美味しいです!」
「うん…美味しいで!」
いつの間にか他の人にもキノコタンが取られていたが、美味しいと言ってもらえたので良かった。
やっぱり自分の料理を美味しいって言ってもらえるのは嬉しいな。
前世はコンビニ弁当を食事係が買ってきてみんなで食べるだけだったから、こんな経験もたまにはいいものだ。
「分かった分かった、それじゃ思う存分食べてね!」
いくら鮮度は無限に保てると言えど、毎日同じ食材だと飽きるし健康的に良くない。
医療の発展度が分からない以上、風邪をひいたりするわけには行かないのだ。
とりあえず、朝食はキノコタンの燻製焼きでした!
それから私たちは、準備をして森の中へ入っていった。
準備と言っても、護身用に木の棒をそれぞれ持っているだけだが、それでも安心感は上がる。
昨晩よりかは、明るくなっていたが、やっぱり森の中は薄暗い。
人の出入りが無いのか、ほぼ獣道のような通路を進んでいくと、急に視界が明るくなった。
木々は切り倒されていて、草も生えずに、薄黄色の地面がむき出しのスペースがあった。そこには数軒家が建ち並んでおり、善の方のキノコタンが集まってなにかしていた。
「おぉー?ここはキノコタンの集落か?」
「多分そうちゃう?良い方のキノコタン達ばっかりで良かったわぁ」
蜜柑と結芽子が走って集落へ近づいていった。土が風で巻き上げられ、鳥が陽に向かってさえずるこの集落を言葉で表すなら、平和の二文字。
「こんちゃーっす、何してるんだ??」
陽気に蜜柑が善キノコタンに話しかけた。魔物は魔物でも、善の魔物なので恐怖感は無い。
「ぽぽー」「ぽっぽ」「ぽっぽぽぽー」
キノコタン達は何かを伝えようとしている!
「ほうほう…なるほどなーー」
まさか蜜柑、魔物と話せる能力があるとか!?私には全く分からん。
うんうん、頷く蜜柑に驚いた結芽子は口を開く。
「蜜柑ちゃん、なんか分かったん?」
「んーにゃ、なんにも分かんねぇよ?分からなくても相槌を打つ。これすなわち、商売の基本ってやつだ!」
「商売の基本がなんだか知りませんが、このキノコタンはなんて言ってるんでしょうね…」
するりと商売の基本とやらを六花にスルーされて萎えている蜜柑。この光景は前にも何回か見た気がする。
そこへ、1人の少女が現れた。
「『悪キノコタンとの戦争に向けての準備をしてる』って言ってるんですよ」
その声は、昨晩森の中で出会った、善キノコタンの女王…。
「ルイス!久しぶり…じゃないけど、調子はどう?」
「ごきげんよう、蜜柑さん、結芽子さん、六花さん、静紅さん!私は元気ですよ」
「そりゃ良かった!それで…悪キノコタンとの戦争ってどういうことだ?昨日も聞いたけど、詳しくは聞いてなかったよな」
蜜柑はルイスに尋ねた。戦争という言葉がこんな少女の口から出たことにかなりギャップを感じた。
「はい。昨日も申し上げたのですが、
善キノコタンと、悪キノコタンは長年、戦争を続けてきました。
初めは、同じ種族として共存してきたのですが、やがて価値観の違いや生活での違いで喧嘩が頻繁に起こるようになったのです。
そこで、武力で決着を付けようと、悪キノコタンの女王が戦争を開始しました。
昔からのしきたりで、『戦いから逃げたキノコタンはキノコタンの資格を無くしたのも同然』と言うものがありまして、我々は戦いをするしかなかったのです。
これまで行った戦争は五回。五回とも全て引き分けで負傷者もゼロだったのですが、今度…翌日開始される[第6次キノコタン大戦]では、初めての兵器の導入や、規模の拡大によって、被害が出るのは逃れられません。。。
そこで、静紅さん達にも、兵士として戦争に加わって貰いたいのです」
ルイスは腰を90度に折って、頭を深々と下げて言葉を続けた。
「無理も承知で言っています!あなた達に被害が及ばない確証はありません。ですが…あなた達がいなければ私達は…善キノコタン達は悪キノコタン達に殲滅されてしまいます。お願いします!!」
心配そうに、ルイスを見ていたリトル・キノコタン達も地面に座り込み、お願いしてきた。
ここまでお願いされて、誰が引き下がるんだ。
実年齢は知らないが、見た目年下の少女に泣きながら本気でお願いされたんだ。
答えはもちろんOK。それは、他の3人も同じのはずだ。
「分かった。私達も力を貸すよ!異論はないよね?」
私が他の3人と目を合したが、全員が首を縦に振った。これで承認は得た。
「ありがとうございます!ありがとうございます!これで百人力…いえ、四百人力です!」
ルイスが泣きながら大喜びした。本当に善キノコタン達の事を考えているんだな。
凄くいい女王様だと思うよ。
「「ぽぽーー!」」
キノコタン達もルイスを囲むように、円になって喜んだ。
何事も無く終わったらいいんだけどなぁ……。
その夜、私達はルイスの家にお邪魔して、戦闘準備をした。
・・・・・
こう見えても、キノコタンの家だけあって、屋根の柄も赤ベースの白点模様で、家の壁はキノコの茎のように、クリーム色だ。
正確に言えば、ルイスの家ではなく、善キノコタン達の城のような物なのだが、私達人間にしては、一般的な家でしかなかった。
なお、ルイスは会話が出来るように、人の姿になって接客というか、私たちと接待をしてくれた。
今日はルイスの家に泊めてもらう。
「念の為にキャンプセットを私に収納して来て良かったなぁ」
結芽子の言う通りだ。こんな大事になるとまでは思っていなかったが、わざわざ森を出て、キャンプへ戻るのが面倒だと感じは私達は、一度テントを畳んで結芽子に収納しておいた。
結芽子に収納。と言うとなかなかシュールな表現だけど、気にしないで貰いたい。
「そうですね。それにしても…こんな事に巻き込まれてしまうとは…」
「す、すみません!私のわがままで…」
ルイスがぺこぺこと頭を下げた。
「いいよいいよ!私達も嫌で戦争に加入するわけじゃないんだし」
「せやで〜、困った時はお互い様ってやつや!」
「巻き込まれたのなら全力を尽くします!」
「よーし!やってやらぁ!俺、大活躍してやるぜ!」
「皆さん…」
ルイスは泣き目で座り込んだ。そんな彼女に気分転換をしてもらいたくて、私は1度手を打って、
「それじゃ、明日は早いし、もう寝るよ!」
戦争前夜に行った準備は、細剣を一人一本、計四本を善キノコタンの武器庫から借りた。
それと私は、能力で使えるかわからないが、小石を二十個程広い、
結芽子は、木の棒やら、簡易的に武器になりそうな物を収納していた。
六花は、ルイスに悪キノコタン達について質問をし、
蜜柑は…なんか一人でキノコタン語を勉強していた。
多分昼間の出来事が悔しかったのかな。ああ見えて、元社長なのでしっかりやって貰えるのに期待しよう。
各々戦闘準備を終えた私達は、室内の暑くも寒くもない、心地の良い気温で、静かに眠りについた。
寝返り打てるとか最高かよ!
それが、異世界2日目の夜に思った最後の言葉だった。
第六次キノコタン大戦が、彼女の意外な起点によりあんな結末を迎えるなど、この時の私は予想もしていなかった。
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