第3-2頁 職業病・早朝覚醒
キノコタンの女王、ルイスと合流した静紅達。朝になったら合流するということで、一度テントに戻ってみる。
・・・・・
社畜の朝は早い。
これは皮肉にも、前世の癖というか、職業病の1種なのかもしれないな。
なんてことを考えながら、寝起きの頭に川の冷たい水をかける。
「ふぅ…異世界生活2日目!今日も元気に行こっと!」
ぐいっと両腕を伸ばし、背中を弧を描くように反る。徐々に力を抜いて、私はふらふらとあくびをしながらキャンプへ戻っていった。
「あーねむた、」
山から太陽はまだ顔を出しておらず、鳥のさえずりも聴こえない。
辺りは朝霧で満ちており、朝と言うよりかは…早朝の光景だな。深夜4時にいつもアラームを設定していたからなのだろうか、癖で自然に目覚めてしまったに違いない。
そりゃ、社畜時代は、午前四時に出社、午後十時に退社。と、かなーーりな重労働を課せられていたのだから。家に帰る時間は無く、恋愛はおろか、家族の時間など取れたものじゃない。
どれもこれもアイツのせいなんだけど、何故か憎めない。昔から彼女も彼女なりに頑張っているし、友達として尊敬もしてるからな。
さてさて、テントに戻ってきたわけなのだが、このまま寝付ける自身もないので朝食の準備をしておくことにした。
もちろん…キノコ料理だ。昨日の晩御飯の後にも、かなり悪キノコタンの切り身は残っていたので、蜜柑の食物鮮度操作術で保存してもらっている。[操作]なので、腐らしたり、新鮮にしたりするものだと思っていたが、現在の鮮度のまま、腐敗を止める事が出来るらしい。
机の上に無造作に置かれたキノコタンの切り身を取り、
「よし、火起こしの準備を始めるか」
ライターのオイル残量も不安になってきた頃だが、今は頑張ってもらおう。
火を付けた所に、川から取ってきた石で囲いを作り、平らな石で蓋を付けると、簡易燻製器の完成だ。
一度火を通したキノコタンを、炎に当たらない程度の高さで串で固定する。
あとは2時間も待てば完成するだろう。
「…はぁ…」
私はため息をついて、立ち上がった。
ここは本当に異世界なのだろうか。
もしかしたら、世界は同じで遠い外国に来ているだけなのでは?でも、神様から貰った能力は、本当に使えてるし…。
蜜柑の食物鮮度操作術、結芽子の物質収納術、六花の環境観察術。これは全て試していて、かつ、成功している。
ん?そう言えば、私は能力使ってないや…。
私の能力は確か…物体操作術。名前からして、超能力で物を動かす的なアレなのかな?
まずは、軽めの石を動かしてみよう。
こういう異世界系魔法はイメージが重要なのが、お約束だ。
MPとかの設定があったら無理だけど。
長々と考え事をして、私は周りの景色を見た。そして一番に目に入ったのは小さな小石。
「石を浮かすイメージ…こんな感じ?」
私が強く念じると、案の定、石がふわっと浮き、空中にとどまった。
「やった!それじゃ、右…」
そうすると、石は右に移動した。それから左、上に、下に。自由自在に小石を動かす事が出来て、調子に乗った私は、あることを思いついたので、川の方へ行った。
冷たい水が流れてくる川岸には、先程の石よりも、二回り、四回りも大きな全長5m程の大岩が大量にある。
という事は、ここはかなり川の上流だということだ。
まだ暗い川岸に一人、両手を出して全身に力を込める…。
「と…んでけー!おりゃー!」
ぐわんと手を空に向けて大きな声で叫んだ。
能力を使った途端、足元がぐらぐらと揺れて、足元を含めた数十の大岩が空に飛んで行った。
「ひゃー、めっちゃ飛ぶじゃん!びっくりした…」
不幸中の幸いと言うやつだろうか、私は多少高い所は平気な体質だった。いや、前言撤回。結構怖い…。
力を込めて能力を使ったらその分能力も強くなる的なやつか?
5mの狭い範囲の足場に座って考えていると、少しずつ山から陽が登ってきた。山端から太陽が顔を覗かせると、大地に闇が消えていく。綺麗な朝焼けを目の当たりにした私は口が開いたまま数秒間硬直していたが、ようやく思考が元に戻った。
「あ、そろそろみんなは起きたかな」
大岩をゆっくりと下に降ろして行き、無事に地面に足が付いた。
それから走ってキャンプに戻った。
やっぱり社畜時代より倍以上足が軽くなっていて、心から嬉しく思った。
生きるのが楽しいと、目で見る景色が美しいと心から思えたのだから。
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