第2-3頁 薄暗さと怖がりとキノコの化け物と


散策チームに選ばれた俺と結芽子は、南に広がる森林に足を踏み入れる。


 ・・・・・






「なぁ結芽子、この森薄暗くて苦手だ…早く帰ろうぜ…」




結芽子と共に森に入った俺。


静紅と六花がキャンプの準備をしてくれているので、こっちは何か食べられる物を探しにk多のだ。


友人とは言え、役割を任されたので絶対に果たさないといけない。いけないのだが…、この森怖いんだよーーー!!なに?たまに後ろで草むらが揺れるのマジでビビるからやめてくれ!


俺はびくびくしながらどんどん森の奥へ入っていく結芽子の肩を持って進行を止めた。




「うーん、そうやな。そろそろ暗くなってきたしな…結局大したもんは見つけられんかったし、この奥進んでもなんもなさそうや」




「そうだよな!だからもう帰ろうぜ!な、な!」




うーむ、と唸りを上げる結芽子をもう帰ろうと言わせるように俺は言い、彼女の手を取る。


マジでこの森から早く出たい!一刻でも!一秒でも!




「せやな、帰ろか。蜜柑ちゃんの心臓にも悪いし」




「ば、バカ!俺は怖がってねぇし?薄暗いのが嫌いってだけで怖がってはないからな!」




「はいはい、そんじゃ帰ろか」




ようやく帰る事になって喜んでいたら、後ろに謎の気配を感じて思わず振り返る。


俺の脚に抱きつくようにして引っ付いていたキノコ型の化け物が…。




『ぽぽー?』




「おぉ、可愛いキノコモンスターちゃん」




「ぎゃあああぁぁぁ!!で、出たァァ!!」




俺はぶんぶんと振りほどくようにしてキノコの化け物を蹴とばし、大声で叫んだ。






・・・・・






 あれから数時間は経ったと思う。しかし、空がオレンジ色に染まっても蜜柑と結芽子が帰ってくる気配はない。




「二人とも大丈夫でしょうか、ちょっとボク見てきます」




 深刻な顔をしていた六花が、とうとう口を開いた。


 立ち上がった六花の裾を掴み、私も立ち上がる。




「それなら私もいくよ」




 この広すぎる草原にカラスのような鳴き声が響くことで、更にタイムリミットの少なさを感じさせられる。




 まさか何も無いとは思うけど、もしなにかあったら大変だ。


 万が一という言葉があるように、やっぱり心配なものは心配なのである。




 私と六花は、蜜柑達が入っていった森に足早に入っていった。






 ・・・・・






 森の中は木々が生い茂り、陽の光すら届かない暗闇に包まれていた。昼に来たらもう少し明るかったのだろうか、今はほぼ夕方なので真っ暗だ。




「うわ、めっちゃ暗いじゃん…」




 目の前の暗闇に思わず私は足を止めた。


 たまにどこからか視線を感じるが、振り返る勇気は私には無い。




「どうします?引き返しますか?」




「うーん、蜜柑達が心配だし、進もう。」




 暗いけど、ここで引き返すわけには行かない…!


 私達は、ライターの微かな灯りを頼りに森の中へ進んでいった。








 結論から言うことにしよう。




 数分進んでも蜜柑達は見つからなかった。




「はぁ、はぁ…。居ないね…」




 息を切らしたのはどちらだっただろうか。いや、それすらもどうでもいい程本気で探していたことに変わりはない。


 慣れない景色と暗闇に二人とも少しずつ気力を削られてきた。


 足が筋肉痛で腫れ、喉が乾いてくる。




 その時、聞いた事のある鳴き声が聴こえてきた。




「ぽにょ」「ぽにょ」




 という鳴き声…昼のキノコタンだ。




「静紅さん!戦闘態勢を──」




 持ってきた木の棒を強く握りしめて六花が叫んだ。




「その必要は無いで」




 その六花の声を遮るように、今度も聞いたことのある声が聴こえてきた。


 森の奥からキノコタンを抱えて歩いてくる2つの人影。




「蜜柑、結芽子、無事だったんだ!」




 前の女性二人こそ、今まで探していた蜜柑と結芽子だ。




「うん、心配かけてごめんなぁ〜、」




「おぉ、静紅が俺を心配してたのか?どうなんだ〜?んんー?」




 こ、コイツ…!!蜜柑は一度殴った方が良いな。


 そう思いながら結芽子の腕の中にある物を見た。




「それ魔物だよ?大丈夫なの?」




 殺傷能力が比較的低いとは言え、この世界に来て間もないのにモンスターに殺されるなんてシャレにならない。


 しかし、結芽子の言葉は私の予想を裏切った。




「うん、この子は大丈夫やで。ほら、目見てみ?この大人しい子は目が可愛くて、凶暴な子は、目が真っ赤なんや。


 昔から、善のキノコタンと悪のキノコタンで戦争してきたらしい。せやから、悪い赤眼のキノコタンは倒して、こっちの善のキノコタンは倒さん方ががええんとちゃうかな?」




 そう言えばさっき私が倒したキノコタンは目が赤かった。


 罪なき生物を殺した訳では無いので、どちらにせよ殺して良かったという訳だ。




「そっか、それはそうとして…なんでそんなこと知ってるの?」




「それはだな…このキノコタンが教えてくれたんだぜ!」




 蜜柑が示したキノコタンは、結芽子の腕の中に居たキノコタンだった。




「これ、ですか…?


 名前は[クイーン・キノコタン]。


 その名の通り、キノコタン達の頂点に立つ存在で、他のキノコタンの集合体でもあるため、全ての善のキノコタン達とコンタクトを取ることができるらしいです。


 人間との関係を築くために、人の姿になって生活することもあるそうです。


 へえ〜、人の姿になるんですか!興味あります」




 つまり、結芽子の持っているキノコタンは、キノコタンの女王ということだ。




「ほら、クイーンさん!こいつらにあなたの姿を見せてやってください!」




「ほにゅ」




 クイーン・キノコタンが鳴き声と共に頷くと、キノコタンの周りに白い煙が出て、煙の中から少女がでてきた。




 薄いブラウンの髪に赤ベースの白い丸の模様が付いたベレー型の丸帽子。


 白のブラウスに赤白の大きめのスカート、


 身長は150程度で私よりもかなり低めだ。


 目の前の少女が上目遣い(こちらの方が背が長いので必然的に上目遣いになる)で言った。




「皆さんこんにちは!結芽子さんからご紹介頂いたルイス=クイーン・キノコタンです!善キノコタンの女王をしております。以後お見知りおきを!」




 その子が異世界で初めて会話した人物だった。

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