第2-2頁 彼女と食べる異世界ご飯
異世界に転移した静紅達は、二手に分かれてこの日を越そうと準備を始める。
「ふんっ…!アニメだったらここをこうして…こうすれば…ゔっ!」
テントの立て方など何も知らない私たちは、アニメで見た方法で立てているが、支柱が跳ね返って鼻に当たる。
テントをたてるグダグダ感は、私がキャンプ初心者ということの証明には十分すぎるほどだ。
それでも尚、一生懸命にテントを立てる人物が一人。
「静紅さん、多分ここをこうするんですよ」
六花だ。テントの立て方が分からないのにも関わらず、反対側の支柱を立て終わった六花が私にアドバイスをしてくれた。が、それでも分からない私を見た六花は再び口を開いた。
「変わりましょうか?」
その言葉に私はすぐに応答した。答えはもちろんYESだ。
「う、うん…」
自分の無力さを六花に見せてしまったことに悔しさを覚えながらも、テントの支柱をパスする
「はい。えーっと、ここをこうして、これをこの穴に通して、この棒を地面に刺したら…出来ました!」
「さっすが六花!」
親指を立てて六花を褒めるが、彼女はすぐに次の工程に取り掛かる。
「あとは小物を出しておきましょう。それに火も起こしておいた方がいいです。蜜柑さんと結芽子さんが帰ってきたら、すぐに何か食べれるように」
六花さんマジかっけぇ…。惚れそうだわ。惚れてるけど。
蜜柑と結芽子の散策チームは、前に見える森に何か食べれるものが無いか探しに行ってもらっている。無時に帰ってきてくれればいいのだけど…。
「そうだね!」
そう言って、小物袋に手を伸ばしたその時…
『ほにょ』
ほにょと言う聞いたこともない鳴き声のようなものが聞こえた。
「ん?ほにょってなんです…か…!?」
そこには、キノコの形をした謎の生物が居た。
ベニテングタケのような、赤と白丸の傘に、白の茎。
小さな手と、赤い目と口と足がある。
その身体からはとてつもないゆるさが漂ってきているが、見たことの無い生物に私は驚愕した。
「うわぁぁあああ!!キノコの化け物!」
「この生物は……[キノコタン]。
身長は低く、比較的殺傷能力の低い生物。牙や獲物を仕留める武器になるものは体の一部にはない。
って感じですね。それにしても…この薄っぺらい青い窓はなんなんでしょうか……」
わかりやすい説明&冷静な状況判断能力!すごい…。
六花の言う青い窓は私には見えないが、恐らく能力の環境観察術の効果だ。
「ぽぽー」
目の前のキノコ型モンスターは、ぴょんぴょんとジャンプしながら私の方に近づき、痛くもない突進をしてきている。私の脚にぶつかるのと同時に跳ね返されるキノコタン。
それは多分、攻撃のつもりなのだろう。
「か、可愛い!でも生きるためなの…。ごめんね!」
私は地面に落ちていた手頃な棒を取り、きゅっと握りしめる。片足を引いて、スイカ割りの容量で勢いよく振り下ろした!
「てっりゃー!!」
すぱあん!と、軽快な音が辺りに広がり、キノコタンはその場に倒れた。
「ぷにゃぁ!」
「やりましたね、静紅さん!今晩のおかずゲットです!」
私が目を開けると、キノコタンは気絶していた。
そこに六花が近ずいて行き、剥ぎ取り…傘と茎を分離させた。
思っていたよりグロテスクではなかった。植物だから血はないからね。
「ねぇ、ちょっと焼いて食べない?」
「だ、ダメですよ!これはみんなで食べます!」
「えぇー?こんなに大きいんだよ?それに、醤油かけて焼いたらお酒に合うと思うんだけどなぁ〜」
ニヤニヤと六花を見る私の顔は、多分悪徳商人のような顔だったのかもしれない。
「ごくり…。ちょ、ちょっとならバレないと思いますし、異世界の生物の味も興味があります」
口から垂れるヨダレを裾で拭き、こくりと頷いた。
そう言えばこの世界に来てから初めての食事だ。といってもそこまで時間はたっていないが。
「よし!決まりだね!それじゃ準備しようか!」
午後3時ぐらいの青空を背景に、私と六花はハイタッチをした。
私と六花は、結芽子に出してもらったキャンプ一式セットの1つ、[七輪]を麻袋から取りだし、火をつけた。火はライターがあるので、簡単に付いたが、それまでにも少々時間がかかってしまった。
そこへキノコタンの茎を割いたものを置いて、数分待つ。
「あの、静紅さん。醤油は?」
「あぁ、そうだったね!忘れてたよ〜」
私はここで大きな勘違いに気づいた。この世界に醤油はあるかもしれないが、今は持っていないのだ。それに、お酒も無い。
「醤油…ないわ…持ってないよ!」
「えぇ!?」
「だ、だってここは異世界って事忘れてて……」
キャンプ気分で、醤油ぐらいならコンビニで買えばいいと思っていた自分が馬鹿だった。
上目遣いで六花を見上げると、彼女の絶望した顔が目に入った。
「って事は…お酒も!」
私は黙ってうなずいた。
「お酒…ボクのお酒がぁ!」
六花がこんなに落ち込むの珍しいな。
気持ちを切り替えて、私は七輪の網に目をやり、キノコタンの様子を見た。
うん、美味しそうだ!
茎の隙間からだし汁の様なものが溢れ出していて、全体的にいい焦げ目が付いてきた。
「気を確かに…!えっと、ほら、食べ頃だよ!」
私は六花の口に、熱々のキノコタンを木の棒で運んだ。
「はふっ…ふっ…」
あまりの熱さに六花は、はふはふ言っている。はい可愛い。
この子のためなら命も捨てる…!!
「うん…。美味しいですよ!しいたけみたいな味がします!」
目をキラキラと光らせながら、キノコタンの感想を伝える六花を横目に、私も口に運ぶ。
「おぉ、それじゃ、私も…いただきまーす!」
熱々のキノコタンの切り身から溢れ出すだし汁が口いっぱいに広がり、旨み成分が滲み出ている!
うまい。誰がなんと言おうとこれは美味しい!
「これ美味しいーー!!」
頬を押さえて思わず叫んでしまったことを恥ながら、串を地面に置いた。
もうひとつ食べたいと思ったのは事実なのだが、これ以上焼いてしまうと蜜柑達に怒られそうなので止めておく。
その後私は一服ついて手を合わせて同時に言った。
「「ごちそうさまでした!」」
それから私達は、他のランプや机やらをテントの周りに置いて、蜜柑達の帰りを待つことにした。ただ彼女たちの無事を願って。
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