第2-1頁 微かな燈火器具と野宿道具
事故で死んだ社畜の私達は、異世界へ転移した。
蜜柑、六花、結芽子と私が織り成す異世界ドタバタ物語の開幕です!
「ほら、次の頁をめくるのよ!」
トラックに轢かれた社畜の私、水鶏口 静紅は暗い部屋に居た神様的存在に、能力という超能力を貰ってここ、異世界に転移した。
「はぁ、はぁ。きっつ…俺走ったの1ヵ月ぶりだわ」
「ほんまな…私、ずっと会社おったから歩いてすらないねん…」
俺と言う一人称のせいで、男らしいと思われがちの蜜柑だが、運動は本当に出来ない。
と言うか、私達4人全員運動が苦手なのだ。
六花が少し運動できるぐらいだけど、成人女性の平均運動値から見ればやはり下の方だ。
丘を駆け下りた結芽子と蜜柑は大汗をかいて疲れ果て、地べたに寝転がっている。
「ほんと、蜜柑さんと結芽子さんは昔から変わりませんね…」
私と一緒に歩いて丘を降りた六花が呆れたように蜜柑と結芽子に言った。
それに反論するように結芽子はバッと立ち上がり手で空を仰ぐ。
「えぇ〜?そんな事ないって!六花ちゃんが真面目すぎるだけやで」
「そうだそうだー!六花は真面目すぎるんだ。たまには息抜きも大事だぞ!」
「蜜柑さん、結芽子さん…異世界に来て頭が湧いてるんですね。可哀想に…ほら、立ってくださいー!こ、このっ、起きろー!」
「やだやだー!俺は動きたくねぇんだよー!」
六花が蜜柑の腕を引っ張るが蜜柑は必死に立ち上がるのを拒む。
そこに、物凄い風の音と共に巨大な影か何かが私達の頭の上を通り過ぎて行った。
私が空を見上げると、巨大な何かがいた。
巨体にびっしりと付いた青い鱗
薄くも丈夫な巨大な翼、
見るからに強靱な黒い爪、
頭に生えた二本の太い角、
そしてなによりも恐ろしい形をした牙。
こ、これは…この生物は…。
「ドラゴン…!?」
ソレが通った風で髪が乱れ、視界も悪くなってよく見えなかったがあれは紛れもなく、ドラゴンの形をしていた。
「どっひゃー、ありゃすげぇや…」
蜜柑は呆気を取られたのか、言葉があまり出てこないようだ。左の結芽子に関しては…。
「……」
ぷしゅぅ…と、頭から煙を出しながら気絶していた。
確かにあんなに大きな生物が上を通ったって思ったら恐ろしいと私も思う。掴まれて遠くに飛ばされたーってなったら大惨事だよ…。
「ちょっと…!結芽子!?」
私は結芽子の肩を揺らす。
それはもう、ブンブンと残像が出来るほど揺らした。
一秒程、全力で結芽子の身体を揺らすと気がついたのか、結芽子は飛び起きた。
「…はっ!危なかったぁ!川見えたわ、川やで!?三途の川!渡ったら死ぬやつ!」
三途の川ってガチのやつじゃん!でもまぁ、早く起こして良かった…。
「まー、ドラゴンのおかげでここが異世界って事は分かったな」
いつの間にか立ち上がっていた蜜柑が腰に手を当てながら、次のドラゴンが来ないか確認するように空を見上げながら言った。
「せやなぁ…しっかし、ホンマに異世界に来てもーたとはな」
ため息をつきながら結芽子は再び地面に寝転んだ。
六花はと言うと、メモ帳に筆を走らせて会話をする暇もなさそうだ。
日記とか書いてるのかな?後で見せてもらおっと。
「あ、そう言えば…」
私は自分の着ている服を見て言った。
「この服って前世で着てた物だよね?それに、蜜柑のメガネも六花のメモ帳も。って事は…」
私の推測からすると、事故当時身につけていた服装のまま転移したのだとするとポケットの中にある物が入っているはずだ。
カバンなどは消えていたので、スマホは持ち合わせていないが、それよりも重要なものを私は持っている。
右のポケットに手を突っ込み、その感触を確かめたあと、勢いよくポケットの外に出した。
「あった!持ち運び用ライター!」
「おぉーー!って、なんでそんなもんあるんだよ!静紅、タバコ吸わないだろ?」
「これは…お父さんの形見だから…」
「そうか…」
あ、お父さんは今でも元気に暮らしてます。
大事そうに私はライターを両手で握った後、くるりと方向転換をして結芽子に指を指した。
「それに…結芽子」
「私!?な、なんや?」
「神様から貰った能力はなんだった?」
私はポケットにライターを一度しまいながら、結芽子に質問した。
「えっと、確か…物質収納術やで!今持ってるのは、キャンプ道具一式やな」
キャンプ道具は恐らく、この世界に来た記念品か何かで貰ったのだろう。
「キャンプ道具一式か…。と言うことは今日は野宿の覚悟をしてた方が良さそうだね。近くに街は無さそうだからどこかに泊めてもらうってのも無理だし…」
アニメやゲームで培ってきた知識は、この世界で通用するかは分からないが、ホテル的な宿屋はさすがにあるだろう。
「えぇ、野宿かよー。俺は嫌だぞー!」
「へぇ〜?良いんだ。ここは異世界だよ?方角も分からないし、あのドラゴンみたいな日本には居なかった怖い生物も住んでるかもしれないんだよ?」
そんな言葉に、蜜柑は顔を青ざめながら警戒したポーズをとり、口を開いた。
「なっ…!こ、怖いこと言うなよ!静紅ぅ…」
意外と怖がりの蜜柑には、この手の話をするとだいたい言うことを聞いてくれる。
ちょろいと言えばちょろいか。いや、ちょろすぎるか。
それから私達は周囲を散策するチームと、野宿の準備をするチームに分かれることになった。
散策チームが蜜柑と結芽子、準備チームが私と六花だ。
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