第1-2頁 四人仲良く異世界とか…
・・・・・
この息を吐くと白くなっていく様子は冬の風物詩といってもいいと思う。
確か、息が寒さで凍って見えるようになるんだっけ…?よく分からんが、冬と言えばこの現象だな。
整備された広い道路の横にある歩行者用道路に一人で歩くのはいつものことで、それは今日のような超寒い日も例外ではない。
道路脇にはまだ溶けていない雪が集められていて、街ゆく人は深くマフラーを羽織っている。
「はぁ、アニメ見れなかったけど星が綺麗だなぁ…」
その年の大晦日の夜に見上げる夜空は星が輝くように綺麗だった。
そこへ、慌てたような大きい声でおじさんの声が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっと!お嬢ちゃん、危ないよ!!」
おそらく会社上がりのサラリーマンが、私の足を止めるべく大声で叫んだがその時にはもう遅い。
その時、私の頭の中に[0.5]と表記された四角い箱のようなものが現れた。
0.47…0.45…
ゆっくり減っていく、箱に映し出された、血の色にも似た赤い数字。
小数点以下なのに数が減るのがバカ遅い、普通0.5秒ならすぐに0になってもおかしくなんだけど…。そもそもタイマーなのか?これ。
血色の文字のタイマーに夢中になっている私は、前から来る大型トラックに気付かない。
0.38…0.31…
ゆっくり、ゆっくりと時間とともに減っていく数字。
そして私は周りの状況が気になったので目を開き見渡す。
っ!?何これ!?
鞄を投げ捨ててまで私に近づいてくるサラリーマンのおじさんや思わず口に手を当てて悲鳴を上げようとしている女性。
そして、歩いていく私の進行方向の右から飛び出したトラック。
そのすべてが…私の意識以外のあらゆるものの動きがスローモーションのようにゆっくりになっている。
私の意識以外と言ったのは、今の私の意識と別に、私はゆっくりとその歩みを進めているからだ。だから私の意識以外の動きが遅くなっているという言い方はあながち間違いではないはず。
というか、右からゆっくり走ってくるトラックがあるのだから、早く止まった方がいいよね。
そう思い、21年間生きてきた間で何度も使ったであろう足のブレーキを…
と、止まらない!?
意識とは別に、ゆっくりと進む私の体。
その動きを止めるにももちろん時間がかかる。このままだと間違いなくトラックに激突して、そのあとの私に待ち受けるのはほかでもない、
──死。
0.27…0.14…
そんな私を置いてみるみる減っていく紅色の数字。
先ほどまでは遅いと感じていたタイマーは、突然早くなったように感じた。
い、嫌…私まだ死にたくない!
そう思っても、私とトラックの距離は縮まっていくばかり。
0,5…0,01…
あっ…!
[0.00]血色の数字が0になったとき、金属音のようなアラームが脳内に響いた。
ピピピピピ…!!
そして、何かと何かがぶつかったような重低音の効いた轟音が深夜の都会の真ん中に響いた。
・・・・・
身体の感覚が無い…意識も飛び飛びでしか保ててない…なんかずーっと下にゆっくり落ちてってる感じ。死んだのかな私。
もちろん体の感覚が無いので、声も出せなかった。
約10回の気絶を繰り返し、考えながら数分間、下にぷかぷか降りていくと、やがて明かりのついた部屋のような空間に辿り着いた。ここでようやく身体の感覚が戻ってくる。
私はそっと着地体制をとり…無事に着地したと思うと、上からどさどさと何かが降ってきた。
「い、一体何が起きてんだ…?あれ?静紅じゃんか!」
「なんや、蜜柑ちゃんも静紅ちゃんもお揃いやんか!」
「いやぁ、階段からつまづいて頭ぶつけたらこんな所に居てびっくりしましたよ」
そう、上から降ってきたのは同僚の面子だ。
それにしてもここはどこなの?私は確かトラックにはねられて……。
というか、こいつらとてつもなく重たい。ダイエットしとけよなぁ!
「ちょっとちょっと、あとがつっかえてるんだから急いでもらえない?」
立派な椅子に座りながら、いかにも偉そうに言って来たのは桃色の髪の女の人だ。多分30歳程度だろう。知らんけど。
初対面で偉そうな彼女に少しの不快感を覚えつつ、できるだけ丁寧な口調で聞いた。
「あの、ここはどこなんですか?」
その私の声に反応し、女性は椅子から立ち上がる。
「今から説明するわ、こほんっ
ようこそ天界へ。あなた達は死にました」
目の前の人物は、それはそれは満面の笑みでおっしゃった。
って、おいおいおい!この人今とんでもないことさらっと言ったぞ…し、死んだ!?冗談じゃ…ないよね。
でもまぁ、あんな大きなトラックに跳ねられたら死ぬか。覚悟は出来てますよ…。せめて社畜として最期を迎えた私に祝福でも送ってくださいな。
私は死を実感して、諦めたように肩を下ろす。
女性は二本の指を立てて私達に諭す。
「死んだあなた達に今後の人生を与えるのが私の仕事です。どうしますか?このまま何も無い天国に行きますか?記憶を消して新しい生命として再び人生をやり直すか──」
うーん、天国に行ってみたい気はするが何も無いんじゃ絶対暇になるだろうしなぁ。
かと言って記憶なくして新しい生命って言うのもなぁ…。
女性は隠していたようにもう一本の指を立てて、にこっと笑う。
「それと…、魔法や不思議な生物が生息する異世界に転移するか。の3つの選択肢があります」
選択肢は3つ。
・天国へ行く
・新しい生命として再び生活する
・異世界転移
この3つで1番楽しめそうなのは決まってる!
「「「異世界転移でお願いします!」」」
私以外の3人も同時に声を出した。
みんなアニメ好きだもんなぁ、そりゃ異世界だよな!
私達の声に再びニヤリと笑みを浮かべた桃髪の女性は、椅子から立ち上がり、指をパチンと鳴らした。
「分かりました。では、仕事で疲れた身体を異世界で癒してきて下さい。あ、あと私から一人一つ贈り物をしておきます。
静紅さんは物体操作術
蜜柑さんは食物鮮度操作術
結芽子さんは物質収納術
六花さんは環境観察術
皆さんにはこれらの能力を持った状態で転移してもらいます。
能力というのは、異世界で誰もが持っている特殊能力と考えてください。例外として魔物も持っている場合もありますけどね」
あー、異世界物でよくある転生特典的なアレか?まさか私の能力って異世界では凄かったりして…!
能力と異世界という単語に胸を躍らせながら、私は自分の手のひらを見る。
「それではいってらっしゃい。良い夢みてね」
目の前に大きなドアが現れて、扉が開いた。そのまま真っ白の光に包まれて、扉の向こうへ吸い込まれて行った……。
父さん…母さん…。
ちょっと異世界行ってくるよ!親孝行出来なかったけどごめんね!
・・・・・
先程の光で目がチカチカしたのも忘れて、すぐに私は目を開けた。
この肌を撫でるような感触…これは、田舎特有の心地の良いそよ風の感触!
目の前には金色の小麦畑が広がっていて、そよ風に揺らされている様子は、なんとも美しい。
もちろん空は晴天で雲ひとつない。
私たちが立っている丘から見える景色は、写真に収めたいほどだ。カメラ無いけど。
「ひろーい!ひゃっほーい!」
「ちょっと〜!待たんかいなーー!あははー!」
蜜柑と結芽子が急な坂道をキャッキャキャッキャと駆け下りていった。
大晦日に働くような社畜だったからもあり、都会で見れなかった山とか畑が見れてテンションが上がっているようだ。
「さ、ボク達も行きましょうか。」
「そうだね」
今思えばここから、私の物語は始まったのだ。
【冴えない社畜の私ですが、異世界へ行けば誰かの役には立てるはず!】
筆 秋風 紅葉
第五期大型修正期の影響で、第一話部分を二つに分けました!
とくにあとがきはないですね~
良ければブックマーク、評価、感想お待ちしてます(笑)
でわでわ〜!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます