第1章 第六次キノコタン大戦に参加した

第1-1頁 幼馴染が会社の同僚って変ですか?

気がつくと、空の上にいた。正確に言えば雲の上にいるの方が正しい。


 夜とも昼とも言えない黄昏色の空をラピスラズリのような青い瞳いっぱいに感じ、ただただゆっくりと下へ落ちていく感覚と風を両手に感じて、空を飛んでいた。

 天使のように翼が生えたと錯覚し、目の前の幻想的な景色に私は息を飲む。


 このまま…このまま、純白の翼を背中から生やして、この美しい世界を悠々と飛んでいたい。


 そう心から願った。

 自分がどうしてこんなところにいるのか、ここでなにをしていたのか見当もつかない。


 遥か上空に飛んでいる飛行船のプロペラ音が胸の奥に直接振動を与えてくる。

 風がごぉっと耳をなぞり、ウェディングドレスにも似た純白の服が落下による風でパタパタと震えていた。


 数秒前までは。


「おーい!起きろー!」


 私の耳、あるいは頭に飛び込んできたのは聞き覚えのある、女性の声。


 その声によってこの世界が私の夢の中だと気が付くのに、あまり時間を必要としなかった。


 その途端、私の視界は暗闇に包まれ、私の意識は現実世界へと戻っていった。



 ・・・・・



 目を覚まして、一番に飛び込んできたのは見慣れた天井だった。

 本来の位置から寝ている間に大きくずれたアイマスクを取り、両腕を高く上げてぐぐっと背伸びをする。


 身体が重い…それに喉も乾いてる…うぅ、気持ち悪い…飲みすぎた。


 倒された背もたれをレバーで元に戻し、起き上がる。


 そこには、長時間座っても出来るだけ痛くならないようになっているゲーミングチェア、

 今や親の顔より見ている時間が長いモニター、

 そのモニターが乗っているデスクには提出する書類達が高く積まれている。

 デスクの下には、コンビニ弁当などのゴミが溜まったゴミ箱。

 頭の上の棚に飾られたお気に入りのアニメキャラクターのフィギュア達。

 目の前のデスクの横には同じようなデスクが6平方メートル程の小さめの部署にいくつも設置されている。


 どこか濁ったような青い色をした目に、ピンクのショートヘアー。

 服は過ごしやすくは無いが、とても寒いのでジャンパーを着ている。

 身長は低くも高くもない、なんの特徴も無い容姿のこの女が、私…水鶏口 静紅である。

 これでもまだ若い21歳で、中学生とよく間違えられる。

 身長は普通くらい…だよね?やはり顔立ちのせいなのだろうか。


「ん……んんん…」


 声を出そうとしたが、上手く出ない。喉が酷く乾いているからと考えた私は、急いでペットボトル容器に入った緑茶を飲み干す。

 そんな私を見ていた隣に居る女性は、肘で私の背中を小突いた。


「やっと起きたなこんにゃろ〜。さ、帰るぞ静紅」


 寝起きの私をわざわざ振り向かせたのは、

 私よりも少しだけ背の高い紫髪のツインテールの女性。メガネをつけているので秘書感があるが、こう見えてこの会社の社長である。

 彼女の名前は月見里 蜜柑。高校生からの幼馴染だ。


「まさか、寝落ちしちゃってた?」


「そうだぞ静紅。お前は忘年会の途中で寝落ちしたんだ!」


 どうやらお酒で酔った記憶でよく覚えていないが、丁寧にアイマスクまで付けて眠ってしまったらしい。


 大晦日の夜にまで働かせておいて、残業代を払わない目の前の社長にはうんざりしている…が、社長と言っても、同級生で同じ高校を出て同じ会社に務めている。

 そして社長だけでなく、ここで働いている社員は、私と同じタイミングで中学校、高校に入学し、同じ卒業式で高校を出ている。

 ちなみにこの会社に働いている社員は4人。

 超小規模会社なのだ。

 その割には仕事は馬鹿みたいに多く、手が回らないのが目を背けてはいけない現状だ。


 メガネがチャームポイントである社長の蜜柑が、ため息をつきながら言った。


「はぁ…せっかく会社で忘年会するぞーって楽しみにしてたのに」


「いやぁ、それはごめんって。そもそも大晦日に出社する会社自体、社会的にアウトなんだよ…?多分」


 私はもう少し会社勤めを楽にするように、社長に意見を持ち掛けたが、社長は目を逸らし、もう1人の社員に助けを求めた。


「あかんよー、蜜柑ちゃん。いくら私に助け求めても、私は蜜柑ちゃんを助けることは出来ひんし、助けよーとも思わんわ」


 独特のイントネーションと語尾の伸ばしがついた関西弁の彼女は、私の同期である

 西宮 結芽子。薄い茶色の髪が特徴の女の子だ。

 決して特徴が少ない訳じゃないけど、なんと言って説明すればいいのか分からない。


「えぇーー、やっぱ働きすぎは良くないんかねぇ。って!助ける気がないとか酷すぎねぇ!?」


 結芽子は、蜜柑の突っ込みにちらっと舌を出して無言で反応した。

「じゃなくて」と前に言葉を置き、私は蜜柑に大声で言った。


「普通だったら大晦日に働かないってば!」


「そうです!大晦日に働いて、会社で年を越すなんて…そんな酷いことあっては行けませんよ!働き方改革さんはいったい何やってるんですか…」


 こちらは私の同期かつ幼稚園からの幼馴染…各務原 六花。

 この中で1番仕事が出来て、一応他会社の男性からモテている。

 なお、現在独身21歳。

 青髪のアホ毛の少女で、私の好きな人だ。

 私の六花に対する好きは、友達としてとかじゃなくて…その、恋愛対象としてのソレだ。

 どこかおっちょこちょいでたまに抜けている。そんな彼女が小さな時から大好きだ。


「あのね六花…働き方改革は人でも組織の名前でもないんだよ?」


「え?」


 社畜も大変なんだよなぁ。あー、眠い。動きたくないし働きたくねー!

 世の中にはもっと大変な人もいると思うが、これが私にとっての社畜なのだ。

 私は、何気なくモニターに表示されたデジタル時計を見て驚愕した。


 デジタル表記で示されたは午前二時を指していたのである。


「うわぁぁー!大晦日アニメ特番見過ごしたぁーー!」


 私の悲鳴が狭めのオフィス中に響き渡った。


 現在私は、

 同級生の幼なじみであり、同期でもある

 社長の 月見里 蜜柑

 同期の西宮 結芽子

 同期の各務原 六花

 そして私、水鶏口 静紅の4人で蜜柑が運営している会社に勤務している。

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