総集編 1〜100頁までの軌跡その1

【注意】

 この回は総集編です。

 1〜100話までの内容をまとめましたが、それでも10分の1も伝えてません!

 もっと伝えたいことがあるのに文字数がっ…!

 というわけで、総集編の後に気になった部分だけでも本編を読んで頂けると幸いです!


──────────────────



 仕事、仕事、仕事の毎日。

 労働基準法なんて気にしない。

 会社に寝袋を持っていき、家に帰れるのは週3日。

 エナジードリンク片手にモニターを日夜凝視する。


 そんな日々を過ごしていた。


「おーい静紅。起きろ〜」


「ん…んにゃ、あれ?寝ちゃってた?」


 成人後一回目の忘年会を睡眠で終えたこの女性の名前は[水鶏口 静紅]。ショートヘアの桃髪に蒼い瞳が特徴の21歳。


 現在、勤めている会社の従業員は静紅を除いて3人。


 紫髪ツインテールと眼鏡を付け、一人称が俺の女性[月見里 蜜柑]。

 茶髪に独特なイントネーションの関西弁の女性[西宮 結芽子]。

 青髪ボーイッシュにアホ毛が刺さったボクっ娘の[各務原 六花]。


 全員同い歳で、六花は小学生、蜜柑と結芽子は高校生からの同級生でもある。


 静紅は会社を出て家に向かう途中で、星を見ながら歩いているとトラックに轢かれて死にました。



 ・・・・・



『第一章 第6次キノコタン大戦に参加した』



 神様から各々、異世界の特殊能力的な立ち位置の[能力]という力を貰い、微風の気持ち良い草原に異世界転移した。


 静紅は物を浮かす能力、

 六花は対象の情報が見れる能力、

 蜜柑は食べ物の鮮度を操作できる能力、

 結芽子は物体を体内に収納できる能力だ。


 異世界転移を無事果たした静紅達だが、周りには人が住んでいそうな村や街は無く、前方には大森林。後方には地平線の向こうまで草原が広がっている。

 結芽子の中に[キャンプ道具一式セット]が入っていることを知った静紅は、今夜は野宿することに決定。

 異世界生活初日から野宿になる事に蜜柑は駄々を捏ねたが、恐ろしい魔物が居るやもしれない。と脅すとビビりの彼女はすんなりと準備に取り掛かった。


 さてさて、野宿の準備をすることになった静紅達は2つの班に分かれて行動を始めた。

[野宿準備班]と[食料調達兼周囲探索班]だ。


 途中手こずった所もあったが、とりあえず日が沈む前にテントを設置できた静紅と六花は蜜柑達の帰りを待った。


 空が黄昏に染まり、黒鳥が夕陽に向かって飛んでいく程の時間になっても、蜜柑達は帰ってこない。

 心配になってきた静紅達は、蜜柑の向かった大森林に足を踏み入れた。

 ライターのほのかな灯りを頼りに陽の届かない森を進んでいると、1匹の魔物と遭遇。


「あれは…[キノコタン]ですね」


 六花の言葉から、このベニテングタケに足と極小さな手が生えたような魔物はキノコタンと言うらしい。

「ぽぽー」という可愛らしい鳴き声を発するが、魔物は魔物。危険に感じた六花は手頃な棒を振りかざそうとしたその時。


「その必要はないで!」


 関西弁で六花の動きを止めた女性は、蜜柑と行動した結芽子。もちろん蜜柑も一緒だ。

 腕にはキノコタンが抱えられており、なんとそのキノコタンは、特別な存在らしい。

 突然、キノコタンが結芽子から飛び出て、くるりと一回転する。

 白い煙の中から出てきたのは静紅と六花を驚かせる物だった。


 クリーム色の髪にキノコ柄のベレー帽、キノコの傘のようなスカートを履いた身長低めの少女はぺこっとお辞儀をしてこういうのだ。


「初めまして。キノコタンの女王をしています[ルイス・キノコタン=クイーン]と申します。以後お見知り置きを!」



 ・・・・・



 ルイスの話を聞くに、キノコタンは二つの軍に分かれているようだ。

 目が黒く、色鮮やかな[善キノコタン]

 目が赤く、色が暗めの[悪キノコタン]

 この二つに分かれていて、お互いに敵対状態らしい。


 今いる大森林の名前は【キノコタンの森】。この森の中には善キノコタン領地と悪キノコタン領地がある。


 そして今日、六回目の善悪の争い[第6次キノコタン大戦]が開戦される。


 早朝に目覚めた静紅は朝の散歩に出かけた。

 出くわした狼型魔物との戦闘を終え、休憩していると一人の少女に話しかけられた。


 見た目はルイスに似ているが、全体的に色が暗く、目が赤い。


「ん名前か?私の名前は

[ルイス・キノコタン=ファールクイーン]。

 悪キノコタンの女王をしている者だ」


 背中に弓を装備したルイスそっくりの少女がそこには居た。


 ファールクイーンのことを呼びやすくするために静紅は[ファールルイス]と呼び、彼女に【悪キノコタン領地】へ案内してもらうことになった。



 ・・・・・



 ファールルイスと別れた後、静紅は善キノコタン領地へ戻った。


 幼馴染の心配の声を聴いて軽く謝っていると領地の警鐘が甲高く辺りに鳴り響いた。


 カンカンカンカンッ!


 敵の襲撃を知らせる警鐘。襲撃してきたのはもちろん悪キノコタンたち。


 ルイスを含めた善キノコタン陣営は戦闘準備を取るが、静紅だけは戦う気にはなれなかった。

 短い時間だったが、悪キノコタン領地で出会った友達と戦うのは間違っていると抗議したところ、[こちらから戦うことをやめ、相手に襲撃されても反撃はしない]ということに。


 静紅の異変に気が付いた蜜柑は悪キノコタン軍に戦争の取りやめを頼んでくると一人で森の奥へ走って行ってしまった。



 ・・・・・



 ほぼ無計画で走っていった蜜柑だが、意外にすんなりと受け入れてもらった。言うことを5つ何でも聞くという条件付きだ。


 ファールルイスと善キノコタンへ歩いていき、無事に友人と合流できたところでルイスの家に集合することに。



 ・・・・・



 転移後、すぐにキノコタン大戦に巻き込まれてしまった静紅達だったが、ルイスの家で無事に平和条約改め、

[キノコタンの森内平和条約および人権尊重条約]は結ばれた。

 なんと戦争の原因はお菓子の取り合い!

 呆気を取られた静紅達は思わずため息を漏らしてしまう程だ。


 喧嘩や戦争をせず、善悪の境界線を無くして協力して発展をしようというこの条約。

 全て蜜柑のアイデアで、さすが元社長と言うべきだ。


 蜜柑の革命はこれだけでは無い。

 ふたつの領地を結ぶ街道の建設、

 善キノコタン領地を農業。悪キノコタンを金工業で役割を分けたり、

 あとはキノコタン達に班を作らせた。

 その他たくさんの革命をもたらした蜜柑はこれからも発展させていくらしい。



 転移してから3週間。

 いつもの毎日を送っていた静紅達だったが、事態は急変する。


「静紅さん、六花さん」「王がお呼びだ」


 ルイスとファールルイスが紙に書いた文字を読み上げた。

 王様に呼ばれたのは水鶏口 静紅と各務原 六花のみ。


 静紅と六花は王都へ向かい、蜜柑と結芽子はキノコタンの森に残ることに。


「何だか忙しくなりそうだね…」


 遠出の準備を終えた静紅はリュックをそっと背負った。



 ・・・・・



『第二章 いざ王都へ!』



 王様に呼び出された静紅と六花は、荷物を詰めたリュックに背負ってキノコタンの森を出た。

 転移後初めての森の外の風景は驚くものばかりだった。

 地平線の向こうまで続く雄大な草原、馬鹿みたいに大きな翼鳥、そして無限とも思わせる[国道・南東道]。


 この国には国道というものがあり、8方位全てに伸びている。

 王都を中心に南東に伸びたのが、[国道・南東道]だ。


 途中竜車に乗った少女と出会い、王都への距離を知らされる。


「よ、400キロメートルぅ!?」


 東京から大阪程の距離を徒歩で歩こうとしていた静紅と六花。もちろん竜車の少女にも小馬鹿にされたが、今更引き返すわけには行かず、『後で王都近郊へ送っていく』という約束付きで少女と別れた。


 途中、盗賊団の襲撃に会ったものの、特に苦戦せずに危機を脱する。


 六花がフラグを立てたせいで巨大魔物(ハイモンスター)と呼ばれる分類の[ステップ・センチピーサー]という超巨大なムカデに襲われた。


 地面を泳ぐように進み、静紅達を飲み込もうとした時、


「お姉ちゃん達!無事〜!?」


 竜車の少女が間一髪で静紅と六花を竜車に乗せて、そのまま戦場を後にした。


 旅1日目から散々な目にあったが、これだけでは無い。


 夕陽が差し込んでくると運転は無理なのでもちろん宿屋に泊まる。

 最寄りの農村にある宿屋で1泊した。

 竜車の少女の名前は[ナーシャ・サンタローブ]。竜車での配達業を生業する金髪の少女だ。


 農村での朝を迎えると突然、豚型魔物の[ステップ・ボア]が静紅達の前に立ちはだかった。

 もちろん村の中に魔物が入り込んでくるなんてイレギュラーな事で、悲鳴を聞いていると1箇所の襲撃ではないようだ。

 村の中が混沌とする中、着々とボアを倒していく静紅と六花だったが、とある異変に気づく。


「六花…その眼…どうしたの?」


 六花の目が黄色く輝いていたのだ。

 六花本人も視界に異変を感じたようで、襲撃してきた魔物の位置がはっきりと手に取るように分かるらしい。


 一際飛び抜けた強さの個体を見つけ、それが親玉と察した2人は雑木林を抜けて稲作跡地広場に出た。


 足場が枯れた稲の中、数メートル先にいたのはボアのふた周りほど大きな[ボア=ロード]。

 攻撃力、俊敏さも桁違いなボア=ロードに戸惑っていると、六花の頭にとあるイメージが送られた。

 それは六花が考えた物ではなく、まるで誰かに植え付けられたような違和感のある物だった。



 ・・・・・



 静紅達とは遠く離れたどこかの花園で、水晶に映し出された六花を見て楽しむ女性が2人。

 水色の髪の毛の少女が手に取ったのは金色の杖。怪しい会話文の後、杖の先が光って、水晶に移る六花に異変が起き始めたのだった。



 ・・・・・



 一瞬の痛みを感じたが、気がついた時にはもうどこも悪い所は無かった。

 ボア=ロードの攻撃を交わしつつ、頭に流れ込んできたイメージを強く確認する。


「電磁砲…?」


 とにかく生きるのが大切と踏んだ六花は電磁砲の準備に取り掛かった。

 ある程度距離を取り、両足を開いて肩の力を抜く。肺いっぱいに空気を吸って指鉄砲のポーズをとれば準備は完了だ。


「電磁砲っ!」


 六花の指先から半径3メートルの円柱状の光筋が生み出され、地面を消し、そしてボア=ロードも消し去った。

 地面には溶けた岩が真っ赤になって残り、草は黒焦げで死んでいた。


 まるで別人のような表情の六花に静紅は恐る恐る一言。


「六花…?」


「はい?ボクは大丈夫です!さぁ…はやく…戻りま…しょ」


 電磁砲の強さは凄まじい。それは体力の消費も同じ。電磁砲を撃った六花は地面に倒れてしまった。

 その六花の左腕は袖が裂け、血が滲んで少し焦げていた。


 ナーシャもボアと激戦を繰り広げたのか、魔力切れで地面に倒れていた所を静紅が安全な場所に運んだ。



 ・・・・・



 ボアの脅威はいつの間にか去り、怪我が完治するのに時間は掛からなかった。

 体力を回復した静紅はナーシャに乗って再び王都近郊を目指して移動を始めた。


 農村で貰った白いマントを六花は身に着けて、竜車内で暇を持て余した。



 ・・・・・



 1週間ほど竜車生活を続け、到着したのは王都に最も近い街。

 中世を思わせるレンガ造りの建物に目を輝かせていた静紅と六花は、ルイスから貰った硬貨で一通りの買い物を済ませ、王都へ歩きだした。


 ナーシャとはここで別れたが、いつか会えることを信じて歩みを進める。


 王都近郊ということもあり、徒歩でもそこまで時間は掛からない。


 高い壁に囲われ、城下町まで街並みの美しい遠くに見える街こそが【王都バリシュメロ】らしい。


 3回にも及ぶ持ち物検査の末、ようやく都内に入れた静紅と六花。

 半巨人族や猫獣人達に目を奪われつつも、とうとう王都に到着した喜びを噛み締めた。


「着いたー!!」


 ここがこの国【ヴァイシュ・ガーデン】の中心にある王都【バリシュメロ】だ。



 ・・・・・



 その日は宿屋に泊まって夜を越し、次の日は王都の大通りと呼ばれる巨大な一本道を歩くことにした。


 宿屋に居たコックの少年のことを思い出しながら歩いていると、突然誰かに話しかけられた。


「──君達、王邸に行きたいのかい?」


 緑色のツヤのある髪に軍師服のような格好、肌色は驚くほど綺麗な長身の女性だ。


 この王都に一際目立つ建物がある。それが王邸だ。

 名前の通り王様が住んでいる屋敷なのだろう。


 訳の分からないまま緑髪の女性に手を引かれ、最終目的地であった王邸に到着した静紅と六花。

 その豪華さに目を奪われそうになるが、頭を振って何とか耐えながら王邸の中を進む。


 やがて着いたのは[会議室]。

 社長室の雰囲気の漂う部屋だが、蜜柑なら緊張もしないなと鼻で笑いつつも席についた。


「率直に言おう。私の名前は[イズミ・サユリ]。この国ヴァイシュ・ガーデンの王を務めているものだ」


「ええぇ!?お、王様なんですか!?」


 六花は飛び起きて驚いたが、静紅はだいたい察しはついていた。

 更にサユリは言葉を続ける。

 サユリは紙を取り出し、胸ポケットのペンでそこにとある文字を書いた。

 六花は能力で大丈夫だが、静紅にはこの世界の文字は読めない。

 しかし、サユリの書いた文字は自然と読めたのだ。


 ──伊豆海 紗友里。


 21年間何気なく見てきた漢字にこれ程心が動かされるとは誰も思わなかっただろう。

 ペンを走らせたサユリは、にこっとクールに笑みを浮かべて静紅と握手をした。


「私は日本出身の女子高校生だ。今は24歳だがな。静紅もそうなんだろう?名前で分かるよ」


 急な展開に静紅と六花は紅茶を前にして口が閉じなかった。



 ・・・・・



 それから部屋を移動し茶会室。

 紗友里とこの世界についての情報を交換していると、2人の少女…いや、幼女が扉を叩いた。


「紗友里様、大変なの大変なの!」

「…紗友里様、大変…早急に対応を」


 元気いっぱいな銀髪ショートの方がルカ。

 控えめな銀髪ショートの方がルナ。

 双子ということで見分けが全くつかないが、ひと目でわかる部分がある。

 ルカがトパーズのような瞳で、

 ルナがエメラルドのような瞳だ。

 身長にも多少の差はあるが、見てわかる程の差では無い。


 ルカとルナという可愛らしい双子に少しドキドキした静紅と六花だったが、2人の持っていた紙の内容をみて一気に顔を青ざめた。


「紗友里様…ルナが外を見ていたら、キノコタンの森から……とある信号が撃たれた」


「もう!ルナは話すのが遅いの!そのくせ早く治そうね。

 あのね紗友里様、ルナがキノコタンの森から信号を受け取ったの」


「姉さん…それはさっき言っ…」


「分かった分かった。とにかく落ち着いて」


 非常事態なのか、ルカとルナに落ち着きがない。それを紗友里がセーブして、2人は深呼吸する。


「紗友里様…キノコタンの森から」

「・・・ーーー・・・の信号なの」



 ・・・ーーー・・・。

 学生時代、クラスでモールス信号が一時期流行っていたので読み方はだいたい分かる静紅と六花はそれを聞いて直ぐに何を言いたいのか、どんな信号を受け取ったのか分かった。


 ・・・で「S」

 ーーーで「O」

 ・・・で「S」


 そう。キノコタンの森からSOSの信号がはるか遠くの王都に届いたのだ。


 誤発なんてあのルイスがする訳ない。

 キノコタンの森には幼馴染の蜜柑と結芽子もいる。


「静紅、六花。急いで王邸の玄関に集合だ」


 神妙な表情の紗友里を見たことで更に事態の深刻さが知らされる。


 静紅と六花は再びリュックを背負って茶会室を出た。



 ・・・・・



 第三章 雪原の戦い



 王邸の玄関を抜け、庭に出るとそこには数人の騎士たちがいた。

 この人達は[王都近衛騎士団]という騎士団で、元は龍討伐のために結成されたが、今では王に1番近くの近衛隊としても活躍している。


 ルカとルナもその一員で、騎士団用の二足歩行竜を飼っていた。

 静紅はルカ、六花はルナの竜に乗せてもらってキノコタンの森へ向かうことにした。


 2度目の国道・南東道はやっぱり暇だったが、二足歩行竜は竜車用に比べればスピードが格段に速い。

 ルカの予想だと3日ほどで到着するんだとか。



 ・・・・・



 その日の夜、テントで野宿をすることになった静紅と六花は、焚き火を眺めながら毛布にくるまって話していた。

 王都近衛騎士団についてだ。本当に凄いのか、ついてきて大丈夫だったのか。


「なら、戦ってみるかい?」


 後ろから紗友里に話しかけて、驚いたものの、六花はその言葉に頷いた。


 というわけで、六花VS王都近衛騎士の模擬戦が開始された。


 1回戦目はニンナという白魔道士風の女性と戦闘になった六花。

 慣れない魔法に惑わされつつも、幼馴染内ではトップの運動神経で回避&横蹴りを続ける。

 その時、突然六花の視界に文字が現れた。


『対象はあなたの21倍の戦力です』


 急に無謀さを知らされた六花は開いた口が塞がらなかった。



 ・・・・・



 六花が目を開けると、そこには雄大な敷地の暖かい花園があった。

 そこの中心には休憩スペースのような場所があり、とある4人の女性がいた。


 角の生えた常に眠そうな女性[インソムニア]


 もこもこフードのうさぎ耳の付いた少女[キュリオス]


 水色髪の両眼別色の少女[ルースリィス]


 桃色髪の強め口調の女性[ペルソナリテ]


 彼女らは、自らを【成れの果て】。そう名乗った。


「ようこそ茶会へ。歓迎するわ」


「……ッ!」


 息を飲むほどの緊張感に包まれた六花は、会話の主導権を奪われて訳の分からないまま謎の契約を結ばれる。


「あなたは大切な試験体(モルモット)よ。その事をしっかりと受け止めて──」


「ちょっと!待っ…」


 席を立ち上がる女性を呼び止めようとしたが六花は再び気を失ってしまった。



 ・・・・・



[権限・ルースリィス、ペルソナリテ]


 目をもう一度開くと、模擬戦会場だった。しかし、花園へ居た記憶は六花には無い。

 その代わりに視界の端には何かの権限と誰かの名前が書かれていた。

 本人は気づいていなかったが、その六花の目には農村で見せたような金に輝く光が灯っていた。


 謎の衝動に駆られた六花は頭の中に流れてきたイメージを元に指を鉄砲のように構え、脚を開く。


 ニンナが使用した魔法の残りかすの魔分子を肺に取り込んだ事で農村で撃った時よりも威力が増大した光の筋が六花の指から放たれた。


「聖属性魔法・電磁砲…っ!」


 足元から地面が崩れ、衝撃波が辺りに広がる。


「はぁっ!」


 六花が力を込めると、電磁砲という強い光柱がニンナ目掛けて夜を駆ける。

 白魔道士の身体スレスレで電磁砲は照準がズレ、後ろの巨木に大きな穴を開けた。


 農村時のような激しい痛みはなかったものの、自分の意思で木をも砕く攻撃を人に向けてしまった事に自分で自分を責める六花。


 会場が騒然とするなか、観客の中にいた紗友里が六花と静紅を王様用のテントに呼んだ。



 紗友里と静紅にどうしてあんな魔法を使ったの?どこでその魔法を知ったの?と質問されても、記憶のない六花には何も答えられない。

 そこにあるのは、六花が人の命を奪いかねないレベルの魔法をいつの間にか習得していたという事実だけ。


 その夜は六花1人で考え事をすることになり、とりあえず自分の意思を固める。


「わけの分からない状況ですが、しっかりと受け止めることも大切ですよね」


 結論を出したところで静紅の待っているテントに戻っていく六花の身体には既に、


[環境観察術と電磁砲発射術、身体能力向上、コードアクセス権限]という4つの能力を持つ身体になっていた。



 ・・・・・



「具合はどう?」


 テントに帰った六花は静紅にもたれかかって休んでいる。こうしていると何故か安心するのだ。

 静紅の言葉に大丈夫ですと伝え、瞳を閉じた。


「疲れたら、休んだらいんだよ。ふかふかのベッドでね。今日はたくさんのことがあったよね──」


 その後今日の出来事を振り返っていき、突然六花の耳に口を近づける。


 赤ちゃんのように眠る六花に、静紅は母親のように優しく囁く。



 ──だから、今日はおやすみ。




 ・・・・・



 次の日目を覚ますと、テントの入口に知らない人が居た。


「こんにちは静紅さん!いや、お師匠様っ!」


「はぁ?」


 金髪ロングに引き締まった身体、そして巨乳という3神器を持つ18歳の少女[フレデリカ]が静紅の弟子になりました。


 理由は、六花を心から想うその気持ちに憧れたからなのだとか。

 その割には彼女も静紅が好きで、六花の恋敵にあたる存在。


 彼女はよく言えば元気、悪く言えば天然バカだが、それにはしっかりとした理由があった。



 ・・・・・



 親からの虐待、周囲からの種族差別によって少女の心はボロボロだった。

 北東部にある[氷雪地帯]に住んでいた少女は魔物討伐を必死でして、今日のパンを買う生活をしていた。


 しかし、それも限界が来て、とうとう家出を計画する。

 散々殴られた後、家出を成功した少女だったが、街の道の上で気を失ってしまう。


 エルフの少女を誰も助けようとは思わない。

 なぜならエルフだから。

 たったそれだけの事で彼女の命を助けない理由になってしまう。

 そこで、偶然通りかかった国の王に命を助けて貰う。


 朦朧とする意識の中、王様の温かい心に触れた少女は何かに満たされた気がした。



 目が覚めると、そこは王都にある王邸だった。

 2人の小さなメイドに驚いた少女だったが、


「エルフは…明るくしたらいけないの…?」


 と言われ、エルフの差別は氷雪地帯のみの風習だったことに気づく。


 身寄りのない少女は王邸でメイドとして働く事になり、自分用のメイド服が届いた時には過去のような暗い表情は無く、笑顔で未来を見据える明るい表情だった。


 暗い過去を消し去るため、見えない不安を打ち消すために彼女はいつも明るく誰かに接する。


 ──それで誰かを救うことが出来ると信じているから。



【あとがき!】


総集編はまだまだ続きます!

もし良ければブックマーク、感想、ハートマークよろしくお願いいたします!めっちゃ励みになりますので!


それでは次回もよろしくお願いいたします!

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