ギャモラーの下校
僕はとても緊張していた。だってあの憧れの庄妙さんと横に並んで一緒に歩いてるんだから。
歩いている姿もすてきな庄妙さん。僕はほわわわーだけど……なんで庄妙さんは僕と一緒に帰ろうとしたんだろう? たまたま一緒に帰れそうな人がげた箱に現れたからとか?
普段からおしゃべりなんてしない庄妙さん。一緒に帰ってたってしーんのまま。でも。今こうして庄妙さんが隣を歩いているっていうだけで、僕のどきどきはすごかった。
(な、なにかしゃべった方がいいのかなあ)
「しょ、庄妙さんっ」
声をなんとかしぼりだしたら、庄妙さんがこっちを向いてくれた。
「あー、えとー。バックギャモンすごく強いんだね! たぶん僕は勝ち目ないと思う」
庄妙さんは黙ってこっちを見ているだけだった。
「庄妙さんはどこで鍛えたの? 大会とか出てるの?」
ってあれ、こんな聞き方したら、庄妙さんなんて答えるんだろう。とりあえず庄妙さんは首を横に振ってる。大会には出たことないってことかな。
「やっぱりお父さんとかおじいちゃんが強いとか?」
あれ、そこも首振ってる。
「んじゃお母さんとか、他の家族がってこと?」
おお、うなずいた。
「そっか。僕もおじいちゃんから教わって、お父さんやお姉ちゃんと戦ってるよ。たまに勝つこともあるけど、たぶんこの程度じゃ庄妙さんに勝てないだろうなぁー」
動かし方からして差があるよなぁ、うちの家族と庄妙さんとじゃ。
と、ここであることを思い出した。
「そ、そういえばさ庄妙さん。もし庄妙さんに勝つことができれば、なんでも言う事を聞いてくれるっていううわさとかあったんだけど……まさかほんとじゃないよね?」
やっぱりというか、庄妙さんはおどおどしている。
「そうだよねははっ。あ、確認のために聞いただけだから、僕は勝ってもそんな庄妙さんに命令することなんてないから安心してよ」
ちょっとうなずいてる。
「……で、でもっ。もし。もーし。もし勝てたらっ! そんなきつい命令とかはしないけど……えっとー……」
なんか勢いでちょっと言っちゃったけど……
「……ぼ、僕としゃべって、そして仲良くなってほしい……と、とか、そういうの、どうかな……?」
あれ。これ結局同じようなこと言ってるんじゃ。僕やっちゃったかな……。ほらほら庄妙さんちょっと視線の角度落ちてるし。
「あーーー!! け、結局命令みたいなこと言ってるかな! ほんと! 気にしなくていいから! そ、そもそも勝てるわけないしね! か、勝ちたい気持ちはもちろんあるけど、たぶん庄妙さんがいつものように戦ったら僕なんてけちょんけちょんだよっ」
なんかちょっと焦ってしまったっ。庄妙さんは上目遣いで見てきている。
(話をバックギャモンからそらそうっ)
「しょ、庄妙さんは他に趣味とかってある?」
って僕庄妙さんにしゃべらせてしまうような質問しちゃってるよねこれっ。
「あーバックギャモン知ってたらそれ充分趣味だよね! えーっとじゃあ、い、家はこの近く?」
そこは庄妙さん首を横に振った。
「そっか。僕そろそろなんだー。次の十字路を右に曲がって、ひとつ通りを渡って次を左に曲がったら僕の家なんだ」
紹介してみた。庄妙さんの表情は特に変わらなかった。
(うーん……聞いてみるしかわからないかなぁ……)
「……見たい?」
と聞いてみた。すると
(うなずいた!?)
「み、見たいの?」
庄妙さんは確かにうなずいている。
「じゃあ……うん」
これは庄妙さんの気持ちをわかったということなのかな……?
ついに僕の家の前まで庄妙さんを連れてきてしまった。
「ここが僕の家だよ」
表札にはちゃんと実琴三って書いてある。庄妙さんはじろじろ僕の家を見ている。
壁は白色。シャッターはないけどガレージがある。今は車は止まってない。プランターはお母さんの趣味。普通の二階建て。
(興味はあるのかな……?)
でもそれ以上のことはよくわからない。
「な、ないと思うけど、僕に用事があったら……どうぞ」
いつの日か庄妙さんと休みの日に遊ぶとか…………な、ないかなぁ……。
「…………実琴三くん」
……ん? あれ、なにかな、なんかすごく澄んだ音が聞こえたような? 気のせいかな。
「……実琴三くん」
でも音としてはみことみくんって聞こえたような。ということは僕をだれかが呼んでいるということかな? ちょっと辺りを見回してみよう。うーん今この周りには僕と庄妙さんしかいない。
(………………え?)
僕は。ゆっくりと……庄妙さんを見た。
「中、ちょっと見たい。ご家族の人、会ってみたい。だめかな……?」
う……う、うそ……えっ……? 庄妙さんの口が動いて……。
「ちょ、ちょっ、ちょちょちょっと確認! い、今しゃべったのって庄妙さん!?」
あぁぁっ庄妙さん口に手を添えておどおどしちゃったっ。
「あああっ! もちろんぜひぜひ! さーさどうぞどうぞ! おいしい缶ジュースもあるんだ! ほらほら!」
僕は慌てて黒い門扉を開けて庄妙さんを誘導したっ。庄妙さんは入ってくれて、僕は今度は玄関のドアを開けるっ。鍵開いてるってことはお母さんがいる。
「た、ただいまーっ」
僕のすぐ後ろに庄妙さんが立っているっ。
「おかえり雪太ー」
お母さんと思ったらお姉ちゃんがいた。黄色いシャツに短いジーパン。だいたいお姉ちゃんはいつもこんな格好。
「あれお姉ちゃん? ああそっか高校はテストって言っ」
「ちょ! ちょっとちょっとちょっと!!」
「うわあっ」
お姉ちゃんはとても驚いている! あ、そうか庄妙さんかっ!
「そ、その絶世の美女ちゃんはだれ!? まさか彼女!?」
「かかかのじょぉぉ?! そ、そんなわけないよ! ね、ね庄妙さんっ!」
庄妙さんはちょっと驚いてたけど、ものすごい速さでたくさんうなずいていた。
「そ、そうよねえ! 雪太にそんなかわいい彼女ができるわけないわよねえ!」
「いや間違ってはないと思うけどさすがにそれは言いすぎじゃ……?」
お姉ちゃん笑ってる。庄妙さんめちゃおどおどしてる!
「ところでそんなかわいい女の子連れてきてどうしたのよ」
(さっきから美女とかかわいいとかっ。そのとおりだけど!!)
「たまたま帰り一緒になって、僕の家の近くまで通ったから、ついでに僕の家を教えてたんだ」
「ふーん。あたしの名前は
うわっ。まさかまた声聞けるの!?
「……庄妙字梨、です」
「字梨ちゃんかー。これからもうちに来てくれるのかな?」
僕は思わず庄妙さんを見てしまった。
(っていうか字梨ちゃん!?)
庄妙さんは……あ、僕見てきてる。
「きゅ、急にそんなこと言われても困るかな? ははっ。とりあえずジュース持ってくるから! お姉ちゃん変なこと聞いたらだめだよ!」
僕は靴を脱いでお姉ちゃんの「はいはーい」っていう軽ぅ~い返事を聞きながら、急いで冷蔵庫へ向かった。
僕はジュースを持ってくると、
「お姉ちゃーーーん?!」
「ん? なにも聞いてないよ?」
「だからって頭ぽんぽんしたらだめでしょーがーーー!!」
「なによ文句が多いわねぇ」
僕は庄妙さんの頭に乗っていたお姉ちゃんの手を払うかのようにしっしして、また急いで靴を履いて、
「はいっ」
庄妙さんに缶のメロンジュースを差し出した。
それを両手で受け取ってくれて、笑顔になってくれた。
「ありがとう」
(ああ……もう僕、人生一生分の幸福オーラをもらったかも……)
一瞬気を失いそうになったけどすぐさまお姉ちゃんに顔を向けて、
「ちょっと表まで見送ってくるからっ」
「はいはーい。また来てねー字梨ちゃーんっ」
庄妙さんはちょっとおじぎをした。僕は玄関のドアを開けて庄妙さんを外に出した。
(だめだ。あのお姉ちゃんのそばにいてたらだめだっ!)
「……と、こんな感じ、かな」
僕たちはまた道路に出た。
「ジュース、カバンにしまわないの?」
僕がそう言うと庄妙さんは自分のセカバンに視線を落とした。でもジュースに視線が戻り、僕に視線が戻ってきた。
「あ、ううん手で持ちたいんならそれでいいようんうん」
どうやら庄妙さんは手で持って帰りたい派らしい。
「じゃ、じゃあ庄妙さん、明日っ」
僕はちょこっと手を上げると、庄妙さんもにこっとしてくれた。
どきどきがすごかったので、またまた急いで家の中に戻った。
お姉ちゃんは玄関で立ったままだった。
「ふふん。雪太もやるわねぇー」
僕はなんとも言えない気持ちになったので、急いで二階へ上がった。
そして自分の部屋に入るなりセカバンをぽいっとベッド横に置き、僕自身はベッドへダイブ。
(……庄妙さんが、僕の名前を……呼んだ……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます